黒髪のウィーズリー成長記 - 春風
組分け帽子

夜の黒い湖を小船で渡ったランは、新入生の集団に混じってホグワーツの城の門をくぐった。重厚な石造りをした扉の先にある広い玄関ホールでは、エメラルド色のローブを着た背の高い黒髪の魔女が待っていた。厳格そうな顔つきをした老女だ。ランはこの魔女が誰だかは、予め兄達から聞かされていた。グリフィンドールの寮監である魔女──マクゴナガル教授は、ハグリッドから新入生を引き受けると、視線をハリーたちに移した。
玄関ホールは広く、石壁が松明の炎に照らされ、天井はどごまで続くか分からないほどに高い。壮大な大理石の階段が、正面から上へと続いている。

マグゴナガル先生について、生徒達は皆石畳のホールを横切り、ホールの脇にある小さな空き部屋に押し込まれた。窮屈な部屋に詰め込まれ、ランは顔を顰めた。生徒はそれぞれ不安そうにキョロキョロとしながら、互いに寄り添って立っていた。


「ホグワーツ入学おめでとう」
生徒達よりも高いところに立ったマグゴナガル先生が、生徒を見降ろし挨拶をした。

「新入生の歓迎会が間もなく始まりますが、大広間の席に着く前に皆さんが入る寮を決めなければなりません。寮の組分けの儀式は、これから皆さんの生活に深く関わってくる大切なものです。教室でも寮生と一緒に勉強し、寝るときも寮、自由時間は寮の談話室で過ごすことになります」

マクゴナガル教授はいったん言葉を切ると、新入生達の顔をグルリと見回した。


「寮はグリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリンの四つあります。それぞれ輝かしい歴史があって、偉大な魔法使いや魔女が卒業していきました。ホグワーツにいる間、皆さんの良い行いは自分の属する寮の得点になり、反対に規則に違反した時は寮の減点になります。学年末には、最高得点をあげた寮には大変名誉ある寮杯が与えられます。どの寮に属することになっても、皆さん一人一人が寮にとって誇りとなるよう望みます」

先生がグルリと見渡すと、生徒達は一層に表情を強張らせた。


「まもなく全校列席の前で組分けの儀式が始まります。待っている間、できるだけ身なりを整えておきなさい。学校側の準備ができたら戻って来ますので、静かに待っていて下さい」

マグゴナガル先生は一瞬、ネビルのマントの結び目が左耳の下の方にズレているのに目をやり、ロンの鼻の頭が汚れているのに目を止めた。ランはハンカチを取り出し、ロンの顎を掴んで鼻をゴシゴシと擦ってやった。ハリーはそわそわと髪を撫で付けた。

先生が部屋を出て行くと、皆がコソコソと話を始めた。ハリーやロンのみならず、他の生徒も皆が一様に同じく組分けの儀式を怖がっているようだ。
一方ランは、静かに一人で天井を見上げていた。すると、壁からゴーストが二十人くらい現れた。何やら議論をしているようで、新入生の方には殆ど見向きもせず、互いに話をしながらスルスルと部屋を横切っていった。真珠のように白く、少し透き通っている。周りの生徒達は悲鳴を上げて、ハリーや何人もの生徒がびっくりして宙に跳び上がっていた。


「さあ、一列になって。ついて来て下さい」

間も無く戻って来たマグゴナガル先生がそう言うと、生徒たちを一列に並ばせ、大広間へと導いた。ランはハリーと横に並びその後ろにロンが続き、大広間へと入った。


「…!!」

ランは、思わず天井を見上げた。何千というきらきらと輝く蝋燭が空中に浮かび、天井には天鵞絨ビロードのような黒い空に星が点々と移されて光っている。
大広間は、四つの長いテーブルがあり、その上には空っぽの金食器が並び、たくさんの生徒が席に着いて、上級生達が新入生を待っていた。それを越えた先、広場の一番奥の上座には教職員席があるそして、その少し手前には、四本足の背の高い椅子と、古ぼけた汚らしいとんがり帽子が置かれていた。
マクゴナガル教授は新入生を上座のテーブルの前まで連れてくると、在校生たちの方へ振り向かせ、一列に並ばせた。

大広間が水を打ったように静まり返った。やがて椅子の上の帽子がぴくぴくと動き、つばのへりの破れ目が、まるで口のように開いて歌い始めた。


「私はきれいじゃないけれど
 人は見かけによらぬもの
 私をしのぐ賢い帽子
 あるなら私は身を引こう
 山高帽子は真っ黒だ
 シルクハットはすらりと高い
 私はホグワーツの組分け帽子
 私は彼らの上をいく
 君の頭に隠れたものを
 組分け帽子はお見通し
 かぶれば君に教えよう
 君が行くべき寮の名を

 グリフィンドールに行くならば
 勇気ある者が住う寮
 勇猛果敢な騎士道で
 他とは違うグリフィンドール

 ハッフルパフに行くならば
 君は正しく忠実で
 忍耐強く真実で
 苦労を苦労と思わない

 古き賢きレイブンクロー
 君に意欲があるならば
 機知と学びの友人を
 ここで必ず得るだろう

 スリザリンではもしかして
 君はまことの友を得る
 どんな手段を使っても
 目的遂げる狡猾さ

 かぶってごらん!恐れずに!
 興奮せずに、お任せを!
 君を私の手にゆだね
 (私は手なんかないけれど)
 だって私は考える帽子!」


それは組み分けを歌ったものであった。歌が終わると、広間にいた全員が拍手喝采をした。帽子は四つのテーブルにそれぞれお辞儀をしてみせると、帽子は再び静かになった。それを確認したマクゴナガル教授は、長い羊皮紙の巻物を手にして前に進み出て声を上げた。


「ABC順に名前を呼ばれたら、帽子を被って椅子に座り、組分けを受けて下さい。──アボット・ハンナ!」

ピンクの頬をした金髪のお下げの少女が、転がるように前に出て来た。帽子が大きく、被ると目が隠れてしまうほどである。彼女が腰掛けた。一瞬の沈黙の後…。

「ハッフルパフ!」

帽子が叫んだ。
右側のテーブルから歓声と拍手が上がり、ハンナはハッフルパフのテーブルに着いた。ランは、太った修道士がハンナに向かって嬉しそうに手を振るのを見た。


*****

自分達の組分けが近付くにつれて、いよいよ本格的に気分が悪そうなハリーを、ランは不安そうに見た。

「ハリー、大丈夫?」
「……ラン。僕、どこの寮にも選ばれなかったらどうしよう」
「そんなことあり得ないわ。落ち着いて、深呼吸よ」

ランにそう諭されたハリーは、肩を上げ下げして大きく何度も深呼吸をした。
帽子がすぐに寮名を呼び上げる時と、決定に暫くかかる時があることにランは気が付いた。ランとハリーの前に並んでいた黄土色の髪をした少年「シェーマス・フィネガン」は、丸々一分間椅子に座っていた。それからやっと帽子はグリフィンドールと宣言した。


「グレンジャー・ハーマイオニー!」

ハーマイオニーは走るようにして椅子に座り、待ち切れないようにグイッと帽子を被った。

「グリフィンドール!」
帽子がそう叫ぶと、背後でロンが呻いた。

マルフォイは名前を呼ばれると、踏ん反り返って前へ進み出た。帽子はマルフォイの頭に触れるか触れないかのうちに「スリザリン!」と叫んだ。マルフォイは満足げに、仲間のクラッブやゴイルのいる席に着いた。
残っている生徒は少なくなってきた。ハリーとロンの顔がどんどんと青ざめていく様子を見て、ランは眉尻を下げた──何もそんなに緊張しなくても。

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春風