鬼滅の刃 - 春風
悪夢

死に場所を探して私は旅に出た。外出ではなくただ死にに行くだけなのだから、荷物は一つ──自分の腹を殴り裂く為の斧だけだ。
決して死体が残らないような場所。自ずと僻地の海へと足が向いた。

二日間歩き続けた。喉の渇きと腹の飢えも、自然と気にならなかった。死に行く人間とは、皆全てこういうものなのかもしれない。
夜、森を抜ける。潮風を感じるようになって来た。どうやら海はかなり近いようだ。

──嗚呼、これで漸く死ぬことができる。




「お前、美味そうだなァ…」

腐敗した血の臭い、異形の生物を見た。

「俺は幸運だァ…生娘の肉は美味いんだ…」
不思議と恐怖は感じなかった。前までの私であれば、生物を目の前にすれば少しは怖がっていたはずだ。


「あなた、人を食べるの?」




「気持ち悪い。私に触るな」

斧を振るう。手が落ちる。
メキメキと音を立てて再生した。

どうやら、死なないようだ。
「私ね、昨晩父と祖母を殺しちゃったの」


「元より、失うものは何もない。怖いものなんて、もう何もないわ」


「ヒィイイッ!!も、もうッ、もう止めてくれぇええ!!!これ以上痛い思いはしたくねぇえ!!!」
「何故?だってあなたから言い出したじゃない」


朝日が昇ってしまったようだ。すると、異形はジュウゥ…という音を立てて消えてしまった。
夜のうちに海へ身を投げ出したかったのに、この異形のせいでかなり時間を食ってしまった。

人の気配を感じて振り向く。まさか、見られていたのか。
どちらにせよ、私はこれで死ぬことができるようだ。

「……これは、お前が殺したのか」
癖のある長い黒髪を後ろで一括りにした、涼しげな目元をした男の人が佇んでいた。腰に刀を差している。この廃刀令の敷かれた時代に、珍しい。侍は滅んだと思っていたが、私の知識は間違っていたようだ。


「…ただ攻撃して来たから受けて立っただけです。朝日が昇ったと同時に、異形は勝手に消え去りました」


「……全集中の呼吸が、使えるのか」
「呼吸?」


「…私は、腹の底から湧き上がる怒りを抑えるように深呼吸をしただけですが」



「──鬼殺隊に入らないか」

「……キサツタイ?」
「お前は俺と来い。お前には才がある、鬼を殺せる才がある。だから来い」
「いいえ、私は罪人です。これから海に身を投げて死のうと思っています」


「…鬼殺隊には、様々な境遇の人間がいる。いいから来い」

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春風