唐松に寄り添って - 春風
反撃の狼煙は上がる

視点:切原赤也


「はーい!じゃあ今から、再来週の学活の時間に二年C組の先輩たちと合同で行う球技大会の出場種目について話し合いをしまぁーす!」
「朝にも言った通り、二年生の強い希望でテニスも追加することになったから」


教壇のところに立った体育委員の男女二人が、話し合いを進行させる。どーでもいいけど、俺あの体育委員の女の話し方チョー苦手。

次の次の学級活動の時間、俺たち一年C組は、二年C組と合同で球技大会をすることになった。って言っても、クラス全員参加ってなると結構人数が多いから、皆で遊べるドッジボールとバスケだけ──そのはすだった。
けれど、何でかは知らねーけど、そこに急にテニスが追加されたのだ。C組には、レギュラーはジャッカル先輩しかいなかったはずだ。だからテニスむっちゃ推すとかはしないだろうし。なのに、何でだろ。


「じゃあまず何か質問あったら言ってくんない」
「はいはーい、質問。バスケとテニス、それぞれ部員は出ていいの?」
「バスケは男女とも両方オッケー、でも一試合二人まで!男テニはテニス出れないけど、女テニはいいらしいよ〜」

すると、その質問した男友達が、俺の方へ向かってニヤニヤって笑って言った。


「うわ、赤也残念だな!あーあ、お前テニス出れねーじゃん!」
「いやいや!部活で散々扱かれてるから、こーゆー時くらい他のスポーツさせろっての!」


友達と言い合うそんな俺の声が聞こえたのか、クラス中がアハハと笑い声に包まれる。
するとクラスの中心にいる一人の派手な女が、眉を下げながら言った。


「でも、ウチらのクラスの女テニ、真希ちゃんと百合子ちゃんのダブルスペアしかいないもんね〜…」
「そうよね。それに、二年のC組って児島部長いるし…。あの人は絶対シングルスに出るよね」
「ダブルスとシングルスをそれぞれ一試合しなきゃいけないんでしょ?うーん、どうしよ…」

確かに、俺らのクラスには女テニは二人しかいなくって、しかもその二人はダブルス組んでるらしい。どーすんだよ。つーか、ホントにここでテニスってする意味あんのか?

すると。


「それに、何か私、二年生から聞いたんだけれど…」


そう言って言葉を詰まらせたその女が、ある方向を見た。その視線の先にいるのは──蘭だ。


「──遠山さんが、テニスに出るって言ってるって」
「……は?」


俺の間抜けな声が、しんとした教室内に響く。


…は?どーゆうことだよ。まさか、んな訳ねーだろ。

皆が一斉に蘭の方へと注目する。すると頬杖を付いていた蘭は、その肘を体の脇へと戻して、いつもの淡々とした口調で言った。


「…うん、私テニスに出る。シングルスに」
「……はぁッ?!」


どーゆうことだよ、全然意味が分かんねぇ。


「…は?オイ、蘭。冗談だよな?」
「私がこれまで冗談言ったことなんてある?」

その飄々とした態度にカアッ!と一気に頭に血が上った俺は、蘭の手首を引っ掴んで、全速力で教室を飛び出した。





「オイ!!どーゆーことだよッ?!」


いつかの国語準備室ってとこに入るなり、俺は掴んでいた蘭の手首を離して思いっ切り鳴り付けた。いきなりの大声を出した俺に、蘭は顔を顰めている。いやいや、今の状況で俺のこれは仕方ねぇだろ!!


「え?は?何蘭、お前テニスに出んのかよ?!まさかそれ本気で言ってんの?!」
「本気で言ってるけど」
「何で?理由は?」
「…だってあの児島って人にそう言われたから」
「いやいやいや、だってじゃねーよ!お前の対戦相手っつーか児島、中学女子テニス界じゃ結構有名な奴だぜ?!女子テニス部の部長!!分かってんのかよ?!それにあの人幸村部長の彼女だしッ!!」
「でも所詮、中学生の女子じゃない。力だってたかが知れてるわよ」
「お前だってそのたかが中学生女子じゃねーか!!」


俺がまたそう怒鳴ると、蘭は「切原うっさい」とか言ってその眉間の皺を深くした。うわ、その顔真田副部長にそっくりだから止めて欲しいんだけど…。


「…あ。そんなに自信満々に言うってことは、ちょっとはテニスやったことあんのかよ?」
「弦一郎さんのラリーに付き合ったのが、結構昔に数回かな。試合観戦も数回行ったことはあるけど」
「……。ホンットお前バッカじゃねーの!!ちょ、今すぐ棄権しろ!!危険すぎるって!!」
「…ああ、もしかして今のって棄権と危険を掛けた駄洒落?ない頭使ってよく考えたとは思うけど、全然面白くないわよ」
「ンな訳ねーだろ!!」


あーもう!と隣で頭を抱える俺のことなんてお構いなしに、蘭は何とも平然としている。
……何か、叫び過ぎて一気に疲れた。


「…こんなの、こてんぱんにやられちまうっての」
「それでも、私は勝ってみせるよ」

この考えなし、どうにかしてくれ…。
コイツと友達になってから、俺は気が付いた。蘭は意外と無鉄砲なのだ。結構色んなことが大雑把だ。やるべきことはキチンとこなしているから学校生活ではあんまり見せないんだろうけど、基本的な性格がこれじゃ見ているこっちがハラハラする。

ガックリと力なく項垂れる俺に、いつものあの無表情のままの蘭。ホントこれ、どーすりゃいいんだよ…。

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春風