形容するならそれは錆びたような

雑渡さんが
喜八郎が味わったのは

この感覚なのか


慣れない環境でも二ヶ月近くもいれば嫌でも適応してしまう

けれどこの環境を受け入れてはいけない

私はここにいてはいけない


両親は心配しているだろうか
彼らは私達の世界で数ヶ月過ごしたというのに
こちらの世界ではたった数日しか経っていなかったらしいがそれは逆でも適用されるのか

浦島太郎のようになっていたらどうしよう


数日行方を眩ませた娘が突然肌はわずかに焼け

健康的に痩せてしまったのを見たら驚くだろうか


喜八郎の事も雑渡さんの事も私は好きだ

どちらも特別な人だと思う

だと言うのに

最近その存在が
私を悩ませる



雑渡さんは何時も帰宅すると私を抱き締めてくれる

私は特別鼻が良い訳ではない
けれど

違いは分かる


かぎなれた薬以外のこの匂いは何なのだろう

合戦場でした匂いが火薬の匂いで間違いがないのなら
うちの一つは火薬の匂いだろう

けれどもう一つ

時折とは言え
もう一つ私には何か分からない匂いがあった


でもそれは分からないふりをしているだけかもしれない


その匂いはきっと

私にとっても
とても身近な匂いだと思う



雑渡さんはその匂いを纏って帰宅した日は必ず私を抱いた


昔、何かで見たことがある
人間は危機的状況に陥ると本能的に子孫を残そうと性欲が旺盛になると

戦の後の武将などもそれに当てはまったらしいが

忍もそれに当てはまるのだろうか



ああ、今日もまた



鉄の匂いに抱かれるのか