黒髪のウィーズリー成長記 - 春風
組分け帽子

「ポッター・ハリー!」

ハリーが前に進み出ると、突然広間中にシーッという囁き声がさざなみのように広がった。

「ポッターって、そう言った?」
「あのハリー・ポッターなの?」

広間中の生徒達が、首や体を出来る限り伸ばして、ハリーをよく見ようとしていた。
ハリーが椅子に座る。しかし、中々帽子が口を開かない。ハリーの組分けは、今までの新入生の誰よりも長い時間が掛かっていた。


──ホグワーツ魔法魔術学校校長アルバス・ダンブルドアには、この組分けにあたって二つの懸念があった。
一つ目は、ハリー・ポッターの組分けの儀式。同じ不死鳥の尾羽を使った兄弟杖に選ばれたということは、彼との共通点は如実である。あの闇に堕ちた青年と同じ道を辿っては欲しくはないと、ダンブルドアは強く願っていた。


「…グリフィンドール!」

一際大きな声でそう叫んだ帽子に、ダンブルドアは大きく拍手をした。フラフラとグリフィンドールの寮のテーブルへと向かうハリーに、ランも笑顔で拍手を送った。やっと我に返ったのか、ハリーは嬉しそうな明るい表情で、ランとロンの方を見やった。ランはハリーにおめでとうの意を込めて軽く手を振って笑った。しかし、ロンは自分自身の組分けの行方が心配で仕方ないのか、ハリーがこちらを見ていることに気が付いていない。その間も、次々と組分けは行われた。


アルバス・ダンブルドアの二つ目の懸念は──イチイの木、バジリスクの角を使った杖に選ばれた少女、ウィーズリー一家の“例の”長女の組分けの儀式である。

オリバンダーからそう聞かされていたダンブルドアは、そのきらきらと輝く聡明な明るいブルーの瞳で、残りの新入生四人を見やった。
次は、ランの番だ。


「ウィーズリー・ラン!」

ランが悠々とした落ち着いた足取りで進み出ると、辺りはシンと静まった。何故だろうと疑問に思うも、直ぐにランの視界は帽子の内側の闇に覆われた。

「ホホゥ、君は…そうか、君があのウィーズリー一家の長女か。ホホゥ」
低い声が、ランの頭に直接響く。

「難しい…非常に難しい…。ふむ、才能に満ち溢れている。闇に立ち向かう勇気もある。おお、自分の力を試したいという狡猾な欲望もある…。頭が非常に良い。いや、おもしろい…さて、どこに入れたものかな?」

こちらに問い掛けるように言った帽子に、ランはきっぱりと言い放った。

「スリザリンでなければ、何処でも」
「おお、なんと!」
帽子は大袈裟に驚いてみせた。

「スリザリンへ行けば、君は確実に偉大な魔女になる。それでも行かぬと?」
「…ええ。私は、何事もなく普通に生きたいの。それに──」

中途半端に言葉を切ったランに、帽子は続きを促した。


「──私に偉大なれる力があるとするならば、私はどこの寮に入ったとしても、なってみせるわ」

少し微笑んでみせたランに、帽子はハハハ!と大きな声で笑い、大広間でランの組分けを待つ人々を大いに驚かせた。

「そうか、そうか…。では──君の優秀な頭脳と弛まぬ努力に、敬意を評して」
帽子が広間全体に叫ぶのを聞いた。


「レイブンクロー!」


ワッと割れるような歓声に迎えられた。帽子を脱いだランは、帽子と上座にそれぞれ一礼をして、レイブンクローのテーブルへと走って向かった。

拍手に沸くランが席に着くと、皆がにこやかに挨拶を求めてきた。ランはそれに応じたが、すぐ後の自分の双子の弟の組分けを心配そうに見やった。しかし、そんな心配もどこ吹く風に、ロンは無事グリフィンドールに組分けをされた。ロンはハリーの隣に崩れるように座り込むなり、二人はレイブンクローのテーブルに座るランを見て、残念そうに眉を下げた。ランはヒラリと手を振って、また上座へと視線を戻した。


「…!」

来賓席の真ん中にある大きな金色の椅子に、校長のアルバス・ダンブルドアが座っていた。驚くことに──目が合った。ランは、自分の気のせいかと視線を右往左往させたが、確実に目が合っている。当惑したランが軽く頭を下げてみせると、ダンブルドアはニッコリと笑いウインクをしてみせた。

──その後、ダンブルドアの少しぶっ飛んだ挨拶を聞いたランは、天才とは如何いかなるものなのかと多少頭を悩ませてみたのだった。

*****

「そーれ!わっしょい!こらしょい!どっこらしょい!以上!」

ダンブルドアの奇抜な挨拶に出席者全員が拍手し歓声を上げた。その直後、目の前にある大皿が食べ物がいっぱいになったのを見て、腹ペコの新入生は皆驚いて歓声を上げた。ローストビーフ、ローストチキン、ポーズチョップ、ラムチョップ、ソーセージ、ベーコン、ステーキ、ヨークシャープディング、グレービー、そして何故かハッカ入りキャンディ。ランは少しずつ皿に取って、ゆっくりと食べた。


一方、ハリーとロンがいるグリフィンドールのテーブルは、他の寮のテーブルと比べても非常に盛り上がっていた。ありとあらゆる味のアイスクリーム、糖蜜パイ、エクレア、ジャムドーナツ、トライフル、苺、ゼリー、ライスプディング。大皿から食べ物が消え去りデザートの時間になっても、皆はお腹いっぱいな上に緊張からの気疲れもしているであろうにもかかわらず、その騒ぎっぷりが衰えることはなかった。これから未知の学校生活が始まる一年生達にしてみれば、当然のように話題が尽きないのだ。
ハリーが糖蜜パイを食べていると、家族の話題になった。中でも一際大きな注目を集めているのは、やはりロンの双子の姉であるランであった。

「あれってロンの姉貴?」
「そうだよ。二卵性の双子なんだ」
「へぇ!でも彼女、凄い美人じゃないか!」
「あのさ、それって暗に僕のこと貶してるよね」

ロンは不機嫌そうにぶつくさと言ったが、ライスプディングを口に運び入れることを止めようとはしなかった。

「でも、ウィーズリー家はみんなグリフィンドールなんだろ?ラン、大丈夫なの…?」
心配そうに言ったハリーに、ロンは何でもないことのように言った。

「僕も、ランがグリフィンドールっぽくないことは分かっていたし、ママもパパもきっと分かってるよ。スリザリンならちょっと問題だったかもしれないけど、レイブンクローはランに合った寮だと思う」

あっけらかんとして言い切ったロンではあったが、ハリーはやっぱり寂しさを感じてしまった。初めて仲良くなった、友達なのだ。でも、二度と会えなくなるわけではないのだからと、ハリーは気を取り直して糖蜜パイを口に押し込んだ。


「だってさ?艶々の黒髪にあんなに澄み切ったラピスラズリの瞳で、そばかす一つない白肌ときた!きっとそのうちホグワーツ一のモテ女になるぜ!」
未だ興奮気味に熱弁するディーンに、見兼ねたロンが口を挟んだ。

「あー…ランを狙うのは止めておいた方が良いと思うよ?」
「何で?あんなイイ女なのに?」
「アイツ、そーゆーことに本当に興味がないんだ。勉強とクィディッチだけは本当に熱の入れようが凄いけど、それ以外は全く駄目さ。してや恋愛なんて、見向きもしない分野だと思うよ」
「なら、クィディッチの話題を振れば盛り上がるんじゃないか?」
「シェーマス、それも無理だよ」
「何でだい?」

ロンは口をモグモグとさせて、プディングを咀嚼しながら言ったのであった。


「──アイツ、クィディッチはやる方専門なんだ」

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春風