残されたもの

「さて、そろそろ片付けるか」


住む人のいなくなった離れの掃除を始めなくては
しかし掃除と言っても彼らは随分と綺麗に使ってくれていたし
整理が正しいのかもしれない

雑渡さんも喜八郎も
ここに暫く住んでいたが荷物は無い
持ち込む事はもちろん、増やす事も無かった

精々生活必需品として購入した数枚の服だけだ


(服はもう少しとっておくか)


雪が溶けたら燃やそうか

綺麗に整頓された雑渡さんが使っていた部屋

おもむろに押入をあけ布団を敷いてみる
そこに寝転がれば嗅ぎ慣れた薬の匂いがした


(…もう会えないか)


せめてさようなら位は言いたかった
出会いも突然だったが別れ際まで突然でなくても良いじゃないか


この布団の匂いが消える頃にはもう少し気持ちの整理もついているだろう


(これって失恋に入るのかなぁ)


我ながらとんだおとぎ話だ


(そういえば、雑渡さんはどうしてあそこだったんだろう)


喜八郎は雑渡さんの掘った穴にいたが
雑渡さんは何もないところで倒れていた

規則性なんてものは実はなかったのだろうか

穴…昔はあそこが墓地なんて事もないし…

いや、待てよ


今の今まで忘れていた

確か、そういえばあそこだった気がする


喜八郎の愛用していたスコップを手に
雪を掘り進める

幸い連日喜八郎が掘り続けていた為この辺の雪は薄い

土が見えるまでそう時間はかからず
もう少しだけ掘り進めると

意外に早くそれにぶつかった


「…よくもまぁ、一人でこんな遊びをしたもんだ」


土の中から出てきたのは古びたクッキー缶

埋めた本人すら忘れていた
タイムカプセル


(てか何入れたんだっけ…
通帳とかだったりしないかな…)


これですべてが繋がった
雑渡さんが倒れていた場所
そこは幼い頃の私が穴を掘ってタイムカプセルを埋めた場所だったのだ

やはり、彼が現れた場所も穴だった


(おもちゃ…の指輪が一つ?)


仮にもタイムカプセルなんだからもっといろいろ入れれば良いのに

これを埋めたのは相当幼かったし別に強い意味を込めて埋めた訳でもなかった為
埋めた事は勿論中身すら覚えていなかった

子供用の指輪

幼い頃の私には大きかったのだろうか
しかし指輪の金具を無理矢理ひろげた跡がある

当時の私はこれを知恵の輪か何かと勘違いしたのだろうか


(…皮肉だなぁ)


どこまでが偶然だったのだろうか

金具の広げられた指輪は子供の指には大きかっただろう

しかし大人になった私の指にはぴったりで
薬指にジャストなサイズときたものだ


「生まれた世界が一緒だったら
この指にはめる指輪をくれたのは貴方だったのかもね」


つぶやいた言葉は誰にあてた訳でもなく

少しだけ

私の声は震えていた