ハイキュー(転校生主) - 春風


日向の後ろの席に、新しく転校生が来る。東京から来たとかで、その引っ越しの都合の為に登校するのが一ヶ月も遅くなったらしいと風の噂で聞いた日向は、そわそわと落ち着きなく胸を高鳴らせていた。

東京からってことは、シティーガールってやつかな…?と、何とも田舎生まれの発想を巡らせて思いを馳せていた日向は、その転校生を目の前にして口をあんぐりと開けざるを得なかった。

「東京から来ました、東雲蘭です。宜しくお願いします」

その転校生は、高校生らしからぬ容姿をしていた。
──夏が好きな童話の絵本を読んであげてる時に見たお姫様みたいだ。
見ているだけで胸がドキドキしてしまい、日向は顔まで真っ赤に染まった。

ヨロシクな!と、頬はまだ熱を持って赤いままの日向がそう挨拶をすると、後ろの席に座ろうとしていた蘭は少し驚愕したように目を見開いて、しかしすぐに小さく笑ってみせた。その笑顔に日向の顔がもっと熱を持ったのは、仕方のないことであった。





日向は、学校生活を蘭と過ごす内に、彼女が意外とよく面白いことを言って、クラスの誰とでも気軽に普通に会話することが分かった。当初は、その見た目から他人に対して無関心なのだろうと疑心暗鬼になっていたクラスメイトも多かったが、

しかし、そうは言っても、蘭が自ら人に話し掛けてるところを日向はあまり見たことない。いつもイヤホンで音楽を聴いてたり、分厚い本を読んだりしていることが殆どである。その大人のような見た目の割に、やはり中身は今どきの女の子なのだと日向は蘭について感じていた。


「あ、蘭!おはよー!」
「おはよう。…翔陽は朝からテンション高いね」
「トーゼン!今日も朝練して来たし!」
「ふぅん。だから授業じゃいっつも爆睡なのね」
「だ、だって仕方ねーだろ!つい…」

それに、蘭は少しだけ意地悪だ。蘭は日向に向かってそんなことを言うと、その後はいつもニヤリと悪戯気に笑うのだ。しかし、そんな悪い顔もその見た目のせいか、非常に様になってると日向は内心評価していた。

そして、蘭と日向の二人は、今ではこうして席で一緒に昼食を食べるくらいの仲である。

「え!!蘭、それが今日の昼ご飯?!」
「うん、そうだよ」
「そうだよじゃねーだろ!この前もそれだったじゃん!不健康過ぎるって!」
「……」
蘭は、いつも栄養補助食品をお昼ご飯にしている。それに文句をつけた日向に、蘭は口を尖らせる。

そんな蘭は、今朝のホームルームの時間にて、立候補者がいなくて今まで決まらず先延ばしになっていた女子の学級委員に推薦で選ばれていた。クラスの中で一番成績が良いからという理不尽極まりない理由で、強引に先生から押し付けられたのだ。それが理由で些か不機嫌なのだろうと分かるくらいには、日向は蘭のことを理解してきていた。


「だって…私寝坊助だし、朝からお弁当なんて作ってられないわよ」
「それなら学食とかあるだろ!もー仕方ないな〜!俺の弁当のおかずちょっとあげる!」
「翔陽のとこのお弁当、いっつも豪華よね。私、この卵焼き大好き」

柔らかく笑った蘭の笑顔に、日向は胸の辺りがギュッと締め付けられるような感覚に包まれて、心臓のある辺りを両手で握り締める。
──落ち着け!!落ち着け、俺!蘭が好きって言ったのは俺ん家の卵焼きだ!!決して俺のことじゃねえ!!俺の心臓、落ち着け!!

「おーおー。翔陽の奴、またやってる…」
「まあ、気持ちは分からんでもない…」







日向は胸の辺りがホワホワとする感覚に包まれた。

「なぁなぁ蘭、東京ってやっぱ都会なの?」
「うん、都会だよ。でも…宮城の方が私は好きかな。空気が美味しい気がする」
「気がするんだ」
「そう、気がするの」


そんなこんなで蘭のことを少しずつ分かって来た日向は、とあることに気が付いた。

「あの…東雲さんって、今いる?」
「あ、ハ、ハイ!ちょっと待ってて下さい!」
「悪いな。あ、俺バスケ部だから、そう言ってくれると分かると思う」
昼ご飯を食べ終わった日向が、廊下の扉付近で友人と部活の話をしてると、見たことない茶髪の先輩に話しかけられた。

「蘭〜!なんか、廊下にバスケ部の先輩が来てる!」
「……。そう」

いつものイヤホンをして席に座って一人で静かに宿題をしていた蘭は、廊下にチラリと目をやると、軽く息を吐いて立ち上がった。

──蘭が、数多くの種類の部活の先輩に誘われているこの光景は、もうこのクラスでは日常的になってきつつある。
しかし蘭は、そのどれもこれもを片っ端から断っていた。

「…部活、入らねーのかなぁ」
日向がポツリと呟いた声は、周囲のクラスメイトの耳には入ることはなかったようである。

今まで全部の誘いを断っているってことは、部活に入る気がないからなのであろうか。ということは──バレーにも、興味ないのであろうか。
そう考え込む日向の耳には、

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春風