「しかし偶然だねー
まさかこんな所で会うなんて」
「うん、今度は二人で来たい」
「そうだね、今度は二人で来ようか」
「楽しみにしてる
そうだ先輩、後で電話して良い?」
「うん、別に良いよ?」
夏の足取りを感じ始めた天気の中今日は沖奈まで出てきた
あまり一人でこんなところまで来る事は少ないが天気も良く風も楽しめそうだったので一人で来たのだが
偶然にも先日から付き合い始めた年下の彼氏にばったり会い
冷房のきいた喫茶店で少しだけ話し込んでいた
お互いの飲み物を飲み終わった所で私たちはそのまま喫茶店の外で別れた
私の用事はあと大型書店だけだが彼は一体何の用事だったのだろう
そんな彼から着信が来たのは用事も終わり
そろそろ帰ろうと思った時だった
「あーまだいたんだー、って花村君に巽君まで
どうしたの皆で?」
「へ?!生徒会長?!」
「先輩何時の間に生徒会長の番号を?!」
呼び出されて駅前に来てみればそこには二年の花村君に一年の巽君
花村君はともかく彼は巽君とまで仲良しなのか
部活の後輩なら分かるが帰宅部の彼とも仲が良いなんて顔が広い人だ
「えーと、鳴上君
どういう事?」
「いや、皆でナンパしようって話になって」
「へーまぁそういうのに興味ある年頃だしね」
高校生にもなれば色恋にも興味を持つ年齢だ
それにもうすぐ学生待望の夏休みがやってくる
青春をより謳歌するには彼女の一人くらいほしくなるのだろう
「でも、俺は先輩いるからいっかなって」
「あぁ、それでナンパ放棄して私と喫茶店に行ったのね」
「へっ?ちょ、ちょっと待てよそれどういう事だよ!」
鳴上君の返事でやっと事の顛末を理解出来た
と同時に私たちのやりとりに花村君は疑問を感じたらしく焦っている
そうか、彼はまだ知らないのか
これは言うべきなのか
どうしたものかと考えているうちに鳴上君に肩を寄せられた
「俺達付き合う事になった」
「こういうのって公表するものなの?
まぁ、そんな訳で色々あってね」
いざこのように紹介されるのはやはり恥ずかしいもので
おまけに人前で少し強引に肩を寄せられたのだからやはり照れる
それに相手は花村君にあの巽君だ
早紀が生きていたら
私もこんな風に彼を紹介してたのかと思うと少しだけ胸が痛い
「まじすか?!」
「ちょっと待て初耳だぞ?!」
「だって言ってなかったし」
「くそー…まさか先を越されるなんて…」
淡々と説明をする鳴上君とは裏腹に花村君が目に見えてわかる程落胆している
年頃の男の子の考えはよく分からないがそんなに悔しいものなのだろうか
「巽君、鳴上君と仲良しだったんだ
最近学校来るようになったのも先輩たちのお陰?」
「まぁ、そんなとこっす
あと中学と違って出席日数とか面倒なものがあるし…」
「あれ面倒だよねぇ」
取り残されたようにしていた巽君に話をふってみたが噂には聞いていた彼はこの短い受け答えから想像していたよりもずっと随分と普通の子のようだ
恐らく喧嘩が強いというのは本当なのだろうがそれが故に噂が一人歩きしている所が大きいように見受けられた
その経験は私もよくある
だからこそ少し彼に同情した
まぁ私は彼がこの二人と仲が良いという時点で悪い子とは思わなかったが
「つまり今日の収穫はゼロか…くそぉ…」
花村君はこの短時間で何度落胆すれば気がすむのだろうか
あくまで本来はナンパをされる側である立場の私にはいまいち理解出来ない
あ、でも世間には逆ナンという言葉もあったか
…いや、やはり私はその立場にたつ事は無いだろう
「そういえば先輩、沖奈までどうやってきたの?」
「私?原付だよ」
「「「原付?!」」」
三人の声が見事に重なった
巽君は違うが鳴上君や花村君だって見る限り原付で来てるじゃないか
「うん、一緒に帰る?」
「え、生徒会長原付もってたんすか?」
「そうだよー通学にもたまに使ってるし」
「ちょっ、初耳っすよそれ!」
「そりゃそうだよ
バレないようにやってるもん」
「生徒会長さんって、結構くだけた人だったんすね」
あぁ
もう何回も聞いた言葉だ
どいつもこいつも
真面目な生徒会長という色眼鏡で私を見る
本当の私を好意的にとらえる人ばかりではない
真面目ぶって、猫をかぶって、所詮内申目当て
何回も聞いた言葉
彼らはそんな事は言わないだろう
けれどやはり真面目だと決めつけられる事は好きではない
真面目に見えるよう心がけてるのに我ながら勝手だと思うが
「やる事はちゃんとやってるんだから良いじゃない
全部真面目は疲れちゃうよ」
「なんつーか、結構意外かも」
彼らは本来真面目ではない私を好意的にとらえているようだ
そういえば早紀もそうだったな
彼女はむしろ最初真面目そうな私をあからさまに避けていた
実際に話してみるとクラスの誰よりも気があったっけ
「自分で言うのもなんだけど私外面良いからねー
さて、私の原付も持ってくるかな」
何回か早紀とも沖奈にきたけど
もっと来れば良かった
映画も見に行きたかったな
一度気にしてしまうと稲羽だけでなく
沖奈でも彼女との思い出がいちいち頭をよぎる
「先輩」
「ん?」
「俺も一緒に行く」
「別に一人でも…」
映画館の前にさしかかった時
後ろからふいに呼び止められた
私を追ってきたその表情は他にも何か言いたげで
気のせいか少し紅潮してるようにも見える
「ほら、その…ナンパされるかもしれないし」
「…そんな心配ないのに」
返ってきた言葉は予想以上に的外れな回答
思わず笑うと
彼も照れくさそうに笑った
「なまえ先輩」
「なに?」
「もっと、色んな所一緒に行こう」
「そうだね。あと私映画も見たいな」
「うん、見たい映画決めといて」