唐松に寄り添って - 春風
衆目を集める一騎打ち

視点:切原赤也


とうとう球技大会の日になった。当の蘭は朝から注目を浴びていたけど、そんなの全くお構いなしに平然と授業を受けて、そして平然と昼食を食べている。ホントなんて図太い神経してんだよと叫びたくなる。俺なんか物食べる気全然起きねーって言うのにさ。
そう伝えると、蘭はお握りを頬張ったまま、俺へといつものあの生意気な面を向けて言い放った。


「…心配なんか必要ないよ」
「でもよ…」
「私は負けない」
「でも、不安なモンは不安なんだっての…」


そう言ってハァ〜と何度目か分かんないくらいの溜め息を吐いた俺を横目に、蘭は更に二個目のお握りのラップを剥がした。…ホント人の気も知らねーで、コイツめ。


「…っつーかお前、そのお握り鮭の切り身入ってんじゃん。まさか朝から焼いてんの?」
「当然でしょ」
「お前すんげー余裕だな…」


嗚呼、やっぱコイツはこーゆー奴だよな。だから俺がコイツの分まで心配してやらねーとダメだと思えるようになってきた。





俺は何だか落ち着かないまま、遂にある意味待ちに待った学活の時間になった。俺はバスケもドッジもどっちも参加させられる(あの時蘭を連れ出して中々戻らなかったらなんか勝手に決められてた)ことになったから、そのゲーム中蘭とは暫く一緒にいれない。蘭はテニスをするってことで、ドッジとバスケの試合は免除されていた。


「あああ…行きたくねぇ…」
「……そんなに体調悪いんなら保健室で寝とく?」
「そーゆー意味じゃねーよ!」
「…そんなに心配することじゃないよ」


ぶっちゃけ試合前の蘭の側にいてやりてぇって思ってそう言った俺だったけど、そんな俺の体調を心配して保健室行きを勧めてくるってのをボケじゃなくて素で言ってる蘭が末恐ろしく感じる。体操服に着替えて隣に立った蘭は、俺の顔をチョー白けた目で見て来た。

でもだってさ、もしも蘭がこれで負けたら、蘭はもっとあの児島から理不尽な嫌がらせされるってことになる。児島はあれでも女テニ部長なんだから、いっぱい大会にも出てるしそれなりの実力があるんだろう。柳先輩に聞いた話じゃ、小さい頃からテニスやってるらしいし。
それに対する蘭はテニス初心者。結構運動は得意だって言ってる蘭だけど、心配になるのは当然のことだ。


「…あ、そう言えば蘭。今更だけどラケットとかどうしたんだよ。学校のってあんまり良くねーだろ?」
「あぁ、柳さんに選んで貰った。あの人凄く博識なのね」


そう言って俺へと真紅のフレームのラケットを見せた蘭。その表情はいつもと全く変わらない。フレームはまだ真新しいけど、そのグリップテープはもうボロボロになっている。


「…当然じゃん。あの人ビッグスリーの内の一人だし、何つったって“参謀”だしな」

チラッと見ると、蘭の手には今にも潰れそうな痛々しいタコができていた。


そして、苛々の溜まった俺がドッジで超剛速球を投げたり、ジャッカル先輩がバスケで地味に凄いダンクシュートを決めたりしてると、とうとう女子テニスの試合の時間になった。
何か知らねーけど、無性に泣きたくなって来る。何で俺が泣きそうになってんだよ、んで何で蘭はそんな平然としてられんだよ!メンタル強過ぎんだろ!


「…落ち着いて、頑張れよ。その、俺テニス部の癖に結局なんも大したアドバイスできなかったけど…誰よりもお前の応援してっから」
「…ありがとう。私は必ず勝つ」

そう言うと蘭は、グリップをグッと握り締めてコートへと入って行った。

ふと校舎に近い側のフェンスの見ると、そこには幸村部長や柳先輩らレギュラーが全員集合していた。うわビックリ、あの真田副部長や柳生先輩までいる。あの人らは絶対来ねぇと思ってたのに。
つーか幸村部長はどっちを応援すんだろ。そりゃ彼女の児島なのかな。ぶっちゃけ俺としては、あんな卑怯な女とはとっとと別れて欲しいんだけど。


「…蘭……」


ギュッと拳をキツく握り締める。そうだ、俺が蘭の勝利を信じてやらなきゃ、誰が蘭を笑顔で迎えるっていうんだ。
でも、ここまで不安な試合は、生まれて初めてだ。そして、ここまで誰かの勝利を祈ったのも、生まれて初めてだった。

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春風