唐松に寄り添って - 春風
熱き青春への招き

視点:第三者


レギュラー皆が蘭の所へと行った翌日、幸村は一人悶々と思案していた。
これまで二年レギュラーがそれぞれ蘭の元へと出向いているが、さして大きな反応は得られていない。蘭の立場にしてみれば、向けられた皆からの言葉に丁度悩んでいるといったところだろう。


「(皆、かなり良いところまでいったみたいだけど、今一つ決定打には欠けている。…やっぱり、俺が行くしかないみたいだね)」


幸村には、確固とした自信があった。


「やあ、蘭ちゃん。今日君と一緒に帰ってもいいかい?あ、俺部活あるから、悪いんだけど課題でもして待っててね」
「……」

教室に足を運んで来るなり有無を言わせぬ口調でそう言い、その上更に文句は一切受け付けぬという絶対王政も真っ青のオーラを纏う幸村に、脊髄反射的に口から言葉が飛び出ることで名高い蘭も、思わず黙り込んだのであった。





「もう皆から、話はある程度聞いているよね」
「……まぁ、はい」
「なら直球に聞くけど蘭ちゃん、君に今度の合宿で臨時マネージャーをして貰いたいんだ」
「…何度も言っていますが、イヤっす」
「やっぱりそっか。じゃあ俺からもう一つ質問…って言うよりも、どちらかの言えばこっちが本題かな?──蘭ちゃん、これからテニスをしてみる気はない?」


蘭はその幸村の言葉に沈黙してみせた。ここまで直球に“テニスをしないか”と誘われたのは、幸村が初めてだったのだ。


「…ないっす」
「うーん、残念だなぁ。…でもそれってさ、あくまでも“今のところは”だよね」
「何が言いたいんすか」


少し考え込むようにして指先を口に当てた幸村に、蘭は眉を顰めた。
幸村と蘭二人が並んで歩く。その歩調は、昨日真田と帰宅した時と同じくゆったりとしている。しかし蘭の様子は、昨日真田と歩いていた時のような穏やかさがなりを潜められていた。


「俺たちってさ、マネージャーはある時から採らないようにしているらしいんだよね」


蘭は突然のその幸村の言葉を聞き、「ああ、ミーハーが来るから」と直ぐに納得した。“ある時”には、敢えて触れないことにしておく。
テニスが全国レベルに強くて、その上これだけ顔立ちも整っていれば、女子に人気が出るのは自然な道理。そしてその恋心は、些細なことから醜悪な嫉妬を生み出し、自分の意にそぐわないことした相手を攻撃するに至る。


「なら、いくら臨時とは言え、わざわざそこにマネージャーとして私を誘うことないじゃないですか」
「いいや。わざわざ君を誘うきちんとした理由はあるよ」
「何すか」
「君が、余計なフィルターを介さずに俺たちを見てくれたから。それだけだよ。逆に、それさえあれば誰でも、俺らは立海大のマネージャーとしてその人を大歓迎するんだ」
「…そんな人、他にもたくさんいるっすよ」
「いるかもしれないけど、少なくとも今まで俺たちは出会ったことないかな。まぁ探そうとも思わないんだけどね…だって俺、蘭ちゃんに出会っちゃったんだから」


そう言った幸村に、蘭はその猫目をぱちくりとさせた。その瞳には、柔和に微笑する幸村がいた。


「臆面もなく言うけどさ、ここまで俺に興味を抱かせた蘭ちゃんが悪いんだよ?」
「…アンタって、本当理不尽っすわ」

余りにも理不尽な言い分に、蘭は幸村を白けた目で見遣った。


「フフ、良く言われるよ。でも真面目な話、蘭ちゃんはさ、このままで本当にいいの?」
「……」
「蘭ちゃんが正直者で口が乱暴なせいで女の子の友達ができないこと、これでも俺はきちんと分かってるつもりだよ。それに蘭ちゃんは、何でも卒なくこなしてしまうせいで毎日退屈してることだって、分かってる。でもそれって、凄く勿体ないことだと思うんだよね」


幸村の言うことは、あくまでも正論であった。蘭の欠点を真正面から捉えており、それでいて蘭に利のある条件ばかりを並べて諭していく。幸村の彼女への(ある種の)誘惑に、蘭は口を噤んだ。


「テニスをしている時の蘭ちゃん、結構いい顔してた。…これを機に、人との交流を深めることだって、悪くはないと思うよ」


これで、言いたいことは全部言った。後は反応を見るのみだ。
内心そう確信をした幸村は、その場を去りながら一人満足気に微笑を浮かべてみせるのであった。

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春風