薩摩隼人2

それから時折、鯉登さんとは街で会う度に食事をした。
しかし彼との会話は至る所で苛立ちを覚える。

学がない振りをして嫌味を言うが、その度に彼は慌てて言葉を修正し
私の機嫌を取ろうとするのだ。

嫌味だと気付かない程鈍感なのか、はたまた私が男を立てていると勘違いするおめでたい奴なのか、そのどちらなのかは分からない。

けれど苛立ちを覚えはするが、金持ちのボンボンに嫌味が言える事。
いちいち素直に狼狽してくれる事、食費が浮く事は単純に助かる事から鯉登さんとの時間は総合してみると嫌いではない。

何時も街中で私を目敏く見つけてくる様すら甲斐甲斐しく思う。
今までは鯉登さんを見つけても気にも止めて居なかったが、時折私から声を掛けると彼は分かりやすく喜んでいた。

ただまさかこんな付き合いになるとは思わず、本当は読み書きは疎か何なら最近はロシア語すらも覚えようとしているなんて事は話せずにいて
私は読み書きが出来ないと疑わない彼は毎回紳士的に、私の分まで注文をしてくれるのだ。


*****


「なあ…なまえの方が私より年上なんだし、その鯉登さんと言うのは止めてくれないか?」
「そうですか?では…鯉登くん、でどうです?」
「本当は敬語も止めて欲しいんだが…」
「これは癖みたいなものですので」

私の言葉に彼はそうか…と少し残念そうだ。
どういう訳か、鯉登くんは私と距離を詰めたがっている。

鯉登くんはまだまだ若い、聞けば私より4つも年下な上に金も持っている。
女に飢えているならば幾らでも買えるだろうに、どうして私なのかは未だに理解に苦しむが
どこか楽しんでいる私もいるので、あまり無碍にはしない。

毎回家まで送るという彼の誘いも断り続けているが、そろそろそれ位は許してあげようか。
きっと彼の事だから大喜びで私を送るのだろうし、何とか平静を装うだろうがきっとバレバレだろう。

その事を考えるとその日が少しばかり楽しみに思う。