赤兎 - 春風
懊悩焦慮

「…で?何でだよ」
「………」
「何で寝れてなかったんだ?お前、仕事してたなんて嘘だろ?」

一連の騒動の後、##NAME1##は神威を問い詰めていた。どうやら、人の感情を読み取ることについて極端に疎い##NAME1##には、神威の気持ちは微塵も伝わっていないらしい。


「……なぁ」
「………」

神威の心境を知らない##NAME1##は、更に神威を問い詰めた。


「……オイコラ」
「………」
「……シカトすんじゃねーよコラ」
「………」
「……聞こえてんのかコラ」
「………」
「………」

神威は、とにかく無言を通すことにしたらしい。
それを良く思わない##NAME1##は不満気な表情をした。

しかし、何かを思い付いたかのように口角を吊り上げてニヤリと悪戯っぽい顔をして、その口を開いた。


「……知ってるか神威。この前団員が話しているのを小耳に挟んだんだがな、頭髪はほぼ両親の遺伝によるらしいぞ。つーことは、お前の親父禿げてるからお前も禿げるんじゃねぇの?」
「……」
「カワイソーにな。ん?慰めてやろうか?」


プチン

そんな安っぽい##NAME1##の挑発に、再び神威の頭の血管が切れてしまった。


「犯す、もう絶対犯す、犯してやる。##NAME1##股開きなよ、それとも俺に力尽くで無理矢理犯されたいかい?ほら、さっさと選びなよ」

##NAME1##の手首をミシミシと音が鳴るくらいに掴んだ神威の目はいつになく真剣である。それを目の当たりにした##NAME1##は、慌てて神威に精一杯ながらもその場凌ぎの謝罪をした。


「わ、悪かった悪かった!今のは私が悪かった!!そうだよな、お前がそんな下らねぇこと気にしてるなんて知らなくって!!悪い!!」
「やだ。##NAME1##、今日こそは絶対に犯す。今まで黙ってたけどやっぱり##NAME1##、君ちょっと最近調子に乗ってるよネ?明日足腰立てないぐらいのプレイしあげるから覚悟しなよ」

神威は##NAME1##の寝ているベットに飛び乗り、##NAME1##に跨がった。そして##NAME1##の両手首を片手で易々と掴み、慣れた手付きで##NAME1##をシーツへと力尽くで押し倒す。
流石に危機感を感じた##NAME1##はジタバタ暴れていたが、性別の差は越えられず、更に夜兎でもある神威の力には叶わない。


「…お、おい…」

##NAME1##は怯えている。何せ神威は、##NAME1##に恐怖を抱かせるのも当然のような獲物を捉える捕食者の目をしていたのだった。

そして##NAME1##は、最終手段に出た。


それは─……


「阿伏兎!助け──」

──阿伏兎を呼ぶことだった。


その名前が出た途端、神威はその##NAME1##の口を塞いだ。


「……##NAME1##、俺と二人っきりの時に違う男の名前を呼ぶなんて…##NAME1##は悪い子だね?」

神威が##NAME1##の目を見つめると、それには薄く涙の膜が張られている。神威は更に静かに言った。


「騒いだら、その瞬間服引きちぎるよ。いくら##NAME1##でも、容赦しないから」


いつになく真剣な神威の様子に、素直にコクンと頷く##NAME1##。それを見た神威は、その両手を離し##NAME1##を解放した。
##NAME1##は素早くパッと起き上がる。神威は頭が冷え、少し落ち着いた様子であった。


「………##NAME1##、ごめん」
「…苦しいだろ。お前、俺より力強いんだから、ちっとは譲歩しろ」
「…ごめんね」


神威と##NAME1##との間に、珍しく沈黙が流れた。


コンコン

すると、扉がノックされた。神威はベットから降り、元の椅子に座って言った。


「誰だい?入りなよ」

ガチャッ


すると、扉が開き阿伏兎が入って来た。


「団長、元老からの呼び出しだ」
「分かった」
「お、##NAME1##、目ェ覚めたんだな。大丈夫か?」
「おぅ、ありがとな」
「あ、ちなみにアンタはまだ来なくていいってよ」
「そーか、あの老害が珍しいな」
「まだしっかり休んでろとのことだ。また薬が足りなければ送るってよ」
「大丈夫だ、もうほぼ治った。……阿伏兎、悪かったな。色々迷惑を掛ける」
「いや、気にするな」


二人が話しているその間、神威はジッと押し黙って話を聞いていた。それを疑問に感じた阿伏兎は、神威に尋ねた。


「どうした、団長?」
「……##NAME1##は元老に気に入られてるからか…超過保護だよね」
「まぁな。俺は、お前とは日頃の行いが違う」
「ねぇ阿伏兎、その元老って誰だい?……##NAME1##に付き纏うんだったら、今の内に始末しとかなきゃ」
「あー。…って、言えるか馬鹿!!殺る気満々じゃねーか!!」


阿伏兎は二人に気を使ってか、「じゃ団長、外で待ってる」と部屋を出ていく。阿伏兎が出ていくのを見て、神威は椅子から腰を上げた。


「じゃあ##NAME1##、また夕飯までには戻るからね」
「悪いな」
「気にしないでいいよ」


神威は書類を片手に、部屋から出ていこうと扉の取っ手に手を掛けた。


「………か、神威!」


しかし、不意に##NAME1##が神威を呼び止めた。


「ん、何だい?」

##NAME1##は何か言いたいことがあるのか、下を向いて躊躇っている。そして、ゆっくりと言った。


「………お前、私のこと呼んだよな?私が寝てる時に、私の名前を。私の名前、何回も」
「………」


神威は、肯定の意で首を縦に振った。すると##NAME1##は、また少し躊躇った後、口を開いた。


「……私、お前の声で目が覚めたんだよ」
「!」


それを聞いた神威は、目を見開いた。そして、扉から手を離し、##NAME1##の方へと戻る。
ベットサイドに立った神威を見上げて、##NAME1##は少し恥ずかしそうに言った。


「その…さ……看病…ありがとう。それに私、お前が傍にいなかったら、きっと起きれなかった。もう忘れちまったけど、すっげぇ嫌な夢見ててさ。だから──」


そして、##NAME1##が笑った。


「ありがとな」


──それは、思わず神威が見惚れる程に、控えめながらも美しい笑顔だった。


ギュッ

神威は思わず##NAME1##を抱き締めた。力強く、しかし優しく。


「…未来のお嫁さんに、これぐらいの看病するなんて当たり前だよ」
「…ちょっと待て。誰がお前に嫁入りするっつった、あ?」
「じゃあちょっと行って来るね。しっかり寝てなよ」
「聞けやコラ。あーもう、たまに人が素直になったらいっつもコレじゃねぇか」


神威はすっきりとした気持ちで、##NAME1##の部屋を後にした。


「……やっぱりアイツ、変な野郎だな………」


残された##NAME1##は、一人で呟きベットに横になっていた。


「…アイツ、これ忘れてやがる」

──そして、枕元に置いているそれに気が付いた。

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春風