ある日を境に、黒蠅の姿が天界から消えた

驚くべき事に彼は抹消されていたのだ

後に、彼と同じように双子の狛犬も天界の席次からその名が抹消された

仮にも神を消す事となるとは
晴明か、はたまた晴明の両親はとんでもない事をしてくれる


晴明と別れ何年が過ぎただろう
神にとっては一年も百年も変わらず曖昧だが
ある日晴明から一通の手紙が届いた

内容は私に京の都にきて欲しいとの事だった


私たちの関係を狂わせた京に
私は迷う事なく足を運んだ
はて、京とはこんなにも禍々しい都だっただろうか

手紙に記されていた宮殿から漂う空気に背筋が震えた

足を進めれば宮殿の奥には懐かしいが
変わらぬ姿の晴明がいた

やはり彼は人間ではないのだろう
老いる事なく、あの時の美しい青年のままだ


「お久しぶりです、なまえ様」

「変わりないようで安心したよ」


晴明の横にはあの仮面があった
私を何者かと晴明に訪ね、晴明が私の育ての母のようなもので恋人のようなものだと答えれば
お前は本当に母ちゃんが大好きだなと軽口を叩いた

その軽率な物言いと禍々しい風貌が相まって実に不気味だった


晴明は祭りを復活させたいのだと言っていた
三界を一つにしたいのだと

それが自分と父を結ぶ唯一の絆だと


しかしそれを今から晴明の母が阻止しに来るらしい

晴明の母は晴明を産み
そして殺し、もう一度生き返らせたそうだ

晴明とその両親の確執が
私には分からなかった


血の繋がりというだけでそんなにも縛り付けられるのだろうか


「まだ、すべては思い出せません
ですが恐らくですが、私を殺さず、ただ生かしてくれたのは貴方様だけです」


そう言って私に身を預けた晴明は
まるで幼い頃のようだった