09 


僕達には怖いものがあった。

「あ、今後ろに……ひっ!」
「え!?やだやだやだ見たくない見たくない!」

テレビから顔を背けるように、君は自分の顔を僕の胸に埋めて抱きついてきた。僕はその身体に腕を回して、君の髪を撫でる。

「だ、大丈夫、だよ…映画なんだから、画面から出てきたりしないって」
「へ、変なこと言わないで!」

本当は、僕はあまり怖くないと思うのだけれど、君と一緒でいたいから、少しだけ怖がっているふりをしている。それに、怖がるふりをすると、お互いがお互いを守ろうと、或いは縋ろうとして、君に触ってもらえるし、僕も君にどれだけ触っても、変に思われない。

「だ、だから、大丈夫だって…」
「そんなこと言って、リオだって心臓の音すごい速いから怖いと思ってる癖に」
「うう…」

僕の心臓の鼓動が速くなっているのは、君に触れているから、なんていうのは、当時の僕にもわからなかった。

「もうやだ、もう寝ようよ」
「え…寝るの?寝られるの?」
「うっ…暫くは無理だけど…リオも一緒に寝るなら平気だもん」
「……そっか」

今は同じ気持ちじゃない筈なのに、怖がって怯えている君が、可愛いと思えてしまうのは何故だろう。





作戦内容が漸く固まり、殆どの先遣部隊が現地調査に向かった。予定では現地の構造が送られてくる頃合いなのだが、調査が難航しているのか、どの部隊からも連絡はまだない。長引けば先遣部隊の存在を勘付かれる可能性が高い。そろそろ僕達もここを離れ、現地に向かわなければならない。

「…………」

僕は今、彼女の部屋の前にいる。今まで彼女が僕の部屋に来ることは何度もあったが、僕がここに来るのは初めてだった。
あの日から今日まで、以前離れていた日数には満たない。しかし今日、僕が触れなければ彼女の火はここを離れている間に燃え尽きてしまう可能性が高い。それを解決するには、こうするしかなかった。

「入るぞ」
「……!」

最低限の家具を運んだだけの、私物などほとんどない部屋だった。彼女が僕を見る。その目は明らかに、恐ろしいものを見るような目だった。彼女は僕を見て怯えている。

「…や、やだ…こないで…」

一歩一歩、彼女へと歩み寄ると、彼女は後退り、拒絶の言葉が耳に届く。すごく胸が痛い。やり直せると思ったのに、こうなりたくなかったのに。彼女に記憶があるなら、最初からこの対応で当然だったというのに、この対応こそが僕の自業自得だというのに、傷ついている自分がいた。
僕はそのまま彼女を壁際まで追い込んで、頰に触れて

「や……っん…!」

口づけた。その感触は以前のまま、体温を感じる。彼女は無事だ。当たり前だ。先程も自立して喋っていたのだから。
そのまま、舌を入れて火を吹き込む。彼女は震える手で僕の胸を押して、明確な拒絶を示す。僕はその手を退かさず、彼女の髪を優しく撫でた。彼女は既に僕を嫌い、僕に触れられたくないのはわかっている。だけどせめて、少しでも落ち着いて火を受け取れるように。僕はただ、離れている間も君に生きていてほしいだけ。

「…………」
「…………」

唇を離すと、泣いている彼女と目が合う。頰を赤らめて、潤んだ瞳で僕を見上げるその表情が綺麗だと思った直後、自分を律した。少し気を抜くと、また意識が遠のいて以前のように身体がいうことをきかなくなりそうだからだ。

「……どう、して…」

彼女は問いかける。今の僕が何を言っても、言い訳にしかならないだろう。本当はもっと見ていたいし、出来ることなら弁解したいけれど、彼女にとっては僕がここにいるというだけで迷惑だろう。どうにか堪えて、彼女から手を離した。

「……すまなかった」

そして踵を返し、彼女の部屋を後にした。





「ボス、用事は」
「片付いた。状況は」
「目星はついています」
「わかった、行こう。今日、実行に移す」

僕がここを離れている間、彼女は無事に生きていられるだろうか。もし失敗して僕がいなくなっても、彼女は生き続けられるだろうか。後ろ髪を引かれる思いを抱いたまま、僕は村を後にした。
 
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