赤兎 - 春風
流血淋漓

阿伏兎に襟首を乱暴に掴まれた晴太は、恐怖でブルブルと震えていた。


「………阿伏兎、そんな乱暴にしてやるな。コイツ、震えてんじゃねーか」


それを見兼ねた##NAME1##が、阿伏兎を止めた。


「んなら、お前さんがやってくれや」
「や、面倒だ」
「や、そんなにビシッと言われると、こっちもやる気失せるっての」
「##NAME1##、やりなよ。将来の俺との子どもの世話だとでも思ってヨ」
「うわそれ絶対に嫌だ」


そう言いながら顔を歪めて嫌がっていた##NAME1##だが、存外執拗な神威の要求にとうとう折れて晴太に近付いた。


「…おい、お前。確か、名前は晴太っていったな?」
「………」


##NAME1##の問いに、晴太は答えない。阿伏兎が手を離した今も、相変わらず震えて##NAME1##をジッと見ていた。

そして―……


「お、お男が色仕掛けとか、キモいんだよっ!お前らホモかよっ!き、気色悪いんだよッ!」


――有り得ないことを叫んで来た。


「「「「………」」」」


辺りには暫く沈黙が続く。しかしその数秒後、神威が堪え切れなくなって盛大に吹き出した。


「………ププッ」
「笑うなバ神威」


その神威の様子とは真反対に、ますます顔を不機嫌に歪める##NAME1##。すると、不意にその顔がいつもの無表情なものに戻った。


「………オイ」
「な、何だよう!」
「勘違いしているようだから言っておく。俺は、一応女だ」


そう言うと##NAME1##は、何の前触れもなく乱暴に晴太の右手首を掴み、引っ張って自分の胸に持って行き―……


ムニッ


――揉ませた。


「「「!!?」」」
「っ、わわわわっ///!!」
「な?但し、これはあくまでも性別、女なのは体だけだ」


そう告げると、晴太の手を離した。##NAME1##は全く気にしていないようだったが、晴太の顔は完熟トマト並みに真っ赤である。


「フン、手間のかかるガキだな」


――フニフニで、気持ち良かった……。


そんな様子の晴太を余所に、##NAME1##は被っていたあの不気味な能面を放り投げた。


ハラッ


「………///」


晴太は、##NAME1##の顔を見ると、また新たに微かに頬を染める。それを、神威はジッと見つめていた。


――…アイツ、今絶対##NAME1##に見惚れてたネ……。


神威の目は、晴太の変化を見逃さなかった。
晴太は、まだ##NAME1##に見惚れていた。神威は、それに##NAME1##は不審そうに眉を潜める。

しかしそんな中、##NAME1##が晴太の視線に気が付いて問い掛けた。


「ん?どうした、俺の顔面に何か付いてるか?」
「ち、違うよ!」


その声によって晴太はハッと我に帰り、##NAME1##から顔を反らした。


スッ


「?」


不意に、##NAME1##が晴太に左手を差しのべる。それを晴太は、頭に?マークを浮かべて見つめた。


「………今から行くところまで、俺が抱えてってやる。ホラ、掴まれ」
「え!?」


――まさかの展開であった。自分から胸を触らせ、仮面を取り顔を見せてくれた##NAME1##に、晴太には小さいながらの恋心が芽生えていたのだ。


しかも晴太は、つい先程、自分では気付かないくらい夢中で、##NAME1##に見とれている。その##NAME1##が、自分を抱えて運ぶ、と言う。
しかし、自分は男だ、少しは男前なところを見せたい、というのが正直な晴太の今の心境だった。

しかし、相手が悪すぎた。相手は、女ながらに宇宙海賊春雨第七師団団長補佐という役職に就く女。
男女の立場が逆転してしまうのも、無理はない。男がただの地球人、更にそれが子供であれば、尚更であった。


「で、でも、お姉ちゃんが―」
「ナメるな、俺はそんなヤワじゃねー。そこらのヘボい浪人より遥かに強い」


そう言うと、##NAME1##は晴太を左腕で楽々と抱き上げた。それはまるで、子どもを抱く母親のような手つきで。


「あ、ありがとう、お姉ちゃん」
「気にすんな。コイツなら、自分の力を制御出来なくて、お前を潰し兼ねない。だからと言って、阿伏兎か云業に任せでもしたら、お前、今にも泣き出しそうだったからな。お前ら二人、面恐ェし」
「悪かったな、生まれつきだ」
「日頃の行いの悪さだろ」
「ンだとコラァ!」
「冗談だ」
「冗談かよ…」
「それにだな………」


##NAME1##は、晴太に向き直って言った。その顔は、眉間に皺が寄っている。


「お姉ちゃんって呼ぶのは止めてくれ。俺がそんな名称で呼ばれているのかと思うと、鳥肌が立つ」
「でっ、でもお姉ちゃんじゃないかよ!一応、男じゃないんだからお兄ちゃんじゃないし……」
「でも俺は、お姉ちゃんなんてガラじゃないだろ。中身が男なんだから」
「でもお姉ちゃんだよ!その………顔も、む、む、む、むむむ胸も、ある、し…」
「お前、言ったなコラ、俺が一番気にしてることを」
「いや、揉ませたのアンタじゃん!って、ギャァァァ!ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!だからその手下ろして下さいぃぃ!!」
「ハハッ、冗談だ。……この胸、本気で削ぎ落とそうか迷ったんだからな」
「削ぎ落とすぅ!?」
「だからこのワードはNGだったんだ。………やっぱり邪魔だな、削ごうかな」
「お姉ちゃん、それは止めときなよ!!」


――何か……ムカつく…。


意外と仲睦まじく話す##NAME1##と晴太を、神威は不機嫌な表情で見ている。


――こりゃあ困ったモンだなァ。


その様子を見て、阿伏兎は困った様に頭をかき、先の見えないこの任務の行く先を心中で案じたのであった。

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春風