唐松に寄り添って - 春風
幕は切って落とされた

視点:丸井ブン太


学校で過ごす中で俺が一番好きな時間って言えば、そりゃあ部活も勿論だけど、何よりも昼食時だ。

四時間目が終わって、凝り固まった体を「うーん…」と思いっ切り伸ばす。あーあ、やっと終わった。数学ってホント俺に合わねーしどうも苦手なんだよなぁ。
一気にワイワイと騒がしくなった教室。するとそこに、見慣れた姿が飛び込んで来た。


「せっんぱっい達ー!ご飯ですよー!」
「…おーおー、俺より更に浮かれてる奴が来たぜぃ」
「そんなことより、ほら!見て下さい!俺ちゃんと蘭連れて来たっスよ!!」


昼休み開始の予鈴とほぼ同時って言っても過言じゃないくらいの時間に教室に駆け込んできた赤也は、弁当箱に加え沢山のお菓子を手に持ちながら、俺たちの元に近付いて来た。もはや先輩の教室とかそんなのはコイツには関係無く、その表情はただただ嬉しそうだ。
更に今日は、その後ろに遠山蘭を連れている。どうやら幸村くんの朝の言い付けをきっちりと守ったみたいだ。

すると、遠山がジロリと赤也を睨み付けて、不機嫌さを隠しもせずに言った。


「……私、アンタと食べるなんて一言も言ってないんだけど」
「んなこと言うなって!ほらほら先輩たち!早く屋上行きましょ!」
「へーへー分かったぜよ。取り敢えず蘭ちゃんの手首離しんしゃい、お前が握りすぎとるせいで赤くなっとるぜよ」
「わ、ごめん!でも蘭、逃げんなよ?お前の弁当は俺が預かってるんだからな、逃げても無駄だぜ?」

朝練の時とは打って変わって晴れやかな表情をしている赤也に、内心ホッとする。やっぱりコイツはこうじゃなくっちゃ、何か落ち着かねーんだよなぁ。

元に戻った可愛い後輩に、俺はそっと口元を緩めた。良かったな、赤也。ご機嫌の要因は差し詰め、蘭ちゃんと仲直りできましたーってとこか?仲直りっつっても、赤也が勝手にヤキモチ焼いてただけなんだろうけど。全く手の掛かる後輩だぜ。





周りが気をつかっているのか、はたまた俺たちが気を使わせているのか、屋上はいつの間にかこの男子テニス部レギュラーの縄張りみたいなものになっていて、誰も近付いて来ないから俺たちはいつもここで集まっている。今日もいい天気で昼飯食うには最高の天気だ。

だけど、さ。赤也の奴、これは酷過ぎ…っつか、凄過ぎだろい。


「へぇ〜!蘭の弁当って彩りいいのな!こん中では一番何が好き?」
「……米かな」
「そっか、俺ら日本人だもんな!毎朝これ自分で作ってんの?」
「……そうだけど」
「へぇ〜、お前朝強いのな!俺なんか朝はホント弱くってさー!」
「……ふーん」


遠山へ横からグイグイ体を押し付けて、彼女の手元の弁当を覗き込む。どうみても遠山が赤也の勢いに飲み込まれ気味だ。ここまで来ると、遠山が気の毒に思える。
それにしても、米って。好きな食いモン米って。それに対する赤也の返答も日本人だからなって。二人揃ってそりゃねーだろい。コイツらちょっと感覚ズレてんのか?

すると、それを見兼ねた真田が赤也へと一喝した。


「赤也!食事くらい静かにせんか!」
「はーい!!」
「それに蘭!お前もそんなにだらしのない姿勢で物を食べるな!」
「はーい」
「二人共返事がなっとらん!たるんどる!」
「「はーい」」
「キエエエエエェェッ!」
「真田も赤也も揃ってうるさい」

ピシャリと鶴の一声でそう叱った幸村くんは、男の俺が見ても素晴らしいと感じるような花も恥じらう笑みを遠山へと向けた。


「蘭ちゃん、今日はごめんね。俺たちが無理矢理誘っちゃったみたいで」
「…いえ、別に」
「でも蘭ちゃん、いえ別にって顔、してないけどね」
「…そう思うんなら、最初から誘わないで欲しいんすけど」
「それは無理な相談だね」
「……チッ」


うわ。コイツ今、幸村くんに向かって舌打ちしやがった…。幸い、礼儀に何かと五月蠅そうな真田は、柳と柳生と三人で何か話をしていてこっちには気が付いていない。
すると今まで黙って遣り取りを見ていた仁王が、遠山へと声を掛けた。


「蘭ちゃん、そんなとこおらんと俺の膝の上座りんしゃい?」


ポンポンと膝を叩いてそう言った仁王。ふつーの女なら誰もがその膝に飛び込んで行きそうなものの、遠山は怪訝そうな眼差しを仁王へと送った。


「…は?」
「そのスーパードライな返答はさすがの俺でも傷付くナリ…」

思わず、声を上げて笑った。





「あの、ここいいっスか」
「おう。俺は構わねーぜぃ」
「はい、勿論私も構いませんよ」


段々とヒートアップして来た余りの騒ぎように耐え兼ねたのか、弁当を持った遠山が俺と柳生の間へとやって来た。確かに、赤也に加えて仁王のあの絡みはホント疲れると思う。
取り敢えずこの機会に…とちょっとの下心を交えながら、俯きながら弁当を口にしている遠山へなるべく優しく聞こえるように声を掛けた。だって、これって株上げるチャンスじゃん?


「悪ぃな、赤也と仁王が迷惑掛けて」
「…流石に疲れました」
「ハハッ、だよな。つーか遠山、俺のこと覚えてる?」
「当たり前です。その髪色は中々忘れることはできないっスよ」
「髪色かよぃ…」

思い掛けなかった返答に少し項垂れる。俺、自分で言うのも何だけど、結構目立ってる方だと思うんだけどな。…目立つ原因がテニスだけじゃなくって、女遊びとかも含まれてるってことは、この際置いておこうと思う。


「そー言やさ、お前と柳生って初対面じゃね?」
「…柳生センパイなら知ってます。生徒会をしていらっしゃっる方ですよね」
「おや。女性に顔を覚えて頂けているなんて、嬉しいですね」


すると柳生は、箸を置いて遠山へと完璧な微笑を向けた。…流石、紳士の名前は伊達じゃねぇ。


「申し遅れてしまいました。私は仁王くんとダブルスパートナーを組ませて頂いている柳生比呂士という者です。宜しくお願いしますね、遠山さん」
「あ…遠山蘭っス。こちらこそ、宜しくお願いします」
「あー蘭!お前、何丸井センパイんとこ行ってんの!」
「やーぎゅ!おまん、何蘭ちゃんに自己紹介しとんじゃ!」
「つーか、蘭も蘭で何か柳生センパイには丁寧じゃね?」


取り敢えず、赤也と仁王が五月蠅ぇんだけど…。「それは光栄ですね」とか何とか言って微笑む柳生に、それぞれ詰め寄る赤也と掴み掛る仁王とを見て、俺は赤也持参のポッキーを開封して遠山へと差し出した。
ま、暗いよりかマシだよな。皆でワイワイやるのが、俺は好きだ。

遠山ともっと話をしてみたい気もするけど、今は時期じゃない気がする。
あの赤也と仁王が警戒を解いている、更にはあの真田の幼馴染ということもあってか、直ぐに俺たちへと馴染んだ遠山蘭。敵はどうやら多いみたいだ。…ま、こっちのが俺は断然燃えるけど?

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春風