11
「少年、もしかして親御さんとはぐれたの?」
「……う、うん」
「私もなんだ。一緒に探そうか」
◇
飲み物を買いに行ってくると言って売店に向かったなまえが、いつまで経っても戻ってこない。痺れを切らして最寄りの売店へ足を運んだ。しかし売店の列にも周りの座席にも、なまえの姿は見当たらない。買い終えて入れ違いになったのか、この場所以外の売店に向かったのだろうか。一旦さっきの場所へ戻ろうか、と思った直後、
「……花火?」
大きな音がした。辺りは既に夕暮れの赤色に染まっていた。そんな色の空に浮かんだ花火。何かの催し物だろうか。この遊園地では、時間帯によって路上を使用した着ぐるみのパレードのような催し物を行なっているから、花火が上がってもおかしくはないだろう。
…いや、違う。何故わざわざ夕方に花火を上げるのか。この真っ赤な夕空に花火を上げるなんて聞いたことがない。今の時間では辛うじて色の違いを視認できるが、花火を上げるならもう少し暗くなってからが普通だろう。第一、パレードが行われているなら、大通りがもっと騒がしいはずだ。
思い出す。なまえは火を固められず、花を作ろうとして花火のように破裂させていた。あの動きは先程上がった花火によく似ていた。だとすればあれを打ち上げたのは、なまえだろうか。
先程の場所とは別の方向ではあるが、気になったので僕は花火が打ち上がった方向に向かって歩きだした。
進むたびに人が増えてくる。パンフレットを見る限り、ここは花畑のある広場のはずだ。確かに広い場所に沢山の花が植わっているが、このあたりにいる人々の様子は花を見にきた、という様子ではない。
「あの花火、バーニッシュが飛ばしてたの?」
「うわ、危ないわね…」
話し声が耳に入ってくる。嫌な予感がする。僕は一番の人集りができている花畑の中心へ走った。そして人を掻き分けて、進んでいく。
「おねえちゃんをはなして!」
子供の声がした。
「坊や、もう大丈夫だ、危険なバーニッシュは捕まえたからな」
その場にいたのは小さな男の子と、複数名のフリーズフォースだった。男の子はフリーズフォースの一人に足止めされていて、しきりに誰かを呼んでいる。そして、奥にいるフリーズフォースが片手に持っているのは、
「…なまえ…!」
間違いなく、なまえだった。凍結弾で身体の至る所を氷漬けにされているその姿に、頭が真っ白になる。
「おねえちゃんはきけんじゃない!」
「君には分からないかもしれないが、バーニッシュはとても危険なんだ。だから、このお姉ちゃんは…」
「おねえちゃん、おねえちゃん!」
男の子は必死に声をかけているが、なまえの返事はない。凍って動けないのだろうか、気を失っているのだろうか、ここからでは顔が見えないのでわからない。
助けなければ。なのに、ここに来て足が震えている。自分もあのように氷漬けにされてしまうのを、本能的に怖いと感じている。
「おねえちゃん!まほうつかいなんでしょ!さっきのまほうでたたかってよ!」
魔法使い、と男の子は言った。なまえがそう言ったのだろうか、この男の子がそう思ったのかわからない。けれど、魔法、という表現はなぜか違和感がなかった。炎を口移しされて生き長らえたことも、固めて盾やバイクを作ることも、全て魔法だったと思うと、すごくしっくりくるのだ。
僕には彼女と同じ魔法の力がある。それをどうして使わないのか。足が震えるから、そんな情けない理由で立ち止まっていていいのか。このままではなまえが、いなくなるかもしれないというのに。
熱を集中させる。速く走れて、早く跳べるイメージを固めていく。フリーズフォースにも負けない強度で、絶対に凍らない熱さで。
そして、一気に火をつけて、
「…うおおおおおおああああああああ!!」
なまえのいる場所へ、走り出した。
◇
「……あ、れ…リオ…?」
なまえが目を覚ましたのは、そこから一時間ほどが経過した頃。
「ねぼすけ」
「え、私寝てた?」
「人を放り出して寝る奴があるか」
「ご、ごめんごめん、昨日楽しみで眠れなかったから、かな…」
目を覚ましたことを嬉しいと、安心したと、そう言えなかったことに、またしても後悔した。僕はいつになったら、素直に気持ちを言えるのだろう。
「……うぇ!?ちょ、ちょっと、どうなってるのこれ!?」
「暴れるな、落ちるぞ」
「だ、だって、高っ…」
漸く状況を把握したなまえが狼狽えて暴れ出したので、その手を引いて、落ちてしまわないようにその身体を抱き締めた。
ここは、遊園地に隣接されたホテルの屋根の上。鳥か何かでなければ、誰も来られない場所だ。特に狙ってここに来たわけではなくて、なまえを取り返して、無我夢中で逃げた先がここだったのだ。まさか炎で空を飛べるなんて思わなかったけれど、フリーズフォースを振り切るにはうってつけだった。
「特等席だ」
「た、高いところなら、観覧車とかでも…」
「…苦手なのか?」
「そ、そうじゃないけど!」
そう言う割には、僕の背中に回してくれた手は震えていた。初めてなまえの弱点を知ったような気がする。
「上を見るといい」
ここはいつもの屋上よりも高いからだろうか、星がより近く、沢山見えた。それを見て手が届きそうだと思ったのか、空へと手を伸ばすなまえの様子が、少し子供っぽく見えた。きっとこんなことも、今までしたことがなかったのかもしれない。
「…あのね、リオ」
「何だ」
「…ありがとう」
どのことについての感謝の言葉なのかは分からなかったけれど、悪い気はしなかった。
僕達は特等席で星を眺めて、少しだけ遠回りをしてから帰路についた。
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