唐松に寄り添って - 春風
“例のあの子”の観察日記

視点:ジャッカル桑原


部活中、珍しく真田が「む、すまん」と言って、俺とのラリーの手を止めてベンチの上に置いている電話に出た。そして、いきなりキョロキョロと辺りを見渡すと、「仁王め…部活をさぼるとはたるんどる!蘭、そやつにそこで大人しく待っておくように言っておけ!」と電話口で怒鳴るなり、幸村に断りを入れて校門の方角へと全速力で走って行った。さっきからいないとは思っていたが、うわあ…仁王哀れだな…。

つーか、そんなことはどうでもいい。今、真田の口から出た「蘭」って、昨日の部活とか今日の朝練で話題になってた、真田の幼馴染の女子生徒だよな?それに赤也と同じクラスだっていう、今テニス部レギュラー陣の間でちょっとした話題の“例のあの子”。


「ジャッカル、真田の奴どうしたんだ?」
「ああ…仁王が練習抜け出したのを、電話で真田に告げ口したらしい」
「うわあ…仁王哀れだな…」

相変わらずグリーンアップルのガムを膨らましながら、ブン太はケラケラと笑った。お前それ絶対思ってないだろ。


「つーかよぃ、真田に告げ口するなんて誰だろうな?」
「あー…何か蘭っていう女らしいぞ」
「あ〜…確かにアイツならやり兼ねねぇな〜」
「え?お前、その女のこと知ってるのか?」
「おう!この前ちょっとだけな!」


オイ!この前って何だ、ちょっと気になるじゃねーか!
そう言おうと口を開いた、その時だった。


「ねえ二人共。随分と楽しそうだけど、一体何の話をしているんだい?」
「「げ」」

いつの間にか、俺らの背後にはジャージを肩に羽織った幸村が腕組みをして立っていた。上機嫌そうにニコニコと浮かべられた笑顔が、逆にとても恐ろしい。


「あ、ああ幸村くん。そ、その…」
「……」
「と、遠山蘭って女、可愛いのか?……って、ジャッカルが!」
「俺かよっ!」

すると、幸村のその笑顔が、ヒュッといきなり引っ込められた。えええええ!無表情の幸村むっちゃ怖ぇ!!

すると幸村は、俺へと視線を向けたまま、その端正な口元に薄く笑みを浮かべた。


「うん、彼女凄く可愛いよ。でも、彼女凄い強気な性格してるから、ジャッカルみたいな控えめな奴にはお勧めしないかな?ね、丸井?」
「お、おぅ…そうだな…」


あの幸村が、女を褒めた…?!その笑顔と視線から察するに、遠山蘭って女は、幸村の今のお気に入りらしい。
俺もしかして、ってもしかしなくても、牽制されてるよなこれ…。誤解なのに…最悪だ…。

でも、よくよく考えたら、真田の幼馴染で、赤也のクラスメイトで、幸村のお気に入りで、ブン太もソイツのこと知ってて…って、レギュラー陣殆どじゃねーか!遠山蘭って女、逆に超絶気になるけど何となく雰囲気的に誰にも聞けねぇよ!


「(うわぁ…!何だコレ、なるべく関わりたくねぇ…!)」


神の子を相手取る程の度胸は、悪いが俺にはねぇんだよ…。

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春風