唐松に寄り添って - 春風
衆目を集める一騎打ち

視点:幸村精市


俺の中に存在する“女”の定義を見事根底から鮮やかに覆したのが、紛れもない蘭ちゃんだった。一目惚れなんて有り得ないと思っていたそれまでの俺の考えを覆すような鮮烈な印象を、俺はまたもや蘭ちゃんによって与えられたのだ。


「(興味深い女の子だとは思っていたけれど、まさかここまでとは…ね)」


ぞくり、と俺の背筋を何かが駆け抜ける。全身の毛という毛が総立ちし、目はしっかりとコートの中にいる蘭ちゃんを捉える。
コートを舞うその姿に──見惚れた。テニスにおいて人から“神の子”と畏怖されるこの俺が、見惚れたのだ。

見た目は可愛らしい顔立ちをした女の子だが、それを丸っきりなかったことのようにしてしまうくらいに傍若無人で生意気で太々しい性格。その顔立ちに興味を持って近付いてきた男女は、きっと今まで数知れないだろう。
自分の知らぬところで勝手な期待をされた上で、何故か勝手に失望されたりという理不尽な経験は、俺にもある。きっと蘭ちゃんも多々経験しているだろう。

そして勿論、蘭ちゃんのあの中身があった上での今回のあの試合だ。俺はまだ蘭ちゃんの全てを知っている訳ではないけれど、それでも彼女のあの性格を知った上で試合を見た俺は、彼女が更に魅力的に思えたのだ。


いつのことだっただろうか。最近になって一度だけ、蘭ちゃんを壁へと追い詰めたことを思い出した。所謂壁ドンってやつだ。その時の俺の心臓も、ドキドキしてたっけ。あの時は俺が去った後、蘭ちゃんが一人で誓っていた勝利宣言でそれどころじゃなかったんだけど、今になって思い出した。

あの時間近にあった蘭ちゃんのあの小生意気な顔は、相変わらず頬一つ染められていなかったけれど、児島さんなんかとは比べ物にならないくらい可愛らしかった。


「…彼女、今度の合宿に呼ばないかい」


試合を見終わった後、俺はいつの間にか真田と蓮二の二人へそう言っていた。


こんなところで彼女との繋がりを手放すのは、正直惜しい。真田の幼馴染らしいけど、こんなに俺の興味を擽る数少ない子を、真田だけに独り占めさせるなんてもっと許せない。それに、俺って自分の欲しいものは絶対手に入れなきゃ気が済まない質なんだよね。

そんなことを悶々と悩む俺だったが、その内一つの道が見えて来た。取り敢えず蘭ちゃんを今度の氷帝主催の合同合宿に呼び──その流れで、蘭ちゃんを俺たち男子硬式テニス部のマネージャー…そして兼選手にする。
こんな俺の計略、蓮二なら気が付いていたりするのかな?


──俺が、彼女である児島瑠璃香をこっ酷く振ったという話が急速に校内へと広まったのは、その翌日の朝であった。

- 5 / 9 -
春風