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往診や訪問診療は、普通の患者なら歩行困難や要介護等の状況にあるのが大半だ。それに対してバーニッシュの患者は、身体は動くのに家から出られない、という例がかなりある。いつ来るかわからない燃焼衝動、そしてそれが外出時に起きてしまえば、確実に捕縛される。その恐怖によって外に出られなくなるからだ。

「…いっそ、バーニッシュだけの集落でも作った方がいいんじゃないか」
「え?」
「こんな風に、患者の家を一軒一軒回るのは非効率だろう。一般人からの迫害を恐れているなら、いっそ最初からバーニッシュしかいない建物とかに集まっておけば、患者側は家から出られない恐怖も起きないし、こっちも一日の往診も多く処理できる」

院長の診療が終わるのを建物の外で待つ最中、一緒に待っていたなまえに、前々から思っていた意見を述べた。

「んー、それはまあ、出来たらその方がいいかもしれないんだけど、変な噂があるんだよね」
「噂?」
「前に、家をなくして裏路地に集まってたバーニッシュが丸ごと居なくなったんだって。特に犯罪とかをしてた集まりじゃないはずなんだけどさ」

発火が原因で家をなくすと、行政の支援を受けるか、支援の認可が下りなければ、親戚の家を頼るか、スラムなどに行くしかなくなる。行政の支援は、特にバーニッシュの判定が出ている場合、認可が下りにくい。それは再び発火する恐れのある人物に新しい住居の提供をしても、また燃やされていたちごっこになる可能性が非常に高く、バーニッシュの発火で家をなくす人の数が年々増え、全ての人間を支援できるほどの余裕はないからだ。

「で、それがフリーズフォースに連れてかれたんじゃないかーって言われてるの」
「フリーズフォースは犯罪者しか捕まえないんじゃないのか」
「表向きにはそのはずだけど、一般の人が怖いって通報したら、捕まえるんじゃないかな。それが大勢いたら、尚更」

確かに一理ある。僕もバーニッシュになるまでは、バーニッシュの発火は規模はどうあれ危険だと認識していたし、人の目につけば誰でも捕まるものとばかり思っていたのだから。フリーズフォースは犯罪者しか捕まえられないと知ったのはごく最近のことだ。

「だから仕方ないけど、一箇所に集まるのは良くない。フリーズフォースに対抗できるくらい強いバーニッシュがいるか、或いはフリーズフォースが来ないような場所なら、そういう生活もできるかもしれないけどね」

フリーズフォースはバーニッシュ対策のために設立された組織なのだから、今ではフリーズフォースのいない街、というのはほぼないだろうし、来ない場所、なんて言ったら人がいない場所くらいではないだろうか。この時点では、まだ夢のような話だった。

「でもさ、こうも思わない?」
「何だ?」
「いっそ捕まった方が楽なんじゃないかって。ほら、囚人生活とはいえ、衣食住は提供されると思うし。自分から出る火でその衣食住が脅かされてるわけだから、最終的には自首でもした方が、楽なんじゃないかな」
「…君は捕まりたいのか?」
「いや、今すぐにって訳じゃないよ。今は、何とか発火の制御はできてるけどさ、制御できなくなってきたら、周りに迷惑をかける前に…ってこと」

ある意味それは、前に自殺をしようとしていた僕に似た思考だ。発火を抑えられなくなるのが怖いから、周りに迷惑をかけたくないから、これ以上悩むのが嫌だから。僕は捕まるのも嫌だったけれど、僕以外のバーニッシュにも、なまえでさえも、自分の発火で周りに迷惑をかけたくないというのは、常に頭にあるような当たり前の思考なのだと認識した。

「…人の自殺を阻止しておいてよく言う」
「だ、だからそれはごめんって!本当に!無意識だったんだってば…」
「だったら、なまえは僕に生きたいって思わせてから捕まってくれ」

今ならわかる。死にたくなる気持ちがわかるからこそ、あの時僕の自殺を阻止したことを謝罪したんだろう。ただ“綺麗だったから”では済まされないことをしてしまったのだと。だからこそ今現在も僕を家に置いて、家族のように親身に接してくれるのだろう。

「…それ、前から言ってるけど、具体的にどうやったら生きたいって思うの?」
「…それを僕に聞くのか」
「だってわからないし」
「君も生きたくないのか」
「いや、うーん…生きたい、って思うこと、考えたことないなあって」
「じゃあ、なんで生きてるんだ?」
「…それも、ちょっとわからないかも」

話を振った時点で、なまえには答えられないとわかっていた。僕と同じように、どうしようもない現実から逃避したいという思考が常に頭にある状態で、どうやって生きたいと思えるだろうか。

「あ、でもね、生きる意味というか、目標はあるよ」
「何だ?」
「今は、リオが生きたいって思うことかな」
「…僕を目標にしてどうする。というか、それまではなかったのか」
「んー、申し訳ないけど、何となく生きてた感じだから…」

僕の無茶振りが目標になっているのは意外だったが、これでは僕に生きたいと思わせる、なんて当分先だろう。しかし正直なところ、このひと月で生きたい、までは思わないが、死にたい、と思うこと自体は格段に減っていた。理由は何となくわかるが、このことは、なまえには当分言うつもりはない。

「それにしても院長、遅いね。いつもはこんなに遅くないはずなんだけど…」

その時だった。
真上から、硝子が割れる音がしたのは。
 
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