赤兎 - 春風
煩悩具足

神威は「頑張ってね〜」と言って阿伏兎の背に手を振った。

しかし直ぐに何かを思い出したのか、パッと廊下に飛び出して阿伏兎を呼び止める。


「あ、ねぇ阿伏兎!##NAME1##知らない?」


──げ、来た。


阿伏兎は、嫌な予感に思わず身を強張らせた。


「し、知らねーな。あのお嬢ちゃん、まーたいなくなっちまったのか?」
「……あぁ」

すると神威から出る不機嫌オーラが一気に増した。阿伏兎の体全身に、冷や汗が流れ落ちた。


――ヤバい、今ここでキレられでもしたら…。


その途端であった。


スパン!


「「!?」」


勢い良く、廊下とは違う方向の襖が開いた。二人は反射的に警戒体勢を取った。

しかし―………


「あ、いた。おいお前、云業殺したらしいな」


──丁度そこに立っていたのは、散々探していた##NAME1##だった。


しかし##NAME1##は、花魁の格好をしている。その姿は妖艶で美しく、普段の##NAME1##からは感じられる色気とはまた違う、女の色気が漂っていた。


──ヤバい、鼻血出るかも。

勿論##NAME1##を見た神威の顔は、一気に真っ赤に染まっていた。阿伏兎も、思わず##NAME1##を見つめた。


「あ?どうした、二人して」


──いや、鈍過ぎるだろ。


阿伏兎は思わず内心ツッコミを入れた。自分の容姿がどれ程のものかを全く理解していない##NAME1##なのであった。

一方、神威はと言うと―……


「##NAME1##、誘ってるのかい?一発ヤる?」


──いきなりの下ネタ発言だった。


そこで##NAME1##は、ようやく動揺した様子を見せた。


「だ、黙れ!この格好は成り行きだっ!」
「どんな成り行きだったら花魁の格好することになるの?」
「うるせェ黙れ!お前には関係ない!」
「関係、大アリだヨ?」


いきなり神威の口調が変わった。それを感じたのか、##NAME1##も口を閉ざし、黙って神威の言葉に耳を傾けた。


「勝手に突然いなくなって、散々俺に心配を掛けさせて探させて、挙げ句に花魁の格好してご登場なんてさ。ホント、いい度胸してるよネ?」
「わ、悪かった」
「そう思うんなら、事情を説明しなヨ」


神威は、いつになく強い口調で言った。##NAME1##はしばらく躊躇った後、仕方なくといった体で口を開いた。


「絡んで来た鳳仙の下っ端がいて、ちょっと邪魔だったから消して来た。いつの間にか血まみれになっちまって、目立つからそこにあった着物に適当に着替えてたんだよ。今、たまたま襖が開いてる部屋の前を通ったら、そこにいたどこぞのお偉いさんが、俺を買うだの買われろだの騒ぎだしてよ。ハハッ、また顔面潰して逃げてきた。ほら、コレだ」


そう言って乾いた笑い声を立て、右拳を神威に見せる##NAME1##。確かに右手の甲には、薄く血が付着している。
花魁の着物を纏ったその容姿に合わぬ冷徹な笑いに、阿伏兎は沈黙した。

すると、いきなり##NAME1##は笑いをピタリと止め、阿伏兎の無くなった左腕をジッと見つめて阿伏兎の顔を見た。


「お前、……腕……」
「ん?あぁ…これか」


##NAME1##が言いたいことを察知した阿伏兎は、肩を竦めて言った。


「団長と鳳仙の喧嘩を止めようとしたせいでな。アンタからしちゃあまだまだだろーが、俺からしちゃあ、腕一本で済んで良かったってモンだよ」
「……馬鹿野郎。来い、手当てしてやる」


そう言った##NAME1##は阿伏兎に手招きをした。


「いや、大丈夫だ──」
「うるせぇ、黙ってろ」


すると##NAME1##は阿伏兎に近付き、強引に阿伏兎の残っている右手首を掴み、グイグイと引っ張り神威のいる部屋に押し込んだ。そして、部屋にあった箪笥を漁り救急箱を取り出した。

阿伏兎の手当てをする##NAME1##の手付きは、慣れたものだった。神威はその一連の流れに素直に感心した。


「へぇ、上手いね、##NAME1##」
「当たり前だ。俺はお前等夜兎とは違って、怪我しても中々治らないことが多いしな」
「それもそうだね。今度からは俺が手当てしてあげよっか?体の隅から隅まで見てあげるよ」
「全身全霊掛けて遠慮する」


その口調は氷のように冷たかった。


──やっぱり、##NAME1##だな。


神威と阿伏兎は思った。見た目はどれ程違っても、中身はあの##NAME1##だった。
元々ただ、その容姿と中身が余りにも差があるだけなのだ。

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春風