不確定な未来

「なまえちゃん、そのまま見合いでもしに行くの?」

「…やはり、やりすぎましたかね」


少し早めに待ち合わせ場所に行くと既に雑渡さんはそこにいた

そして忍術学園の女子力の総力をあげて作られた私の姿を見て
やはり驚いたようだった


「いや驚いたよ
全身隙がないね、まさかここまでしてくれるとは」

「何というか…忍術学園の力を持ってした結果と思っていただければ…」


斉藤君の髪結いに立花君の化粧
そして喜八郎をはじめとするほか四年生による小物を含めた衣装コーディネートの結果だ

何故そんなにも化粧やお洒落が上手いのかと聞くと
化けるのも忍術の一つだとか

あくまで授業の一環だと言い張ってはいたが
いくら何でも張り切りすぎだ


「待ち合わせ、早く来て良かったよ」

「何でですか?」


早く来た方が時間が多いからだろうか
それとも他に何か用事があったのだろうか


「そんな姿のなまえちゃんを一人で待たせておいたらどんな変な虫が寄ってくるか分かったものじゃないからね」

「…おや」

「君の可能性を見くびっていたよ
凄く綺麗だ、よく似合ってる」


まっすぐ向けられた視線と
言葉で

私の顔に熱が集まるのを感じた


「それじゃあ行こうか」


立ち尽くす私の手をとって
雑渡さんは歩き出した

この時代の町は賑やかで楽しい

私の時代では見られないお店の数々は揃えている品も勿論私の時代とは違い
眺めているだけで楽しいものだ

着物や簪などをこんなにもまじまじと眺める機会は無かったが
この時代でもこれだけ綺麗なのだから日本人の技術とは凄いものだ


「何か買ってあげようと思ったけど
今してる簪とかがあまりに似合っているからすすめにくいなぁ」

「えへへ、この簪は喜八郎のなんですよ」


喜八郎から借りた簪をこうも褒められるとは
この簪に合う髪型、というリクエストに応えてくれた斉藤君の力もあるだろうが喜八郎の事を褒められると私も嬉しくなる


「それ、喜八郎君のなの?」

「え?はい、らしいですよ?」

「…ふぅん、そうきたか」


この簪に何か意味があったのだろうか
あくまで借り物なのだが、雑渡さんは何か考えているようだ


「んー、じゃあ私は紅とかが良いかなぁ」

「わぁ、この時代の化粧品ですね!」


何時の時代も
女性は着飾るのが好きなものだ

結局小さな紅を買って貰った
この時代は貝殻を入れ物にしたりと可愛いものだ

田楽豆腐が評判の店で食事をとり日が沈む頃にはタソガレドキに向かい二人で歩いていた


「これからどんどん日が短くなるなぁ」


私がこの世界にやってきてもう一ヶ月以上になるのだ
そりゃあ火の起こし方位覚えてしまう


夏の終わりに私はここにきて世界はどんどん秋に変わっていく

冬…雪はそんなに降らないだろうが雪と考えるだけでテンションが下がる

…そもそも、私はその頃にはここにはいないかもしれないが


「雪はやだなぁ」

「春が来ればこの辺は桜が綺麗なんだけどもね」

「へぇ!桜ですか」


桜か、実はあまり馴染みがない
北海道は開花が五月であり私の町には桜の木は殆ど無い為桜という花にはあまり関わった事がないのだ


「こちらで桜が咲いても北海道は絶賛雪ですからねぇ
あまり桜って見慣れないんですよね」

「そうか、じゃあ一緒に桜を見られると良いね」


雑渡さんが私の世界に来たのは初夏だった

そして冬の季節に元の世界に戻り
戻ってきたこの世界は秋、か

私はこの人と春という季節を過ごした事が無いという事に今更気付いた


「桜、見られると良いですね」


私は何時までここに居られるか分からない

少なくとも、戻らないという選択肢は私の中には無い

私の存在は本来この世界ではイレギュラーなのだ

それが故に

雑渡さんとのこのやりとりは

ただ不確定で

何だかとても寂しい言葉のやりとりだった