10.5 


目が覚めると、身体が軽かった。それまではずっと身体が重くて、起き上がることすらできなかったのに。こんなに動けるのは久しぶりだ。
理由はわからないが、立ち歩いても平気になったのだ、すぐに仕事に復帰しなければならない。支度をして仕事場に向かうと、私の姿を見て驚きつつも出迎えてくれた。

「本当によかったよ。ボスの火が間に合ったんだね」
「え?」
「昨日、ボスが収容所にいた仲間たちを連れて帰ってきたんだよ」
「あんたの話を聞いてきてさ、ちょっと話したら飛んでいって」

ボス、間違いなくリオさんのことだ。リオさんが私に火を与えたから、私は目覚めて動けるようになった、この人達はそう言っている。

「前の崩落で落ちた時から、心配だったんだろうね」
「ああ、誰が火をやっても駄目だったのに、ボスが火を与えたら、身体が戻ったんだからね」
「出先でも相当心配してただろうね」
「本当に無事でよかったよ、ボスもあんたも」

崩落のことは覚えているけれど、落ちた後の記憶は途切れていた。目を覚ますまでの間は何があったのかはわからない。もしこの人たちが言っていることが本当なら、私はリオさんに助けられて、部屋に運ばれたことになる。あの時、私の服を脱がせていたのは、身体の様子を確認するためだったのだろうか。いや、だとしたらあんな風に揉んだり、口に含むなんてことはしなくていいはずだ。
でも、それ以外の行動は全部辻褄が合う。長く留守にする前に強引に口付けたのも、帰ってきてすぐに私の様子を見に来たのも、私を生かすため、ということになる。

「…………」

思い出すのは、最初に彼に助けられた日の夜。彼は「僕を覚えていないのか?」と言っていた。私に覚えはなくとも、彼は私を知っているようだった。そして、彼から離れるように決めたあの日のこと。眠っていながらも、無意識に「好き」と言っていた。あれがもし、本当に、私に向けてのことだとしたら。不自然に身体を触っていた理由も、崩落の後の行動も、裏付けることにならないだろうか。
私は、彼と顔見知りだったのかもしれない。もしかすると、とても親密な関係の。
彼は、今までどんな思いで私を見ていたのだろう。自分のことを忘れてしまった私を見て、辛かったに違いない。それでも、私を助けるためにこの村に連れてきてくれて、沢山のことをしてくれた。崩落の後にあんな風に触ってきたのは、私が彼を忘れる前、そこまでするような間柄だったのかもしれない。それまでずっと、自分のことを忘れてしまった私のために我慢していたなら、触れたかったとしてもおかしくないはずだ。
だとしたら、私はとても酷いことをしてしまった。あの時、やめてほしいと拒絶してしまった。怖くても受け入れるべきだった。彼に触れられると火が出て、いつも何かを思い出せそうだったのだから、今度こそ彼のことを思い出せたかもしれないのに。私は彼のことを忘れた上に拒絶して、深く傷つけてしまった。

私はその日の仕事を終えた後、彼の部屋を訪ねた。しかし、見回りで不在だった。いつ戻るかはわからないとのこと。せめてどの時間帯なら戻ってくるのかを聞いてみたけれど、多忙でわからないという。次の日も、その次の日も不在だった。どんなに日を改めても、彼の姿を目にすることはなかった。
途方に暮れた。ここに来た時から気づいていたじゃないか。彼はここのボスであり、身分が違うのだ。そして、今まで彼は無理をして私に会う時間を作って練習に付き合ったり、火を与えてくれたことを改めて自覚した。そこまでの恩恵を受け取っていながら、私は何も返していなかった。それどころか、拒絶をしてしまった。彼を傷つけてしまった。
だからこそ彼に謝罪をしなければならない。何も返せていない対価を、払わなければならない。
 
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