唐松に寄り添って - 春風
幕は切って落とされた

視点:遠山蘭


教室で一人、一週間後が提出期限の数学の課題を済ませていたら、下校時間がいつもより少し遅くなってしまった。鞄に荷物を押し込み、席を立って下駄箱へと向かった。


「……」


例の嫌がらせが始まってから数日が経った。相変わらず、下駄箱には沢山の紙屑や落ち葉やらが入れられていている。今日は革靴を教室へと持って行っていたせいか、画鋲は使われていない。革靴は、登下校時に必ず履かないと弦一郎さん率いる風紀委員のチェックに引っ掛かるから、汚される訳にはいかないのだ。買い替えるなんて面倒なこと、する訳にはいかないし。

全く、毎回同じことを良く飽きないもせずできるものだ。それらを、持っていたビニール袋に手早く押し込んで、キツく口を結ぶ。
今日久々に生徒手帳を読み返して判明したことだけど、事務室へ申請をすれば、下駄箱には鍵が掛けれるらしい。早速明日にでも頼もうと思う。紙には申請理由を書かなければいけないみたいだけれど、別に人に知られても良いと思う。


ただ──切原や弦一郎さんには、知られたくない。何があっても、知られる訳にはいかない。
まぁ切原は私の下駄箱になんて注目しないだろうし、弦一郎さんも学年が違うからまず場所すら知らないと思うし。


「きゃーっ!幸村くぅーんっ」
「雅治かっこいい〜っ」
「ブンちゃんこっち向いてぇ〜!!」
「赤也くん頑張ってー!」


すると少し離れた場所に、テニスコートが見えた。多分、ここで切原たちが練習しているのだろう。毎日大変だでよくやるなと思うが、私は特にしたいとは思わない。
だけど、これは…うん、まるでアイドルだ。物凄い人気ぶりだ。


「うわぁ、相変わらず人多いね〜」
「いつもそうだよね…。ファンクラブを引っ張ってる人たちは過激派って言われてて、皆化粧もバッチリでそれなりに綺麗なんだけど、ちょっと怖いみたいだよ」

帰り道なのだろう、大人しそうな二人の女子生徒が、並んで歩きながらそう会話するのが聞こえた。


「(…過激派も温厚派もあるのか)」


すると、足元へとテニスボールが飛んで来た。状況反射的に、それを拾い上げる。
まさか、あそこから…?そう思ってボール片手に再びコートへと目を向けると、切原が大きく手を振って私の名前を呼んでいた。


「(…これ、投げろってこと?)」


恐らく、いや、それしかないだろう。
仕方がないから地面へと鞄を置いて、右腕を下げて大きく振り被る。私が投げたボールは、スポッと切原の手元へと届いた。


「蘭ー!サンキュなー!」


そんな切原の声を背中に、私は校門へと体を向けた。
私へと向けられる数え切れない程の鋭い視線は、取り敢えず無視して、さっさとここを立ち去るのが良策だろう。


だが、こんな人数を相手に、私はどう対処をすればいいのか。決して屈するつもりはないが、これはまた随分と厄介なことになったなと、一人溜め息を吐いた。

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春風