黒髪のウィーズリー成長記 - 春風
組分け帽子

「おーい、ラン!ブルーのネクタイが何ともお似合いなことで」

早速寮のテーブルを飛び越えて絡んで来た双子の兄に、周囲の会話に耳を傾けて静かにお行儀良く食事をしていたランは、深く溜め息を吐いた。

「まるでお前の為に存在しているような色だな!なぁラン、俺らと違う寮で寂しくねーか?」
「ううん、特に」
「そこは嘘でも“寂しかったよ、お兄ちゃん”くらいは言ってみるモンだぜ?」
「私は自分にとても正直だから、そんな嘘は付けやしないわ」
「ったく、コイツめ!」
「わ、ちょっとやめてよ」

髪が乱れるのもお構いなくグリグリと撫で回してくる双子の兄に、ランは迷惑そうに首を振った。暫くそうしていると、マグゴナガル先生がこちらを睨んでいるのに気が付いたのか、「やっべえ!」と声を揃えて双子はすっ飛んでグリフィンドールのテーブルへと戻って行った。ランはそんな様子に、乱れた髪を直しながらクスクスと笑った。

そしてランは──目の前の少女がこちらをジッと見つめていることに気が付いた。ランの視線に気が付いたその少女は、テーブル越しに握手を求めて来た。


「あなたのお兄さんも双子なのね。私、パドマ・パチルよ。これから仲良くしてね。グリフィンドールのパーバティ・パチルは、双子の妹なの」

グリフィンドールのテーブルを振り返ると、ゴブレットのかぼちゃジュースを飲んでいたパーバティがラン達の視線に気付きその動作を止めて、こちらを見てニッコリと笑った。パチル姉妹は、インド系の顔立ちをしたダークブラウンの瞳と長い黒髪を持つ、とても美しい一卵性双子の姉妹であった。

「私はラン・ウィーズリー。こちらこそ、どうぞ宜しく」

微笑んでパドマの手を握ったランに、彼女はニッコリと微笑んだ。とてもお洒落で社交的な二人は、きっとホグワーツの人気を二分するに違いないとランは確信した。
パドマの隣に座っていたのは、赤味がかった茶髪で目の彫りが深い女の子であった。まだ少し緊張しているのか、頬がほんのりと紅く染まっているが、ランと目が合うとふんわりと微笑んだ。

「私はアマンダ、アマンダ・バトラー。よろしくね」

ランはそれからも、同学年や上級生と挨拶を交わしながら、ホグワーツにて初めての、豪華な晩餐を存分に楽しんだのであった。


*****

「この歌詞は一体誰が考えたのかしら…」

一同が一通りデザートまで食べ終えた後、校歌を歌うようにとダンブルドアが声を張り上げ、彼の杖先から金色のリボンが宙に舞って文字を形どり、空中に歌詞が書かれた。ランはそれを興味深げにしげしげと眺めた。やっとのことで校歌を歌い終えたはいいものの、未だその歌詞の内容について疑問符でいっぱいのランに、パチルとアマンダが口々に言った。

「深く考えるだけ無駄だわ。だって、あまりにふざけているんだもの」
「きっと、深い意味なんてないんじゃないかしら」
どう考えても素晴らしいとは言い難い歌詞にリズムも音程も速度もバラバラな歌声であったにも関わらず、感激して涙するダンブルドアは、どこかやはり感性が普通ではないのであろうか。甚だ疑問であるとランは思った。

「さあ諸君、就寝時間。駆け足!」
ダンブルドアの掛け声とともに生徒が皆一斉にガタガタと立ち上がる。レイブンクローの一年生は、手を挙げて合図をしている監督生の元へと集まった。


その彼は──背が高く、体付きもがっしりとしていて、滑らかでウェーブのかかった金髪を伸ばして緩くポニーテールに結わえている。まるでどこぞの国の貴公子のようだと、ランは思った。確かに文句なしの美丈夫であり、先程から新入生の女子が数人コソコソ話をしながら、彼へ熱っぽい視線を送っていた。パドマもアマンダも、その中の二人であった。


「おめでとう! 僕は監督生のロバート・ヒリアード、レイブンクロー寮に心から歓迎するよ」

そう言って笑った彼に引き連れられて、寮へと向かう廊下を早足でぞろぞろと連れ立って歩く。列の最後尾には、もう一人の監督生のペネロピー・クリアウォーターが連れ添った。
監督生ロバートは、スタスタと足早に歩きながら、時折背後を振り返って右も左も分からぬ新入生に対して、丁寧且つ簡潔に説明をした。

「レイブンクローの紋章は何者も上れない高みに飛する鷲、寮の色は青とブロンズ。談話室はレイブンクロー塔のてっぺんにあって、魔法をかけられたノッカーの付いたドアを通って入るようになっているんだ。円形の談話室の壁にしつらえられたアーチ型の窓からは、学校の敷地を見下ろせる。湖、禁じられた森、クィディッチ競技場、それに薬草学の花畑も。他の寮からじゃ決して見られない絶景だよ」


ロバート曰く、レイブンクローの談話室は、ホグワーツ城の西の塔にあり、広々とした円形の部屋にあるという。部屋に辿り着くには目が回りそうになる急な螺旋階段を昇る必要があり、ラン達新入生は、話しながら階段を二段飛ばしで登るロバートについて行くのに必死で足を動かした。

ようやく辿り着いたそこにあったのは古めかしい木の扉で、取っ手も鍵穴もなく、鷲の形をしたブロンズのノッカーがついていた。ロバートがノックをすると、ノッカーの鷲の嘴が開き、柔らかな歌うような声で質問がなされた。

「生まれているけれども、生まれていないものは何?」
「卵」
すると、ガチャリという錆び付いた音と共に、古めかしい木の扉がゆっくりと開いた。

「一年生の中には鷲の質問に答えるのを怖がる生徒もいるけど、心配はいらないさ。レイブンクロー生は飲み込みが早いし、すぐにドアの難問を楽しめるようになるから。談話室の外に二十人くらいの生徒が立ち止まっていて、皆してその日の問題を解こうとしている…なんてことも珍しくないよ。
こういうのって、他学年のレイブンクロー生と知り合ったり、彼らから学んだりするいい機会でもあるんだ。でも、クィディッチのローブを忘れて急いで出入りしないといけないときには、ちょっとうっとおしいけどね。だから、レイブンクロー塔を出るときにはバッグの中身を三回確認することをお勧めするよ」

扉を押し開けながら、ロバートは冗談っぽく言う。ランとパドマとアマンダがクスリと笑ったのを見て、ロバートはお茶目にウインクをした。
けれど、そんな問題にさらりと答えることができる彼は、確かに監督生に選ばれるだけのことはあるらしい。


「…!!」

ランは、一体今日だけで何度驚かされるのだろうと、理不尽な怒りが湧いた。それ程までに、そこには美しい談話室が広がっていた。
中には、優雅なアーチ型の窓があり、壁には青とブロンズの絹が掛かっている。ドーム型の天井に描かれた星が暗い濃紺の絨毯を映えさせていて、非常に美しい造りになっている。机、椅子、本棚が置かれており、白い大理石のロウェナ・レイブンクロー像が寮に続くドアのそばに立っている。
そんなラン達新入生の期待通りの反応に、ロバートは嬉しそうに笑った。

「レイブンクローでもう一つ素晴らしいのは──皆、個性的だということ。中には変人と呼ぶ人もいるみたいだけど。でも天才というのは概して普通の人の範ちゅうからはみ出してしまうものだし、他のいくつかの寮と違って、ここでは好きなものを着て、好きなことを信じて、思ったことを話す権利があると考えてる。僕らは我が道を行く生徒を嫌ったりしない、むしろ評価しているんだ」

ランは、改めてこの寮に入ることができて良かったと感じた。
ロバートはその後、レイブンクローの歴史や他の寮との関係について、監督生らしく纏め上げて簡潔に説明をした。ラン達はお陰で退屈をせずに話を最後まで聞くことができた。


「大体これで全部かな。あ、そうだ。寮のゴーストは“灰色のレディ”だ。他の寮の生徒はレディは話さないと思っているけど、レイブンクローとだけは話してくれるんだ。レディは、道に迷ったときや物をどこに置いたかわからなくなったときにとても役立ってくれる。
夜はよく眠れると思うよ。寝室は主塔から分岐した小塔にある。四本柱のベッドはスカイブルーのケワタガモの羽布団で覆われ、窓辺でヒューヒューいう風の音がとても心地いいんだ」

そう言い終えると、ロバートは改まってこちらを向き直り、締め括った。


「最後にもう一度──ホグワーツで最も賢くて、奇抜で、面白い寮の一員によくぞなってくれた」

誰からともなく拍手が起こり、ロバートはニッコリと笑った。
新入生は自分達に割り当てられた部屋へとそれぞれ向かったのであった。


*****

ランはパドマとアマンダの二人と同室になった。端にあるからか少し部屋が狭い分、三人部屋だ。部屋には既に荷物がそれぞれのベッドの脇に届けられていて、ランはそこでやっと肩の力を抜くことができたような気がした。自分達の部屋が与えられて、早速荷物を床やベッドに広げてはしゃぐ二人に、いち早くシャワーを浴び終わったランは、髪を拭きながら苦笑を漏らした。


「ねぇラン、あなたとっても綺麗な黒髪をしているわね!」
「羨ましいわ…。私は生まれつき少し癖っ毛で、いつも朝の手入れが大変なのよ。家にいた時は、パーバティとお互いに髪を梳かし合っていたの」
「パドマはまだいいわよ。私のこの茶髪ほど頑固な髪って、きっとどこを探してもないわ」

荷物を放り置いてランのしっとりとした黒髪を手で掬ってそう言う二人に、ランは特に嫌がりもせずに為すがままにさせた。ラン自身、妹のジニーが昔からよくランの髪で手遊びをしていたこともあって、髪を触られることについては寛容であった。
理由はそれ以外にもあった。ウィーズリー一家は双子の兄達を筆頭に、皆ある程度パーソナルスペースを狭く取る気質である。ラン自身は友好的な性格とは決して言い難くても、隠れ穴での過ごし方の影響からか、二人の距離感を特に不快と感じることなく、寧ろ心地良いとすら感じていた。ランはふと、あの甘えたの末っ子ジニーはどうしているかと思い出し、明日には父と母、そして妹にそれぞれ手紙を書こうと心に決めた。

嫌がらずに髪を触られせるランに、パドマとアマンダは顔を見合わせて、嬉しそうにフフッと小さく笑った。


「私も、ケアは結構大変だよ。最近伸びてきて、あんまりにも面倒だから、もう切っちゃおうって思ってるの」
「「それはダメ!!」」

初めて会ったとは思えないような息ぴったりさで、声を揃えてそう言った二人に、ランはパチリと大きく瞬きをした。こんな美少女らが出すとは到底思えないような、物凄い剣幕である。


「そんなに綺麗な黒髪なのに、切るなんて勿体ないわ!」
「切ろうとしてみなさい、私たちが全力で阻止してあげるんだから!」
「…なんかごめん」

──何だか妹が増えたような気分だ。
ランはちょっぴり嬉しくなった。

その夜、ランは二人におやすみを言ってベットに潜り込み、夢を見るまでもなくぐっすりと眠って、明日の授業初日に備えたのであった。


- 続 -

- 3 / 3 -
春風