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私達はいつも一緒だった。
生まれた日や見た目に始まって、好きなもの、やりたいこと、考えていること。何から何まで一緒で当たり前だった。
でも、私達は抑も性別が違っていた。リオは男で、私は女。当然、家を継ぐことになるリオが何よりも優先される。勉強のダメ出しをされるのはリオだけ。父さんの仕事について行けるのもリオだけ。私が気にかけられることがあるとすれば、精々どこかで怪我をした時程度で、普段は気にも留められない。
だから、リオと入れ替わる遊びをしたい、と提案した。そうすれば私もみんなに気に留めてもらえると思ったからだ。実際に着替えを取り替えてみれば、そこに自分がいるかのように、鏡合わせのような姿のリオが目の前にいた。同じ顔をしているのだから、当然だった。
リオとして過ごす時間、誰も彼もが私を見てくれるのが嬉しかった。けれど同時に、リオが周りの視線が辛いと話す理由もわかった。リオは何でもそつなくこなせる子だと思われているから、人前で失敗は許されないのだ。勉強も習い事も、一度もやったことのない分野でさえも、何から何まで過剰な期待をされる。そんな環境下にリオはいたのだ。私は自分の立場がどれだけ楽な事かを思い知った。そして、折角兄妹として生まれたのだから、少しでも手伝いたいと、そう思った。
授業に出られないなら私が授業内容をまとめて、風邪を引けば看病をして、悲しいことがあればずっと隣にいて、泣き止むのを待った。リオが喜んでくれるのが嬉しかった。ただそれだけのために支え続けた。

リオに婚約者ができた。相手はとても優しくて気が利く人だった。だから、この人がリオを幸せにしてくれるのだと信じて、私が知っている限り、ありったけのリオのことを教えた。家に二人がいる時は、私はできるだけ離れて、二人きりにさせた。最初はぎこちなく話していた二人も、自然に話せるようになった。これでいいと思った。思っていた。
気がつくと、私のやりたいことが何もないことに気がついた。今までずっと、リオを支えることしか考えていなかったからだ。その役目はもう婚約者のもので、私は既にお払い箱なのだと漸く気付いた。
怖くなった。リオがいない私は何なのか、わからなくなった。今まで、リオが幸せなら私も幸せだったはずなのに、リオは幸せになったはずなのに、私は何も満たされなくなった。だからこんな私をリオに見せたくなくて、距離をおいた。学校の通学も時間をずらし、必要がなければ部屋から出ないようにした。幸い、リオにはもう婚約者がいるのだから、じきに私の存在なんて忘れるだろうと、そう思っていた。

ある夜、リオが突然私の部屋に入ってきた。今更何しに来たんだと、追い返すつもりだった。けれど、

「暫く話してないから、寂しかったんだ」

リオがそう言ったことで、私は気がついた。

「そうなの?私もちょっと寂しかったんだ」

私のこの気持ちは、リオと同じ、寂しい、という気持ちだったのだと。それがただの気紛れだとしても、リオが私に会いにきてくれたことが、少しでも同じ気持ちでいたことが嬉しかった。

それから毎晩、離れている間にあったことを沢山話した。学校であったこと、仕事先であったこと、自分が知らないことだらけだったけれど、良かったね、怖かったねと、一つ一つの出来事に対して思うことは、殆ど一緒だった。それがとても嬉しかった。
夜に会いに来てくれると分かっていると、例え昼間一度も顔を合わせていなくても怖くなかった。寧ろ、リオと話すことを探しに行けると思うと、一人でいることでさえ楽しくなっていた。

そして、そんな日々が続いて、数週間が経った頃だった。

「お願いだ」

リオが私に、性行為の練習をさせてほしいと言ってきた。何かの間違いだと思った。二人の仲が縮んでいるなら、それこそ婚約者のあの人に頼めばいいことだ。けれど婚前交渉はできないから、せめてそれまでに会得したい、という理由だった。

「君しか頼れないんだ」

断れなかった。今までリオの支えになることだけを考えていた私に、断るという選択肢はなかった。

もう数年は見ていなかったリオの身体は大きくて、硬くて、本当に性別が違うのだと思い知らされた。対して、私の身体はそこまで発育が良いわけでもない。申し訳なくて縮こまっていると、頬に触れられて、唇を重ねられた。キスなんてしたのは、もうずっと前のことだ。それも触れるだけのキスしかしたことがなかった。この日のキスは、そんな家族が挨拶のためにするものではなかった。口の中にぬるりとしたものが入ってきて、私の舌に絡んできた。息が苦しくて、意識が飛んでしまいそうだった。これが恋人にするものなのだと、リオが普段、婚約者にしているものなのだと理解すると、さらに胸が苦しくなって涙が出た。リオは今、私を私ではなくて、あの人だと思ってしているのだと理解した。
それからは、できるだけリオを不快にさせないように振舞った。できるだけ声を出さないように口を閉じて、痛くても我慢した。

「…本当に、するの?」
「……ああ」

前に見たのはまだ子供の頃だったから、知らなくて当然なのだけれど、リオのそれがあんなに大きいなんて思っていなかった。これが自分の身体に入るのだと思うと、流石に怖かった。けれど、引き受けたからには、我慢しなければいけない。

「…っい、たぁ…!」

下腹部から全身に痛みが走った。そのまま大きくて熱いものがゆっくりと、確実に自分の中に押し入ってきた。その度に痛みが増幅し、声も抑えられず、もう壊れてしまうのではないかとさえ思えた。そんな折、リオが私の頭を撫でて、紛らわそうとしていた。大丈夫だよ、僕が一緒にいるよ、と、耳元でずっと囁いていた。今だけ、痛みを訴えた私に言っているのだと思うと、嬉しくて仕方がなかった。本当の相手になるはずのあの人に対して、あの人を思っているはずのリオに対して罪悪感はあったけれど、私に向かって発せられるリオの声は、例え別の誰かの代わりでも、どんな激痛でも耐えられると、そう思えてしまった。だから私は、動いてと、リオの好きにしていいと、そう伝えた。

「っあ、あ、リオ、きも、ち…」

リオは私の腰を掴んで、何度も奥に打ち付けた。その度に私の身体は電流が走るように刺激され、頭は真っ白になり、何度も意識が飛びそうになった。私は必死でリオの背中に腕を回して、意識が飛んでしまわないように抱きつくと、リオはそれをどう受け取ったのだろうか、奥に打ち付ける速度が急に速くなった。
そして、あまりの刺激で腕の力が抜けてしまいそうになった頃、お腹の中に熱いものが吐き出された。

「……なか、あ、つい…」

それでもリオは、奥に打ち付けるのをやめようとしなかった。すっかり気が抜けてしまった私は、されるがまま声を上げた。いつしか、リオが奥を打ち付ける感覚と、何度も出される熱だけしか、分からなくなっていた。その間、リオが私の名前を呼んでいるような気がした。だから私は、できる限りリオの名前を呼んだ。きっとリオが呼んでいるのは私の名前ではなくて、あの人の名前なのだとわかっている。私の名前のように聞こえるのは、意識が遠のいている私の願望がそう変換しているだけだ。だけどせめて、リオにはあの人の夢を見させてあげたいから、必死にリオを呼び続けた。

そして気がつくと、私とリオは裸のまま、ベッドで身体を寄せ合って横になっていた。私の髪を撫でて、まるで愛おしいものを見るような優しい顔をして、私を見ていた。リオのこんな顔を見たのは、初めてかも知れない。きっとあの人には、いつもこんな顔しているのだろうと、ぼんやりと思った。

「…り、お…?」

私が名前を呼ぶと、嬉しそうに笑いかけて、触れるだけの口付けをされた。

「僕、嬉しいんだ。こんなに同じ気持ちになれること、初めて知ったんだ」

髪を撫でていた手が、今度は私の腰を撫ではじめた。

「だから、これからもこうやって君と一つになりたい」

リオはそんなにもあの人のことが好きなんだ。ここまで大切に想っているなんて、やっぱり私で練習なんてしなくても、本人に頼めば良かったのにと、そう思った。夢中になりすぎて、私をあの人だと思い込んでいるみたいだけれど、目を覚まして貰わなければ。

「それは私に言うんじゃなくて、■■■さんに言わなきゃ」

私は腰を撫でているリオの手を掴んで、リオの胸元に押し返した。そしてすぐに手を離す……ことは、できなかった。

「……リオ?」

リオに腕を掴まれた。その私の手を、リオの両手で覆われる。縋るような目で、私を見ている。

「違うよ、君に言ってるんだ」
「え…?」
「僕、なまえともっとしたいんだ」

その発言に混乱した。あの人じゃなくて、私としたい、なんて。それはつまり、最初からあの人のことじゃなくて、私だと思ってしていたということなんだろうか?撫でてくれたのも、囁いていたのも、あの愛おしそうな表情も、全部、私に向けてのものだというのだろうか?

「…それは、駄目だよ」

そんなことがあってはいけない。私は、ただ役に立ちたかっただけだ。私にはそんな感情なんてないはずだ。

「どうして、だって君もドキドキするって、気持ちいいって言ってたじゃないか。僕、嬉しかったんだよ。僕の好きにしていいって言ってくれて。それくらい僕としたかったんだよね?」
「■■■さんのためじゃなかったの?」

聞きたくなかった。これ以上リオの言葉を聞いてしまったら、自分が自分でなくなってしまうと思った。私がリオの役に立ちたいと思っていた理由は、そんな感情によるものではなかったはずだ。ただ純粋に、リオに喜んでもらいたかっただけだ。

「私は、リオがしたことないから、練習したいって言うから、手伝っただけだよ」
「でも、僕は君が」
「私は、そんなつもりで、したわけじゃ…」

リオが私にこんな感情を抱いてしまったのは、私が性行為の練習なんて引き受けてしまったからに違いない。最初から断れば良かったんだ。そもそも、兄妹で性行為をするなんて、おかしいことじゃないか。

「婚約は辞退する」
「そんなの、駄目だよ」
「父さんたちも僕が説得する、原因は僕なんだ、向こうの家にも不都合のないようにするし、何も心配はない」

何を言っているのかわからなかった。そんなことをしたら父さんも母さんも怒るに決まっているし、相手方にも失礼極まりない。仕事の取引相手である家との婚約解消なんてすれば、父さんの仕事にも大きく支障が出るだろう。そんなことがあってはならない。リオが今まで家を継ぐために頑張ってきたことが水の泡になってしまう。私のせいなのか。私が存在していたから、支えてきたから、リオが狂ってしまったのだろうか。

「…ほら、気持ちいいのは僕達が同じ気持ちだからだ」

リオが私の身体に触れてきた。胸を揉みしだいて、腰を撫でられて、首筋を舐めてきた。拒否しなければ。例えリオが望んでいることでも、やってはいけないことがあるはずだ。

「…もう、やめて…!」

リオの身体を両手で押し退けようとするけれど、びくともしなかった。きっとこの行動が気に食わなかったのだろう、もっと距離を詰めて、厭らしく触れてくる。
私はそんな感情なんて持っていない。持ってはいないけれど、リオがしたいのなら、リオが喜んでくれるなら、受け止めるべきなのだろうか。どうするのが最善なのかわからなくて、ひたすら拒否を続けた。

「……黙れ」

何度「やめて」と伝えた頃だろうか。リオに腕を掴まれた。物凄い熱が伝わってきた。刺すような痛みが、私の手を掴んで離さない。

「…あ、はは、丁度いい」
「……え」
「これで、これで僕に問題があると証明できる。僕がバーニッシュだから、婚約も、家督も、全部」

顔を上げると、リオが狂ったように笑っている。そして私の手を掴んだリオの手から火が出ていた。熱かったのは、リオの手が燃えていたからだった。

「熱い、あつ、い、離して」
「え?」
「痛い、熱くて、痛い…」

やっと私が痛みを訴えていることに気がついたリオは、急に顔を真っ青にして手を離した。掴まれていた場所は、表面が焼けて赤く爛れてしまっていた。

「…や、いやだ、いやだ!やっと、やっと一つになれたのに」

リオが泣き出した。泣いている姿を見るのは、子供の頃以来だ。それも、こんなに感情を剥き出しにして泣いているなんて、今までほとんどなかったはずだ。

「君に、君に触れられないなんて、こんな、こんなひどいこと…!」

リオにとって、私に触れられないことは余程耐えられないことのようだ。どうしてだろう。今までだって長く離れていたじゃないか。今日のことで私の身体に触れることにはまった、なんて程度の理由では説明がつかない。

「…リオ…?」

もしかすると、リオは今日よりもずっと前から、私を妹ではなく異性として、恋愛感情を持っていたのかもしれない。そしてそれが今日叶って、今日、二度と触れられない身体になってしまったのではないだろうか。

「…ごめん…僕…僕は…」

そして、今まで私がリオを支えようとしてきた行動の全ては、リオが望んでいたことではなかったのではないか。家を継ぐことも、そのために仕事や勉強を叩き込まれることも全部嫌で、解放されたかったのではないか。私はリオを支えているつもりで、その逃げ道を塞いでいただけなのではないだろうか。

「一緒が、良かったんだ…なまえと、ずっと一緒が、良かったのに…」

リオの願いはこんなに簡単なものだったのに、私は今までずっと近くにいながら、そんなことにすら気付けなかったなんて。
 
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