野宿

「尾形さんと居ると狩りをしなくて良いですねぇ」
「病み上がりの人間に無茶をさせやがる」
「最初に無茶をしたのは尾形さんじゃないですか」

震える夜も明けると、尾形さんが立派な鹿を仕留めてくれた。
流石にあの寒さの中では罠を張る気にもなれなかった為尾形さんに感謝しつつ、私は意気揚々と鹿を解体しながら食事の準備を始める。
連日寒さに震えていたのだから今日こそは暖かい物を食べよう。

「しかしまあ慣れたもんだな」
「これが本業ですので。罠とか仕掛けて回る手間を考えたら解体だけで良いなんて楽なもんですよ」

解体もまあ力仕事ではあるのだがある程度は尾形さんも手伝ってくれるし
何より獲物を狩るのが一番労力がいるのだ。
それをこんなに簡単に狩ってくれるのだから銃様様だ。

私が一人で小樽に帰る、という選択肢が現実的では無い以上尾形さんには働いて貰おう。


*****


「はあ…あったまる…」
「なまえは折角肉が付いてきたんだからよく食えよ」
「…うるさいですねえ」

毛皮を剥ぎ、鹿だったものは新鮮な内に鍋になった。
狩りの醍醐味である鮮度の良い内臓も楽しんでいた所なのに尾形さんに水を差された。
尾形さんはあまり喋らない癖にどうしてこういう話題になると途端に饒舌になるのか。

「お前は尻だけじゃなく胸にもちゃんと肉を付けるんだな」
「…別に良いじゃないですか」

満足な食生活を送っていない自覚はあるのだが何故か私の下半身は肉付きが良い。
鯉登くんのお陰で少しは肉付きが良くなったが私の体は全体で見るとまだまだ貧相ではある。
けれどそれは尾形さんには関係の無い事だと思うのだけれども。

じゃあ私の肉付きを良くする為にもよく働いてくださいよと返せば人使いが荒いなとまたため息をつかれた。

ようやく暖かい食事も取れ、焚き火のお陰でまともに眠れそうだ。
少しばかり肌寒くはあるがウトウトとした始めた頃、尾形さんに抱き寄せられた。

「寒いんだ、寄っとけ」
「はあ」

冬の雪山は焚き火だけで満足な暖を取れる程優しく無い。
なので尾形さんの言う事は間違いは無いし、尾形さんと寄り添うのだってもう何度目かだ。
尾形さんの肩に頭を預け、パチパチと燃える焚き火を眺めながら眠る努力を再開する。

「私達、どこに向かってるんですか?」
「茨戸だ」
「茨戸かー…茨戸と言えばニシンですねえ。ニシンそば食べたいです」
「着くまでの間にしっかり毛皮集めておかないとな」
「えっ。ちょっと待ってください、もしかして尾形さんお金無いの?」

折角気持ち良くなってきてたのにまた現実に戻された。

いや、お金が無いのはきっと嘘だと思いたい。いや、でもどうだろう…。
この人の行いを見るにその言葉は冗談だろうと一蹴は出来ない。

明日からは高く売れる獣も狙って行こう。
しかし尾形さんは兵隊の癖にどうして私みたいなギリギリの生活なんだ。