生徒R.A.Bの目撃談 - 春風
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「すみません…頭痛と眩暈がして、授業中なのですが、スラグホーン先生に許可を頂いて来ました…」


不本意ながらも──と言うよりも、あれは回避不可能であったから僕は何も悪くない、はずだ──衝撃的な盗み聞きをしてしまった僕は、少しの間だけ医務室の扉の前で待機してから中へと入った。外面用の笑顔を顔面一杯に貼り付けて、けれど少し言葉に覇気を失わせてマダムへと話し掛ける。寒い医務室の外で待っていたせいか、心なしか先程よりも頭がガンガンする。
すると、マダムは「まぁ!こんな時期に風邪ですか!時期外れの風邪は長引かせると面倒ですからこの薬を飲んで今日は一晩休んでおゆきなさい!」とせっせと僕の世話を始めた。この前のクィディッチで怪我をして手当てを受けた時にも感じたけれど…この人は、いつも本当に活力的だと思う。


「っ!まぁ、何て熱ですか!あなた、まさかこんなに高い熱で授業を受けていたとでも言うのではないでしょうねっ!?」


僕の額に手をやるなり金切り声を上げたマダムに、僕は思わず首を竦める。

…これは、暫くこの人の言いなりになっておくしかなさそうだ。酷く頭痛のする頭のせいでいつもよりも幾分か鈍い思考をやっとのことで巡らせて、僕はこれから自分が為すべきことを読み取ったのだった。


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マダムに強引にベッドに押し込まれてからというもの、僕の元には見舞い客がたくさん来た。決して自惚れている訳ではないが、僕はたくさんの先生や生徒達に好かれていると自覚している。…まぁそれが主にスリザリン生のみに限られて来るのは、スリザリンと他寮との隔たりを考慮すると仕方のないことだろう。
それに伴い、持ち寄られる見舞いの品の数は増えるばかりで、就寝前には僕の机はその品物らが今にも崩れ落ちそうな程の巨大な山を作っていた。スラグホーン先生なんかは、ハニーデュークスの巨大な菓子の詰め合わせとバタービールを五本も持って来た。……まぁ、貰えるに越したことはないので、ありがたく頂戴しておく。


「…あ、レギュラスじゃねーか」
「っ?!」


ギクッ


不本意ながらも聞き慣れたその声に、内心驚く。そして、カーテンの隙間から顔を覗かせている予想通りの人物を見て、思わず眉を顰めた。…紛れもない、兄さんだ。


「よぉ、久しぶりだな」

そう言うなり兄さんはそのままカーテンの内に入って来るなり、ベッドの横に設置されている丸椅子に無遠慮に腰掛けた。そして更に無遠慮なことに、僕宛ての菓子包みの山を漁り、その中から蛙チョコレートを取り出して包み紙を剥ぎ取り口へと放り込んだ。
…別にケチケチするつもりはないけれど、お菓子がたくさんあることを理由にここに長居されても困る。マダムに言い付けてこの人をここから追い出して貰おうか、とも考えたが、気配がないのでどうやら今あの人は不在のようだ。


「レギュラス、お前、倒れたんだって?スリザリンの女子がギャアギャア騒いでたぜ。大丈夫かよ」
「……僕に何か御用ですか」
「ハハッ。やっぱお前、冷てーな」


兄さんはニヤリと笑うと、打って変わって真剣な表情になり、少し声を落として言った。


「##NAME1##…って言っても分かんねーか。お前、##NAME1##・##NAME2##のベッドの場所、知ってるか?」


その名前に、思わずドキリとした。けれど僕は、超意識的に無表情を崩さずに反応してみせた。


「…そんなこと、僕に聞かないで下さい」
「あー、だよな」


僕に聞くだけ無駄だと判断した途端に兄さんは、カーテンの外に首を出してキョロキョロと辺りを見渡し始めた。


「ホント、アイツどこ行ったんだよ…」
「………」

これは、間違いない。この人は、先刻マダムと話していた彼女を探しているのだろう。
少しの脳内思考を経て、僕は口を開いた。


「……無遠慮にカーテンを開けてしまい、そしてそのベッドにいたのが##NAME2##先輩でない全く知らない女子生徒だったりして、枕を顔面に投げ付けられて学校中から浴びせられる変態の汚名を着たくなければ、さっさと寮に戻る方が得策だと思いますが」
「オイオイ、随分と言ってくれるな。…まぁ、別に探すのは明日でもいーか」


そう言って小さく溜め息を吐いて勢い良く立ち上がった兄さんは、蛙チョコレートを数個ポケットに捻じ込み「またな〜」と言いつつ後ろ手を振って、医務室を出て行った。…その「また」が気軽にあって堪るか。


「………」


カーテンで仕切られている隣のベッドから伝わって来るのは、ピリピリとした僅かな緊張感。
別に、彼女を庇ったなどという訳ではない。ただ僕としては、ブラック家の長男である兄さんが、身勝手な行動で女子生徒に子を孕ませてしまったという事実が、両親を始めとしたブラック家一族に伝わってしまっては非常に困るのだ。それでも、いつかは暴露てしまうかもしれないけれど。

いくら血を裏切ってグリフィンドールに入ったと言っても、血縁関係というものは切っても切れない存在である。兄さんには、ブラック家の後継者であるという自覚を忘れて貰う訳にはいかない。


「……はぁ」


溜め息を吐いてチラリと腕時計に目を落とす。文字盤の針は、丁度消灯時間を指そうとしていた。

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春風