赤兎 - 春風
懊悩焦慮

「疲れによる免疫力低下でしょうね。薬を出しておきますんで、一日に三回飲むようにして下さい」

団長を目の前にしているにも拘らず淡々と診断結果を告げる医者に対して何となく苛々とした神威は、その医者を思い切り殴り飛ばして##NAME1##を横抱きにして医療室を出た。
そしてそのまま##NAME1##の部屋へと向かった神威は、##NAME1##をベットに寝かせた。


「うわぁ………」

部屋に入って直ぐに、神威は嘆息した。それ程までに、##NAME1##の部屋は綺麗に片付けられていた。壁にかけられた団服、箪笥、ベット、それに刀を研ぐ砥石が乗っている机のあるだけの殺風景なもので、女らしい調度品が何一切無い。


──まぁそれが##NAME1##らしいんだけど。


「女らしいものがあるかなって、ちょっとは期待したんだけどな〜」
「………ケホ」
「!」


タイミング良く小さく咳をした##NAME1##は、ゴソゴソと身を捩りまた元の体制で静かな寝息を立て始めた。


──ビックリした。##NAME1##が時々する咳に、思わず反応してしまう。どうやら俺は、##NAME1##の部屋に入ったのは初めてなせいか、少し緊張しているみたいだ。


「##NAME1##、早く起きてくれよ」


神威は、##NAME1##の額を水で冷やしたタオルでそっと拭った。すると心なしか少し安らいだ##NAME1##の表情に、神威はホッと息を吐いた。
そしてそのタオルを、ベットの傍らに置いてある洗面器で濯ぐ。


「………ん……」

すると##NAME1##が、神威がその肩にまでかけた布団を脱ごうとした。


「##NAME1##、駄目だよ」

神威はその度に、##NAME1##の体をグイッと布団ごと押さえ付けた。
すると、そんな動作を繰り返しているうちに、洗面器の水は少し温くなっていた。洗面器の水を取り替えようと思った神威は、それを持って立ち上がった。


「…ん……」
「?」


すると、##NAME1##の口が微かに動いて、小さな声が聞こえた。


「##NAME1##?」

てっきり目が覚めたのかと思った神威は、##NAME1##の名前を呼んだ。
すると。


「……か…い……神威……」
「ッ!!」


──俺の、名前?

##NAME1##の口から漏れてきたのは、紛れもない神威の名前だった。しかも##NAME1##の声は、いつもの冷たいものではなく、か弱くて細い、小さな女の声だ。


「い、や…だ……。待て……」

どうやら##NAME1##は、神威が##NAME1##自身を置いてけぼりをするという、何とも非現実的な夢を見ているらしい。
よっぽどの状況なのだろうか、##NAME1##は目尻にうっすらと涙を溜めていた。


「…##NAME1##、大丈夫だよ」

神威は##NAME1##の枕元に座って、##NAME1##の手をギュッと強く握り締めた。
すると##NAME1##の手は、弱い力で神威の指を掴み返した。


「大丈夫、俺はどこにも行かない。ずっと君の傍にいるよ」

すると、数秒後には##NAME1##は再び寝息を立て始めた。


「えええ…。##NAME1##って、こんな可愛い声も出せるんだ…」

神威はそう感嘆すると同時に、何で普段は男口調なんだろう、という疑問を持った。


──いつか、その理由を話して欲しいな…。


「……どんな内容の夢なのかな」

神威の小さな呟きは、##NAME1##の柔らかな寝息によって消された。
神威は、##NAME1##の目尻に溜まっていた涙を、##NAME1##と握っていない方の手の甲でそっと拭き取る。


「…考えたこともなかったよ」

そう呟いた神威は、更に強く##NAME1##の手を握り締めた。


「…君がいない生活がこんなに退屈だなんて、考えたこともなかった」


それからは、神威と##NAME1##は穏やかな一時を過ごしたのだった。
──因みにその頃の阿伏兎は、神威に提出期限が今日である書類を書かせる為に、その姿を探して船内を右往左往していた。

- 3 / 7 -
春風