焔の記憶

今でも

時折思い出すのは五百年前の事


合戦の調査は授業などでもした事があったが
合戦に参加したのはあれが初めてだった

戦況は火を見るより明らかな程
タソガレドキが優勢

でも僕は勝敗に興味はなかった

僕の目標はただ一つ

火縄銃を扱うとある忍び


なまえさんを撃った犯人ただ一人だったが

それは意外にもすぐに見つかった


「や、やめてくれ…
俺を殺しても情報も何も知らないぞ…」


殺すつもりだった

動機は二つ

なまえさんを傷つけた事
結果僕の見ていた夢はそこで覚めざるを得なかった事

前者は純粋な憎悪
後者は八つ当たりに近かった

少し、実戦経験が早まるだけだ

そう覚悟して振り上げた僕の手をつかんだのは雑渡さんだった


「やめておきなさい、喜八郎君」

「離して下さい」

「なまえちゃんが悲しむよ」


なまえさんが悲しむ

僕の動きを止めるのに
その言葉は十分すぎた


「彼女はそんな事望んでいない
口には出さなかっただろうけどね
君の人生を否定する事になるから」


忍者になると言う事は

時に人を欺き
場合によっては殺める事も厭わない

なまえさんは
僕のそんな近い未来を

受け入れたくなかったのだ


「人は生きていれば嘘はつく
欺く位ならきっとなまえちゃんも許してくれるさ
だから」

「頼む!助けてくれ!!」

「汚れ役は私がやってあげるよ」


雑渡さんが言い終わると同時に

ドサリと

首は落ちた


「私は君と違ってもう数え切れない程殺めてきた
今更一人増えた所で変わらないね」


けれどそれでも
なまえさんは悲しむだろう


「私に出来る事
それは喜八郎君の分まで人を殺める事だ
だから、君はその手を血で染めるな」


勝手な話だ
そんな事本来僕が決める事じゃないか

けれど
なまえさんの悲しむ顔がふと浮かんだ


「雑渡さんだけやり返してずるいです」

「君も何かするかい?」

「よっ」

「おやおや、君は作法委員じゃなかったかな?
作法も何もあったもんじゃないね」


転がっていた首を
全力で蹴った

後にも先にも生首を蹴ったのはこの一度きりだったが

少しだけすっきりしたのを覚えている


「さて、仇討ちも終わった所で後片付けにいこうか
もうこの城は落ちるよ」

「雑渡さん」

「なんだい?」

「タソガレドキの求人
2年後に一枠設けて下さい」

「ああ、分かったよ」


甘えるのは嫌だったが

なまえさんに顔向け出来なくなるのはもっと嫌で


僕が忍びでありながら人を殺めずに済む方法として

タソガレドキ
雑渡さんの元への就職を決めたのはこの時だった