鬼滅の刃 - 春風


【新鬼滅/伊之助姉】2


「…疾風、蝶屋敷へ至急報告を」
「カシコマリマシタ」


「危なかったなぁ!!君、俺が今まで相手をした鬼殺隊の人の中で一番強いよ!!すごいなぁ〜!!もしかして柱かい?」


 泉の地の呼吸は、遠方からの攻撃を可能にする。つまり、上限の弐の攻撃を受け流すことが可能だ。


「うーん、君と僕との相性はあんまり良くないみたいだなぁ〜。君の刀、女の子が持つには随分と長過ぎないかい?」
「あなたには関係ない」


「もっと戦っていたかったけど、もう夜明けだ。また会おうね!あ、そうだ。君の名前は?」

「ただの咎人よ」

「なら余計に救ってあげなきゃ!」
「何故?──そんなもの、一体誰が頼んだ」

 空気が冷え込む。ピリピリとした殺気が肌に突き刺さる。本能的な恐怖に、童磨は笑顔を緩めぬまま警戒心を強めた。

「貴様の下らない自己満足に、私を巻き込むな」


「私の死に場所は、もう既に決まっている。咎人は少しでもより多くの咎人を道連れに、とっとと地獄に行くだけ」




「あれれ〜??君の顔、見覚えがある」

 泉の動きが、ピタリと静止した。





「琴葉は、君が来ると信じて、ずぅっと待っていたのになぁ」

 琴葉。紛れも無く、母の名だ。


「君が来ないことに絶望して、俺に救いを求めたんだ」

「君が俺に食べられたら、俺の中で一緒になれるよ」



 つまりは──母・琴葉の死を意味する。




「伊之助、は」
「ん?ああ、君の弟だよね。」


「俺は必死で止めたんだよ?でも、止める暇もなく、あんな崖の上から[[rb: > ・・・・・]]落とされたんだ…もう死んでしまったよ」


「……貴様は一つ、嘘を吐いたな?」

「貴様の話には矛盾があるだろう」



「落とされた?貴様はそう言ったな」




「母が伊之助を理由もなく手放すものか。そして、お前が赤子の柔らかな肉を食べないはずがない。母を食べて、救ってやろうということが頭の片隅を占めていたとあらば、尚更に母子を共に腹の中で生かしてやろうと考えたはずだ」


「君、俺のことをよく分かってくれているんだね〜!!」



「俺が人を喰っていることに、琴葉が気が付いちゃって。俺が人を救っていると言っても聞く耳を持ってくれなくってさぁ」

「俺は万世極楽教の教祖なんだ。信者の皆と幸せになるのが俺の務め。その子も残さず奇麗に喰べるよ」

 これが本当の憎悪というものだ。人は、これを憎悪と呼ぶのだ。

「極楽浄土なんて存在しないのにね。人間が妄想して創作した下らないお伽噺だ。神も仏も存在しない」

「肺胞が壊死しているから辛いよね。さっき俺の血鬼術吸っちゃったからな」

「!!」
「…驚いた?私の体、母とは違ってとても丈夫なの」


「貴様の氷は、紅蓮の炎で溶けるのか?」




「花柱様、服をはだけますね」
「い、ずみ、ちゃん」
「今は呼吸に集中していて下さい」

「姉さん…ッ!!!」
「しのぶ、このまま蝶屋敷へ運ぶ。至急治療しなければ死に至る」



「……ッ、」
「花柱様は辛うじて生きている」
「!!」
「お湯を沸かして、体を温めて差し上げて。体の芯から冷え切っている」

 コクリと頷いたカナヲは、全力で

*****

「泉…!!」


「……私は、ただの擦り傷です」


「…手のあかぎれの方が、よほど染みました」


「君が無事で、本当に良かった…」

「…他ならぬあなたに、鍛えてもらっていますから。簡単には、死ねませんよ」



呼ぶほどに己の中の理性の糸が、躊躇いの糸が、全ての血管が切れてゆく。母と弟を、お前が喰ったのか。
 泣き叫ぶ姉を、 姉たちを逃がそうとするであろう母を、 母達を守ろうとするであろう父を 母を求める赤子を、笑って殺して喰ったのか。
「童磨ァァァァァァァァァァァァッ!!!!」
私は煉獄千寿郎の眼前で何百回以上見てきた通りの動きのまま、目の前の黒振袖を横一閃に斬った。 床を引きずる着物の裾、そして長い振り袖が音もなく落ちる。 一瞬遅れて振袖を掲げていた衣紋掛けが崩れ落ちてゆく。 畳の上に着地した黒い着物に、背中のひと際大きな一羽の丹頂鶴だけが残った。 私と同じ、ひとりぽっち。

「…殺してやる」


 が出来なくても、お前だけは絶対に殺してやる。


 泉は大きく肩で息をしながら鶴を見下ろした。 一人ぽっちの鶴が、未練がましく紅葉柄をまだ纏ってる。


 煉獄さん、あなたという柱は絶対必要なのだ──最後の戦いまで。

 上弦の弐、童磨。
 大切な人をもう誰も死なせない。絶対に殺させない。

「絶対に殺してやる…」

みぢみぢみぢと泉の中の糸が血管がさらに切れる音が響いてゆく。
何が家を回すだ。何が支えるだ。こんな非道極まりないことをされてそんな他人任せなこと、誰ができるか。脇役だろうがどうでもいい。私の持つもの全部投げ出して鬼どもお前ら皆ぶち殺してやる。犬歯が噛み千切って、ぶつんと泉の唇が切れる音がした。



[newpage]


 その日の鋼鐵塚は、とてつもなく機嫌が悪かった。

「ああああああ!!!うるせぇなあ!!!」



「…何事だ?」

 その翡翠が鋼鐵塚の姿を捉えた途端、静止する周囲を払い除けて這い寄る。ボロボロの身体で、

「ッ、ごめんなさい」



「折れ、ちゃった」

 こんな風にボロボロになりながら這うようにして来る女は、少なくともいなかった。こんなになってまで泣きながら謝りに来る女は、少なくともいなかった。

 どいつもこいつも、俺の刀を消耗品のように扱いやがって。そう悪態を吐き捨てたのも記憶に新しい。だから鋼鐵塚は機嫌が悪かったのだ。


「ぅ、ふぅ…」

 無念の余りに身を引き裂くような声を必死で押し殺してさめざめと泣く女は、少なくともいなかった。


「ッ、私が弱かったからだ!!!私が何にもできない未熟者だからだ!!私が何も守れぬ若輩者だからだ!!!」


「ッ、私が、身内の死に様を聞かされて、動揺するような、弱者だからだ…」


「上弦だか何だか知らないけど、そんなのは関係ない。全ては、弱い私が悪いんだ」



「あなたの、あなたの魂である刀を、折ってしまった」

 鋼鐵塚に縋り付く。


「本当に、ッ、本当に、ごめんなさい」



「……誰が、[[rb:殺 > や]]られた」


「ッ、母と、弟」


「どこかで生きていると、思っていた。だから、どうにかここまで頑張れていた。何とか、折れないでこれたの」
「……」
「でも、ッ、母と弟は、とっくの昔に!!あの上弦の弐に殺されていた!!!」

 泉が咆哮する。

「馬鹿な私は何にも知らずに、馬鹿みたいにずっとひたすら鬼を狩っていた!!母と弟が安全であるという保証なんて、この世のどこにもなかったのに!!」

 ぎりりと奥歯を渾身の力で噛み締める。ビヂビヂ、額と首筋に青筋が浮かび上がる。爪の間に真新しい泥が入り込んでいる、ぎざぎざに裂かれた短い爪が掌へと食い込んで、掌の皮膚を裂き鮮血を滴らせる。


「鬼が許せない!!鬼舞辻無惨が許せない!!何より、ッ──考え無しの愚かな己が許せない!!!」

 


「絶対に許さない!!!許さない!!地獄に叩き落としてやる!!!引き摺り落としてやる!!アイツだけは死んでも許してやらない!!!童磨、童磨ぁああああ!!!」


 うわぁああああああ!!!




 後頭部をむんずと鷲掴む。鋼鐵塚の大きくて広く分厚い刀鍛冶の掌は、泉の小さな頭を容易に覆ってみせた。

 その頬を分厚い両の手で挟み込み、無理矢理こちらへと向かせる。
 同じ人間のものだとは思えぬ宝石のような翡翠が、ゆるゆると揺らめいている。鋼鐵塚のいっとう好きな美しい色だ。この腕の中に閉じ込めて、誰にも見せないで独り占めしていたくなる。だが、それは泉が剣士であるが故に、そして鋼鐵塚が刀匠であるが故に赦されようはずがないことを、鋼鐵塚は誰よりも理解していた。女の鬼狩りは当然、子を孕めば戦えなくなる。鬼を狩る呼吸の型の中には難しい体勢からの抜刀も多く、上下左右に重心移動を絶えず繰り返す激しさを極める戦闘に、安定期云々を抜きにしても腹の子が耐えれるはずがない。そもそもまず第一に、腹が大きくなれば当然邪魔になり、剣士としての実力に支障を来し、鬼の頸を狩れずに死に至るやもしれぬ。

 男の刀匠と女の剣士の恋愛は、決して何処の何にも明記はされてはいないとは言えども、どうしたって鬼狩りの道に反するのだ。


「…お前、大太刀を扱ったことがあるか」

 緩やかな弧を描く長い睫毛の上に、涙の玉がぽろりんと乗せられている。泉がぱちくりと羽ばたかせると、その宝石は空中に煌めき弾け飛んだ。

「ッ、ちょっとだけ」
「それはこの一年の間か」
「…ううん、もうずっと前よ」

 鋼鐵塚は、泉の頬を挟み込んだまま離そうとしない。泉は目の前の大きな黒目の、意思どころか我も欲も生命力も何もかもが強い瞳をジィと見つめた。その癇癪持ちな言動からは想像が付かないくらい、とても美丈夫だ。


「──テメェの獲物を、変える勇気はあるか」
「!!」


 泉がはっと息を飲む。予想だにせぬ提案申し出に、思わず呼吸がピタリと止まる。鋼鐵塚はその黒々とした強い瞳で、動揺で打ち震える翡翠を射抜いたまま淡々と続けた。

「血の滲むような鍛錬が必要だ。普通の刀剣とは違うから変な癖もつくかもしれねえ。それに、まだ確実に上手くいくとは言えねえ。強くなるとは言い切れねえ。…それでも、やるか」

 

「俺は、こんな大博打なんざするもんじゃねえと思っていた、思っていた。けどな」


「テメェが脇目も振らず突き進むのを見て、手脚が引千切れるくらいに、声が枯れるくらいに叫ぶのを見て、命散らして鬼を滅するのを見て、思っちまった──その賭けに乗ってやるのも悪くはねぇ」


「強くなれるかもしれない。だが、今まで築き上げてきたものを一旦捨てる、茨の道だ」

「テメェはこれに乗るか、退くか」




「それで強くなれるのなら──魂でも何でも、私はあなたに売り渡す」

 


「……[[rb:何 > ・]][[rb:で > ・]][[rb:も > ・]]なんざ、気安く言ってんじゃねーよ。人の気も知らねえで呑気に寝こけやがって」

 クゥクゥと気持ち良さそうに寝息を立てる泉の頬に光る涙を、火傷だらけの硬く分厚い手で乱雑に拭ってやる。艶めく頬の白肌が、月の光を浴びてなまめかしい色香を放つ。鋼鐵塚はゴクリと喉を鳴らして唾を息を飲んだ。


「…チッ、くそが」
 しかし鋼鐵塚は、どうにも下衆野郎には成り下がれない。泉水の湧き水のように溢れ出た欲を、唾と一緒くたにして胃の底へと押し込み、決して浮かび上がって来ぬようにと上から重石を乗せる。

 鋼鐵塚は、女としての泉のことが好きではあるが、それと同時に──剣士としての泉のことも、これまたいっとう好きなのだ。


[newpage]


 泉が目を覚ます。

 いつの間にか布団で寝かされていた。

 鋼鐵塚の姿を探すと、何やら鋼の選定をしているようであった。


「……ごめんなさい」

 鋼鐵塚の前で正座していた。

「あんなにみっともない所を、あなたに見せてしまって」

それを下らないとばかりに一蹴した。

「ああん?あれも含めてお前だろ。今さら気色悪い遠慮なんざしてんじゃねえ」


「…お前は、俺の刀のせいでそんな傷作ったんだろうが。俺の刀が折れたばっかりに」
「いいえ、それは違います」


「あなたの刀だったからこそ、これだけの傷で済んだんです。あの刀じゃなかったら、私はきっとあそこで死んでいました」
「そうじゃねえだろ!刀が折れなきゃ、お前はそんな怪我負うこたぁなかった!鈍作った俺の責任だ!」
「まさか。鋼鐵塚さんの刀が鈍な訳ないでしょう」
「ああ?お前に刀の何が分かるんだよ」
「…分かりますよ。ずっと、使って来たんですから」


「折るなと言ったり俺の責任だと言ったり──本当、面倒な御仁ですね」

 ククと喉の奥で笑った泉に、


「…まずはその生傷だらけの身体を治せ。温泉の場所くらいは分かるだろ」


「…ありがとう、鋼鐵塚さん」
「フン」





 泉は心身の療養も兼ねて、暫くの間を刀鍛冶の里へお世話になることになった。


「お前、このクソ暑ぃ時期に天麩羅はねえだろう!!天婦羅は!!俺を暑さで殺す気か!!」
「でも、里長様から高級な菜種油を頂いたの。使わなきゃ勿体ないわ」
「俺は今日は酢っぺえ食いモンの気分だ!!」
「酢の物も作ってます。あなたは刀鍛冶よ、暑さには強いでしょうに」


 味噌汁を飲んで一言。

「…味が薄い!!」
「濃過ぎたら素材の味が分からないでしょ」
「京の人間みたいなこと言ってんじゃねえぞ!!」
「あら、ごめんなさい」
「ブン殴るぞ!!」
「もう殴ってるよ」

 ぽんぽんと投げ交う言葉に、泉はふふと吐息だけで楚々に笑った。
 人の気も知らねえで。どこまでも腹立たしい女だ。鋼鐵塚はフンと鼻を鳴らしながら口に入れた。





「鋼鐵塚さ〜ん!!いますか〜!!」



「鋼鐵塚さんなら温泉に行っています」



「……えっ!?」



「は、鋼鐵塚さんのいい人ですか!?」


「私は鬼殺隊員甲の嘴平泉と申します」
「ああっ!鬼殺の剣士様でしたか!そうとは露知らず…申し訳ありません!」
「いえ、お気になさらず」



「」


[newpage]


「……ここに、嘴平泉が来たか」


「ああ、来てるぜ。今は温泉に行ってやがる」

 その違和感に悲鳴嶼が眉根を寄せる。

「…まさか、ここで寝泊まりをしているのか」
「俺が言ったんじゃねぇぞ。アイツが勝手に泊まり込んでんだ」


「…へえ?」

 

「するってえと、アンタがアイツが言ってた師範さんってことか。道理で、なぁ」
「……何が言いたい」
「いや?随分と過保護が過ぎるじゃねえかと思っただけだ」

「…君は、泉を好いているのか」
「安心しろ。死んだって言うつもりはねぇよ」

 つまりそれは、肯定と同じだ。


「女としてのアイツもいいが、剣士としてのアイツはもっといいからなぁ。…俺の打った刀を、これ以上ねぇってくらいに昇華しやがる」

 うっとりと目を細める鋼鐵塚に、悲鳴嶼の眉間の皺が深くなる。

「刀匠として喜ばねぇ訳があるまい」



「岩柱さんよお」
「……何だ」
「大切に大切に仕舞い込んだって、アイツはきっと、俺らの言うことになんざ聞く耳も貸さずに、鬼の元へ飛び立ってくぜ」

「…それくらい、言われずとも分かっている」
「へえ?だといいがな」





「味付けが絶妙に薄いんだよ。あんなになるまでどこで仕込まれたんだかなぁ」
「……戯言を」

 悲鳴嶼は鼻であしらって、鋼鐵塚の小屋を後にした。





「し、師範!」


「お越しだったのですね」
「…ああ」


「…湯上りの女が、無闇に外を歩き回るな」

「で、でも…露天の温泉から帰るには、外を歩くしかなくって」

 悲鳴嶼とて、それくらいは分かっていた。頭で理解してはいても、どうしようもなく腹が立つのだ。


「宿に戻るぞ」
「えっと…私、今は鋼鐵塚さんのところでお世話になっていて」
「──嫁入り前の女子が、軽々しく男の家に上がり込むな」

「も、申し訳ありません」
「……」

 悲鳴嶼とて、泉に謝らせたくてこのようなことを言っているのではないのだ。


いつものお小言とは違う声色に、泉が


[newpage]


 大太刀は、それをはるかに上回る三尺以上の刀身をもっている。


「体格に恵まれた者でないと、扱いそのものが難しい。万人向けの武器じゃねえ」

「大太刀は基本的に騎馬戦闘用の武器で、下馬戦闘用の武器じゃねえ。本来は馬の走る勢いを利用して馬上から歩兵を叩き切るもんだ。腕力に自信がある武士が白兵戦で使用する場合もあったが、それは極稀だ」

リーチを活かして馬上の敵を攻撃することもできました


戦国時代には、朝倉氏や長尾上杉氏が「力士隊」と呼ばれる巨躯巨漢の者を集めた部隊を編成し、大太刀を持たせて戦わせたことが記録されている。朝倉氏の家臣である真柄直隆・直澄兄弟は、共に戦場で五尺三寸の大太刀を用いて奮戦し、両名ともに姉川の戦いで討ち取られたものの、その大太刀は「太郎太刀」「次郎太刀」の名で伝えられている。


通常の太刀は柄の中程を握り、柄頭(柄の一番端の部分)に付けられた手貫緒と呼ばれる紐を手首に通して脱落防止としたが、大太刀の場合は鍔元に近い部分を握り、手貫緒を肘の部分に通して締め、拳と肘の二箇所で柄を保持し、刀の重さを支える。
刀を振る際は肘から先の前腕を一体として振り、通常の太刀や打刀のように手首を動かすことはしない(そのようにすると刀の重さを支えられないばかりか、手首を痛めてしまうことになる)。
このように構えた大太刀は、「刀」というよりは薙刀や槍などの長柄武器に近いものであり、武士同士の馬上決戦での突きや切り払い、または馬上から足軽に向けての突きや切り払いを行った。落馬した、もしくは下馬した際にも地面から馬上の敵を狙い突きや切り払いをするものとして扱った。



 大太刀は長い武器であるために、細かな動きをし辛く、用いる際には周囲の味方を巻き込まないように戦う必要性が出てくる。古武術には大太刀を使った徒戦の戦闘技術が残っており、合戦などで技術研鑽されてきた徒戦の戦場の武器とも言える。


左肩から右腰に背負う場合が多い。右利きの場合、大太刀を抜く際は左手で左肩から出ている鍔元を掴み、刃を上に向け、鯉口を相手の正面側に向ける。そして右手で柄を持って鯉口を切り、右手を前に伸ばしながら大太刀を抜く。



「……何じゃあ、あの別嬪なおひいさんは」


「あ?馬鹿抜かしてんじゃねえ。嘴平泉だよ、剣士の」

 鋼鐵塚は内心でこっそり同意した。鋼鐵塚とて、満更でもないのだ。


──泉の身体は、すっかり女になっていた。


[newpage]



「本当に、お世話になりました」


「──般若」

「そのツラだと、鬼に舐められるっつってたろ」

「……鋼鐵塚さんって、本当器用なのね」



 鋼鐵塚が知っていたかは定かではないが、心機一転の意もあるのだ。

「ありがとう。ずっと付けてます」
「……馬鹿か、ずっとは怖すぎんだろ」


[newpage]


 私は死なない。少なくとも、まだ死ぬつもりはない。救われた時点で、私の命は、私だけのものではないのだから。
 生かされるということは、生きていて欲しいと願ってくれた誰かの想いを繋いでいくことだ。私を抱き留めてくれる小さな腕も、助けてくれた白い指先もすべて、忘れない。鋼鐵塚さんがもう一度打ち直してくれた、朱殷の血のこの刀も──全部、無駄にしたりしない。
 諦めない。諦めたくない。負けたくない。──頑張らないと。誰かに頑張ろうと、偉そうなことを言えるのは、同じくらい死ぬ気で頑張ろうとした人間だけだ。
 
 しのぶと別れて、廊下を歩く。そろそろ炭治郎たちも挨拶を終えた頃だろう


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春風