赤兎 - 春風
煩悩具足

ある小さな部屋に、晴太は監禁されていた。部屋の隅に三角座りをして、手首は背中で縛られたままの状態である。両足の間に顔を埋めてピクリとも動かずに、何もせずただ座っていた。
そんな、物音一つしない静かな時。


コンコン


何の前触れもなくノック音がし、晴太はその小さな肩をビクンと震わせ跳ね起きた。


「だ、誰だよ!」


すると、襖の外から##NAME1##の声がした。


「あぁ、俺だ」


その声に、晴太は肩の力を抜いた。何故なら、晴太は##NAME1##とは既に仲良くなっていたからである。

だから、##NAME1##が「少し用事があるから、阿伏兎にお前を預けるからな」と言われた時、晴太は情けないとは思いながらも半泣きになった。しかもその後、手を縛られ鳳仙の前に出された時は、今までに一度も感じたことのなかった程に恐ろしい思いをしていた。
この時程に、##NAME1##との再開を待ち望んでいた時はない。


スッ


その声と共に襖が開いて、##NAME1##が入って来た。


「!!」


しかし晴太は、我が目を疑った。
そこには、##NAME1##であって##NAME1##でない、先程までの##NAME1##とは違った格好の##NAME1##がいた。


「何だ、分からないか?」
「あ、い、いいい、いや!び、びびびびびっくりしちゃって!」
「…お前、吃り過ぎ」


##NAME1##は、これまた神威が見たら卒倒しそうな程に妖艶な、花魁の姿をしていたのだった。
派手で豪華な模様の着物を胸の辺りを着崩し、髪の毛を高く結って髷にして、簪をたくさん差していた。顔には白粉こそ塗ってはいなかったが、唇には真っ赤な口紅を塗り、その元からの容姿を更に美しいものにしている。


―――本物の花魁の姉ちゃんよりも、ずっとずっと綺麗だ。


そう感じた晴太は、その姿に魅入ったのだった。

##NAME1##は片手にはお盆を持っていて、それには白い皿に大きな握り飯が二個と湯呑みに入ったお茶が乗っていた。
##NAME1##は、襖を自分の後ろ手で閉めた後、ジッと晴太を見つめた。


「……縄は、アイツらに縛られたのか?」


晴太は頬を染め口をポカンと開けて##NAME1##に見とれといたが、やっと我に返った。
##NAME1##が言っているのが、自分の手首に縛られている縄のことだと理解したのは、その少し後のことだった。


「あ、コレか!多分縛ってないと、オイラが逃げ出すって思ってるんだと思うよ…」
「…そうか」


すると##NAME1##は、晴太の元に近付き、一旦躊躇した後晴太の隣に座り込んだ。只でさえ##NAME1##を見て心臓がバクバクに緊張している晴太は、思わず身を堅くした。

そして―………


シュルッ


「ア、アレ?」


―――縄は、いつの間にか畳の上に落ちていた。


##NAME1##は、不思議そうに自分を見つめる晴太から、若干目を反らして言った。


「………今のは、俺の刀が誤って鞘から抜けて、誤ってお前の縄を切っちまっただけだ。だから、俺もお前も何も悪くない」


言葉は相変わらずぶっきらぼうだったが、晴太には##NAME1##の優しさが伝わって来た。すると##NAME1##は、持って来たお盆を、手が自由になった晴太の前に移動させた。


「ほら、食え」
「……い、いいの?」
「腹減ったろ。俺のだから気にせず食え」
「なっ!?お姉ちゃんのなら食えないよ!」
「はぁ?うっせーな。俺は元々食が細いんだ、食え」
「で、でも……」


晴太の無駄に頑固な所に少し苛立ったのか、##NAME1##は乱暴に握り飯を掴んだかと思うと、いきなり晴太の口の前に突き出した。
晴太はいきなりのことで目の焦点が合わず、しばらく迷っていたが、##NAME1##が突き出したままのそれを手に取り、一口食べた。


「……美味しいや」
「そりゃあ良かった」


ただの塩の振ってある握り飯だったが、酷く空腹な今の晴太には十分だった。
##NAME1##はその様子を満足そうに見遣り、晴太がそれを頬張る最中、その隣で黙って静かに見守ったのだった。

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春風