06 


店先に展示されているのは本でよく見たことがある純正品、その奥の列は店員によるカスタム品だろうか。そして向こうに見えるのはカスタム用のマフラー、ハンドル。奥にはホイールも見える。
ここは、間違いなく…

「き、聞いてないぞ!」
「な、何?」
「先に言ってたら!準備したのに!君は!何で!」
「ご、ごめんって、揺らさないで」

バイクショップだったなんて!先に言ってくれたら全財産を持ってきたのに!
どうしようもない感情をなまえの肩を掴んで思い切り揺らすことで発散しようとしたが、まだ興奮がおさまらない。

「…リオ、もしかしてこういうとこ初めて?」
「えっ、い、いや…」
「バイクの雑誌熱心に見てたから、てっきりこういうところ頻繁に出入りしてるんだと思ってた」

バイクについては隠していたつもりだったのだが、まさか見られていたとは。待合室に置いている雑誌の中になぜかバイク雑誌が入っていたのだから、見るしか選択肢はないだろう。まさかあれがトラップだったとは。

「…その、まだ、学生だったから…」
「そっか。じゃあ店長が来るまで好きなだけ見てて」

そう言ってなまえは店の奥へと歩いて行った。好きなだけ見てて、と言われても、どこから見ればいいのかわからない。目が足りない。本やネットで見るのとは全然違う。本物のバイクやパーツは質感や重量感に圧倒される。
特にこのカスタム品、ハーレーのロングフォークじゃないか!店頭にわざわざロングフォークを置くなんてこだわりを感じる。

「お、少年、ロングフォークが気になるか?」
「えっ!?」

背後には知らない男性がいた。見た目は二十代くらいだ。ここの店員だろうか。

「店長こんにちはー」
「あ、なまえお前、その格好ってことはまた抜け出したな」
「やーやーそこは気にせずいつも通りお願いしますって」
「院長に怒られるこっちの身にもなれよ…」

男性はまさかの店長だった。あんなに年若くして店長を任されるなんて、相当実績があるのだろうか。人は見かけによらない。
しかしなまえの扱いを見るに、なまえはここにだいぶ世話になっているようだ。抜け出してくるほどここに入り浸っているのだろうか。僕が来てからはほとんど一緒にいて、一人で出かける様子はなかったのだが。

「で、なんだ、臨時バイトか?」
「あー、今日はそうじゃなくてですね、こっちのリオが用事あるんです」
「…少年、なまえの知り合いだったのか」
「一旦裏でお願いできますか」

なまえがそう言うと、ついてきな、と二つ返事で奥へ案内された。レジ裏の扉を開けると、倉庫のような場所に出た。店先に展示しきれない商品在庫だろうか、それとも店長のカスタム品置き場なのだろうか。ロングフォークのバイクばかりが並んでいる。

「で、なまえが連れてきたってことは、少年もバーニッシュか」
「は、はい」
「で、用事は?」
「え、あ、ええと…」

そうだ。僕はここに普通のバイクを見にきたわけではない。バーニッシュが炎で作る物質のこと、強いて言えばアーマーやバイクのことだ。しかし面と向かってみると、なかなか言葉が出てこない。

「……ば、バイクが、見たくて」

この一言を絞り出すのが精一杯だった。

「おい少年、バイクなら散々見てただろ」
「あ、いや、そうじゃ、なく…」
「バーニッシュサイクルの作り方が見たいんだって。店長できるでしょ?」
「あれを?まあできないことはないが…」

店長の手から火が上がる。それは空中でホイールなどの各パーツを形取っていき、一箇所に組み合わさることでバイクの形になった。

「こっちもロングフォーク…」
「当時乗り回してたのもこいつだからな。慣れちまっててよ」

やはりこの店のロングフォークの多さ、店長のこだわりだったようだ。マッドバーニッシュだった当時からあえて視認性も操作性も悪いロングフォークを使っていたとすれば、既にかなり乗り慣れていることがわかる。

「少年、バイクの構造は把握してるか?」
「は、はい、大体は…」
「じゃあ一つ作ってみろ。この辺にあるバイクをそっくりそのまま作ってみりゃいい」

作ってみろ、と言われても、そんな簡単にできるのだろうか。パーツさえなんとかなれば、後の手順はさっき店長が出した工程で合っているだろうか。それに構造を大体把握しているといっても、バイクを間近で見たことなんてほとんどない。本当にできるのだろうか。わからないけれど、まずはパーツから一つずつ形成してみる。

「…少年、もう火で形作れるのか」
「火を固めるのは何も教えなくてもできてたし、なかなか素質あると思いません?」
「何でなまえが得意げなんだ、お前固めることすらできないだろ」
「まあまあ、もう少しで完成しそうですよ」

パーツを揃えて、なんとか見様見真似で繋げていった。見た目はどうにかバイクに見えるけれど、操作できるかどうかは正直わからない。

「真似て作るのは問題ないようだな」
「は、はあ」
「じゃ、あとは微調整だ」
「微調整…」
「こいつ、シートがこの高さじゃ少年は乗れないだろ」

しまった。作ることに集中しすぎて、乗れるかどうかを全く考慮していなかった。

「それと、繋げる箇所を変えたほうがいい。火がどこから入ってどう車体に循環するかを想像して組むんだ」
「火の循環…ですか」
「ああ。まあ初めてでガワをここまで作れてるんだ、すぐできるさ」

もしかして、褒められているのだろうか。いや、初心者だから優しくされているのかもしれない。けれど、乗り慣れている人にここまで言われると、すごく嬉しくて、くすぐったくて、顔がにやけてくる。そしてすごく、やる気が出てくる。

「よし、じゃあもう一回…」

「て、店長!」

店の入口から、急に店員が顔を出した。切羽詰まった様子で、ここで見る限りでも顔色が悪い。

「あ、どうした?」
「今、表に……うわっ!」

そして話をする間もなく、店員の身体が凍りついてその場に倒れた。テレビで見たことがある。凍結弾だ。

「おい、少年は今出したバイク消して隠れとけ」
「え、え?」
「厄介なのが来た、話つけてくる」

店長はいつのまにか参考用に出していたバイクを消していて、そのまま臆することなく店へと出て行った。

「ほら、リオ早く」

なまえに促されて漸くバイクを消し、倉庫の隅に隠れた。店からは複数人が揉めている声とともに、銃声が聞こえる。

「…………」

何が起きたのか全く把握できなくて、怖くて身体が震えてくる。凍結弾なんて持ってるのはフリーズフォースやレスキュー隊くらいしか思い当たらない。この辺りで火事があったとしても、この店自体は燃えていなかった筈だ。じゃあなんで凍結弾を持った人物がこの店に?僕達を捕獲しに来たのか?店長が厄介な奴って言っていたのは、今いるみたいな奴らが何度も来ているということなのか?

「リオ、落ち着いて、大丈夫だから」

動揺している僕に気がついたのか、なまえは僕の背中を撫でてそう言った。僕はどうにか目の前にいるなまえの腕を掴む。震えが少しだけ治まってくる。なまえはこの状況に慣れているのだろうか、いや、慣れなければならない境遇にあったのか。落ち着いた様子で店への入口を真っ直ぐ見据えている。何より、僕の方がなまえより年上でしかも男なのに、しっかりしなきゃいけないのに、すごく情けない。

「…おー、なまえ、悪い」

暫くすると、なまえを呼ぶ店長の声がした。顔を上げると、入口から店長が此方へ向かってくる。

「伸びてる奴らの救護頼むわ。悪いな、抜け出してるのバレちまうけど、院長に連絡してもいいか?」

店長の片腕が凍りついていた。先程やられたのだろう。

「早く連絡して!というか休んで!」
「おう。そこで伸びてるのと、店先の二人だ、よろしくな」
「リオ、ごめん、ここで待ってて」

僕が掴んでいた手を振り払い、なまえは入口に倒れている店員に駆け寄った。

「少年、そこの電話、取ってくれるか」
「あ、は、はい!」

棚の横で座り込んだ店長に、僕は置いてあった受話器を渡した。凍りついて動かない腕を溶かす様子がないので、隣に座って腕に火を当てた。

「すまないな、こんな時に」
「い、いえ」

程なくして、受話器から微かに声がした。店長が話し始めると、電話の向こうで院長が怒っている声がここからでも聞こえた。すぐに飛んでくるだろう。
漸く氷が溶けてきたところで、なまえはどうしただろうか、と店の入口に目を向けると、

「……え」

僕は頭が真っ白になった。
なまえの唇が、倒れていた店員の唇に触れていたからだ。
 
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