白昼夢

魂はリサイクル制だと言う事が最近判明した

そしてそれは当然のように
雑渡さんの魂も例外ではないのだ



「驚いたよ、まさか東京で会えるとはね」


うぬぼれではなく
路上で話が済む程私たちの関係は浅くない

近場の喫茶店に場所をうつし、向かい合わせに座っている訳だが

別にやましい事をしている訳ではないのに何だか気まずい


「喜八郎君は元気かい?」


私がその気まずく思う元凶について
彼は私に尋ねた


「今23歳ですって、立派に仕事してましたよ
私も見習わないと、っていうか雑渡さんは喜八郎に会ってないんです?」


その喜八郎が私をここに連れて来たと話したらどんな顔をするだろうか

話さなくてはならないのだろうがきっかけがつかめない


「私は平成で喜八郎君には再会してないんだ
でも尊奈門や陣左には会えたから、その時が来れば会えると思ったんだよ」

「そうですか
…雑渡さんは覚えてるんですね」


喜八郎の周りの人間は
記憶まではリサイクルされていなかった

過去の記憶を引き継いでいる人間は喜八郎以外はいない、彼は少しだけ寂しそうに話していたのを覚えている


「私しか覚えていないよ
尊奈門も、陣左も、殿も何も覚えていない
喜八郎君は?」

「喜八郎も覚えていますよ
けど他の子は覚えてないみたいです」


自分だけが覚えているなんて
どんな心境なのだろう

彼と部下はそれこそ共に修羅場をくぐり抜け
あつい信頼関係もあった筈なのに

何故、彼らだけなのだろう


「やっぱりね」

「…やっぱり?」


雑渡さんはある仮説を立てるに値する程の心当たりがあるらしい


「喜八郎君はね、卒業後タソガレドキに就職したんだ
優秀な忍びだったよ、罠に関しては私も敵わなかった」


紫の忍び装束の次はタソガレドキの忍び装束を着たのか
高坂さんや諸泉君も喜八郎のマイペースな性格には苦労したのではないだろうか

それとも大人になった喜八郎は手の掛からない子に育ったか

どちらにしろ、喜八郎の望む結果になったのなら幸いだ


「だから、本当に残念だったよ」


しかし続いた雑渡さんの言葉は
数秒前の私の考えを否定するものだった


「喜八郎君は23歳の時、流行病で息を引き取ったんだ」

「そんな…っ!!」


23歳?
息を引き取った?
そんなに若くして彼はこの世を去った?

言葉がまとまらない
どれから発声すれば良いか分からない

それほどまで
喜八郎の早すぎる死は私には衝撃だった


「当時はそんなに珍しい話ではないさ
それでも、やはり部下を看取るのは辛いものでね」


雑渡さんは部下を看取る事など喜八郎が初めてではなかっただろう
それでも、いかに死が身近になった所で簡単には慣れない

そこは仕事だから慣れたふりをしていたかもしれないが
それでもやはり彼も人なのだ


「死ぬ間際まで、君の名前を呼んでいたよ」


『なまえさん』


喜八郎の声が
頭に響く


「私達が前世の記憶があるのは君への未練からなのかもしれないね
それでも、私は君と過ごした時間が不幸だったとは思わないよ」


脳の処理が追いつかないが
とりあえず、結論として私は彼らの人生にとんでもなく関わってしまったらしい


「今度こそ、幸せにならないとね」


雑渡さんのそれは、誰に宛てた言葉だろうか

喜八郎か
私か
はたまた雑渡さんか

もしかしたらその全員かもしれない


そろそろ行かないと、と雑渡さんは席を立った
ちなみに会計は有無をいわさず雑渡さん持ちになった

自分の飲み物代位払いたいものなのだが

それだけが不服なまま店を出ると
歩いたまま

彼は私に話しをはじめた


「そうだ、彼の元上司として一つ伝えておくよ」


それは
私の知らない
私と別れてからその後の話


「喜八郎君は最後まで人を殺めなかった
忍びとしては甘いかもしれないけど、なまえちゃんを想うとそうしたくなってね」


相変わらず目元しか露出していない雑渡さんだが

少しだけ笑っているのが感じ取れた