唐松に寄り添って - 春風
改革へ向けての出立

視点:第三者


明くる日の朝のこと、幸村と真田、柳の所謂三強らは、三人揃って話しをしていた。話題は勿論、明後日に控えられた合同合宿へ参加することになった遠山蘭についてである。
レギュラー陣へは話をしていたが、他の準レギュラーや平部員には昨日の部活時に紹介を終えたところであった。この合同合宿では、跡部の一存でそれぞれの学校が五十人程度の参加が認められたのである。部員は皆、マネージャーを臨時で雇うということには驚いていはいたものの、柳から指導を受けてテキパキと仕事をこなす様を見て何も文句を言う者はいなかった。それよりも、傍若無人で有名である蘭が思いの外手際良く作業をする様子、またレギュラーへと媚びを売ろうとしない様子を見て、部員らは皆蘭に対して友好的な目を向けたのであった。


「一先ずは準レギュラーや平部員にも受け入れて貰えたようで、本当に良かったよ」
「ああ。だが元より遠山は、男子からの評価は悪いものではなかったからな。この結果とて、彼女の性格を考えるに当然だろう」
「うむ。だが、アイツの血気迫る仕事ぶりには驚かされたな」

蘭は一度やると決めたことを途中で投げ出しはしない性格であり、マネージャー業には乗り気ではなかったものの、その仕事は手早く一切の無駄がなかった。それよりも、全ての仕事を時間内に終わらせようとするその姿は、「そこまでしてくれるのか…?」と部員が少し引くくらいにまで真剣であったのだ。
一応彼女は言われたことは卒なくこなせる性格なのである。尤も、そのせいでここまでキツい性格に育ってしまったのではあるが、それは本人も認識していることであった。

すると幸村が、話を元に戻した。


「差し詰め、化け物を飼い馴らす…って、とこかな」
「だが、女をこの男子テニス部に入部させるなど、異例の事態だ。反論はかなり多いだろう。殆どの人間と言って良いくらいかもしれない」
「まず、マネージャーとして入部させるに蘭には仕事を覚えて貰わねばな」
「そうだね。選手の件は、いくら俺たちの問題だとは言え、一応あの顧問にも意見を聞いておく必要があるね」


そう。マネージャーとして部員に受け入れて貰えた蘭ではあったが、目下の問題として顧問の教師が浮上しているのであった。
臨時とは言えマネージャーに引き入れる(と言っても三強はその後も彼女をマネージャーに留めておくつもり満々である)ということと、その上に彼女を選手として育てていくというこの異例の事態。何処か頼りない印象を持たれている、しかし頭の固いことで有名な顧問を説得することが先決であると彼らは考えたのだ。


「まずは精市と俺で行こう。何せ弦一郎は、あの教師からは畏怖されているからな」
「むっ、そうなのか?」
「え、まさか今の今まで気付いていなかったのかい?あの人、真田の顔を見るといつも顔を青褪めさせているよ」
「あの男、教師の癖に全く情けない。全くたるんどる!それこそ蘭の方が数十倍度胸が据わっているというものだ!」
「多分真田のそーゆうところを苦手としているんだろうね」
「違いないな」
「?」

一体何のことだかまるで分かっていない真田に、幸村と柳の二人は顔を見合わせてクスリと笑みを零すのであった。そう、真田はこれでいいのだ。自分にも他人にも人一倍厳格な真田だからこそ、その分目立つ少し天然な部分が、漸く彼を中学生らしく見せるのだから。





「この合宿が終わり次第、遠山に対する最終決定案を出す。その報告と了承を貰いに行く際はお前と弦一郎で並んで行く方がより効果があるだろう」

その日の放課後、幸村と柳は二人肩を並べて話しながら廊下を闊歩していた。二人の姿に自然と道が開ける。それ程までに、彼らには威厳という名のオーラが纏われていた。
しかしそんなことはもう慣れたもの、周囲には聞こえぬ程度にまで声の音量を抑えつつ、二人はそのまま会話を続けた。


「問題は、あの顧問が校長や理事長へと話を通すかどうかだね」
「ああ、だがその点においては心配あるまい。……今俺たちが向かっているのは、一体どこだ?」
「どこってそりゃあ職員室だけど──って、まさか」
「そうだ。態々アポを取らずに、しかもこの時間の職員室へと直接押し掛けるんだ。この時間の教師はほぼ全員、日誌の確認やら答案課題の採点やらに追われて職員室に勢揃いしている。そしてあの教師はこの時間ならば…そうだな、一クラス分の課題の採点を終えて一休みでもしている頃だろう」
「うわぁ…そんなところまで調べが付いているだなんて、やっぱり蓮二はさすがだね」
「褒めても何も出ないぞ」

そんな会話を交わしつつ職員室に辿り着いた二人は一度呼吸を落ち着け、扉をノックして開け放ち中へと揃って足を踏み入れた。


「失礼します。田中先生はいらっしゃいますか」
幸村の良く通る澄んだ声が、職員室へと響く。


「…失敗は許されないな」
「うん。…気を引き締めていこうか」

少しの緊張を覗かせながらも自信の漲るその姿は、流石立海三強と言ったところだろう。

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春風