13.5
怖くない、と言えば嘘になる。
彼には何度も口付けられた。強引に口付けられることもあった。火の受け渡しが必要とはいえ、身体は固定され、口内には舌まで入れられて、苦しくて何度意識をなくしたことだろう。
同意なしに私の服を脱がし、身体に触れられたこともあった。誰にも見られたことのない場所を見られて、触れられて、怖くて仕方がなかった。
「…すき…すきだ…」
でも、今の彼の姿は、大人がしている行為というより、子供が自分の大事なものに縋っているように思えた。触れられても不思議と怖くないのは、彼の様子がそのように思えるからなのか、私が覚悟を決めたからなのかはわからない。ただ現在の状況で把握できるのは、彼にとって以前の私は、大事なもの、だったのだと思う。
彼が触れるその対象が今の私であることを、とても申し訳なく思った。彼にこんなにも大切にされていたなら、どうして私は思い出せないのだろう。同じ名前で同じ顔の別人ではないかと、最初はそう思ったけれど、親戚に同じ名前なんて聞いたことがないし、幾ら血筋が同じだとしても、全く同じ顔なんて早々現れることはない上、覚えてもいないなんてあり得ないだろう。何より彼が私に、何の関係でもない相手にすることではないことを何度もしている時点で、面識がある以上の間柄だったということは容易に予想できた。普段の礼儀正しい彼とは、あまりにも違う行動をしているのだから。
黒く染まってしまった彼に触れられると、あまりの熱さに溶けてしまいそうだった。それでも火傷のような痛みはなく、彼が言っていた“触れるだけで幸せ”で“傷つけたくない”というのを、如実に表しているようだった。
「あ、あ…!」
すごく、熱い。
いつも口から吹き込まれているような熱が、下腹部に入ってくる。内臓が溶けてしまうのではないかと思うほど、熱いものが私の中を弄っている。
「…ひとつに、なりたい」
彼はそう言った。私の了承など得ずにするものだとばかり思っていた。それでも彼はそれをせず、私の返事を待っていた。泣きそうな顔をしていた。彼はきっと私が断るものだと、嫌がっているだろうと、そう思っているからだろう。
「……わたしで、いいなら」
私はそう言った。覚悟はしているし、断るつもりもなかった。けれど、彼が本当に求めているのは私ではない、記憶をなくす前の私だ。今ここにいる私は代替品でしかないのだ。だからせめて、彼の意思でどうするかを決めてほしかった。
「……すまない」
謝罪の言葉の後、先程よりも太くて熱いものが、ゆっくりと身体の中に入ってきた。彼を不快にさせないよう、声はできるだけ抑えようとしているのに、あまりの痛みと圧迫感に、耐えられず声が出てしまう。
「…全部、はいったよ」
「……ぜん、ぶ」
「これで、一緒だ。僕たちは、ひとつになれた」
奥まで貫いたまま、私の身体に抱きついてきた。
「…すごく、嬉しい」
私の髪を撫でて、そう言った。
「…動かない、んですか?」
「苦しく、ないのか?」
「…私は、大丈夫ですから…もっと、し、て…っ!」
私の返答を聞き終える前に、唇を塞がれた。そして私の腰を両手で掴んで、動きはじめた。
奥を突かれると、熱とともに電流が走るような刺激が一瞬で全身に伝わって、意識が飛びそうになる。
「…すき、すき、ごめん、すき…!」
好意と謝罪の言葉を繰り返していた。彼は未だ、この行為が一方的なものと思い込んでいるのだろう。私が昔の私ではないから、前の貴方を知らない私だから、謝罪しているのだろう。その“すき”の対象が私だったら、どれだけ良かっただろうか。彼は私を見ながら、私を見ていない。
「っあ、あ、っで、出、る…っ!」
身体の奥で熱が弾けて、自分の身体に染み込んでいくような感覚だった。出した後も何度も奥に打ち付けて、出し切ろうとしていた。その顔はすごく嬉しそうに見えた。私は漸く彼の役に立てたのだと、そう思えた。彼が私を見ていなくても、私が役に立てたのだと。
「…もっと、したい」
私のお腹を撫でながら、彼はそう言った。
「…たくさん、してください」
いっそこのまま抱き潰して、何もわからないくらいに壊してもらえたらいいと思った。そうすれば、今の私が求められていないことも、全部忘れてしまえると思うから。
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