黒髪のウィーズリー成長記 - 春風
初めての授業

──晩餐会の翌日、ラン達一年生にとって最初の授業の日の朝。
隠れ穴での生活の習慣により、ランは朝日が昇るとほぼ同時に目覚めた。夕飯を腹八分目に抑えてぐっすり眠れたからだろうか、気分は爽快だ。

髪を緩く束ねて洗顔をして、寝間着から制服へと着替える。自分に割り当てられた木製の机の上には、今日使用する教科書や筆記用具をトランクから出して積み重ねておいた。同室の二人は、まだまだ夢の中にいるようで、スースーと静かで穏やかな女の子らしい寝息が聞こえてくる。ランは手持ち無沙汰になった。ホグワーツで一年生が箒の持ち込み禁止なのは、ランが何よりも残念に思っていたことだ。
朝の習慣が校則で禁止されてしまっていては致し方ないと、ランは早朝のホグワーツ城を探検することにした。談話室に降りると、そこには誰もいない。窓から外の景色を見ると、黒い湖の湖面が朝日に照らされ、キラキラと宝石を散りばめたかのように美しく光り輝いていた。遠くの森の山々は霞みがかって、とても幻想的な景色だ。フレッドとジョージが言っていた大イカや水中人、水魔などが生息しているとは思えないくらいに美しいとランは思った。朝からこの一望を独り占めしたランは、何だか得をしたような気分になって、螺旋階段を二段飛ばしで駆け下りた。しかし、長い階段に慣れていない為だろうか、廊下に辿り着く頃には目が回ってしまっていた。

石壁に飾られている肖像画達は、鼻提灯を出して眠り込んでいたり、目を覚ましてのっそり支度をしているのもあったり、それを観察するだけでも面白いとランは思った。

「おはよう、お嬢さん。朝のお散歩ですかな?」
「!!」

突然石壁から現れたゴーストが、ランに気付き話し掛けて来た。
ランは内心酷く驚いていたが、噴き出た冷や汗を手の甲で拭って、何事もなかったかのように話し始めた。

「おはようございます。私、早起きが趣味なの」
「ほう、それは最近では非常に珍しい奇特な生徒だ」
戯けたように楽しげに話すゴーストに、ランも自然と笑みが零れる。


「あなたの名前をお伺いしてもいいかしら?」
わたくしは、ニコラス・ド・ミムジー・ポーピントン卿。グリフィンドール憑きのゴーストをしております」
「!!私、ラン・ウィーズリーです。昨日、私の双子の兄がグリフィンドールに組分けされたの」
「ああ、聞いたことがあり過ぎる苗字だと思いました!あのウィーズリー一家の長女ですね」

兄達から聞かされていた“ほとんど・・・・首無しニック”とは、なるほど目の前の彼のことかと、ランは一人納得した。彼は手際の悪い斬首によって中途半端に残った首を持つから、“ほとんど・・・・”らしいということを、双子の兄達が面白おかしく話していた。
ランは、目の前の彼に少しホグワーツについて尋ねてみようとした。

「サー・ニコラス。私、少しホグワーツを探検しているんです」
「──なんとまあ!!」

突然大声を出したゴーストに、ランは驚愕して床から10インチくらい飛び上がった。そして更に驚くランを他所に、彼はシトシトと泣き始めたのだ。その涙は床へと滴り落ちる直前に、音もなく消え去った。

「なんと!なんとまあ!私のことをそう呼んで下さった生徒は、もうここ暫くおりません!」

どうやら感激して泣いているらしいということが分かると、ランはホッと息を吐いた。ランはハンカチを渡そうとしたが、相手がゴーストであったことを思い出して、そっとポケットへと戻す。
すると、自身のハンカチを取り出し涙を大袈裟に拭ったニコラスは、機嫌良さげにランへと言った。

「礼儀正しいお嬢さんに、とても良いことを教えてあげましょう。朝の校庭は朝露がキラキラと光り、とても綺麗ですよ。私は、塔の窓からそれを眺めることが大好きなのです」
「ありがとう!」

校庭へと早速駆け出したランが振り返り手を振ると、サー・ニコラスもにっこりと笑って手を振り返した。朝からとても気のいいゴーストに会えたと、ランは嬉しくなった。
その暫く後の校庭では、歩く度に草原くさはらの朝露を弾きながら足取り軽く散歩するランの姿が見え、窓からそれを見下ろしたニコラスは嬉しそうに微笑んだのであった。

*****

新入生の学校生活一日目は、からっとした快晴から始まった。
大広間へ辿り着くと、各寮の長テーブルには、数百枚のトーストに色んな味のジャム、スクランブルエッグ、ソーセージとベーコン、オートミールやコーンフレークなどが並んでいた。
朝はあまり食欲が出ないランがコーンフレークだけを取ってちびちびと食べていると、大広間の扉を開けてパドマがアマンダの腕を引いてやって来た。既に教科書を脇に抱えている。
二人は、ランの真正面に崩れ落ちるように座った。

「二人とも、おはよう」
「おはよう!ラン、あなたって早起きなのね…。もう聞いて!アマンダったら、私が何度呼びかけても全然起きないのよ!ここまで連れて来るのも本当に大変だったんだから!」
「仕方ないじゃない…まだ眠いんだもの…」

朝からプリプリと怒るパドマとは対照的に、アマンダはまだウトウトとしている。パドマはトーストにマーマレードを塗りたくりながら、語気を強めて言った。

「これから数年間、私はあなたの目覚ましになるなんてごめんよ!明日からはちゃんと一人で起きてよね!」

だが、未だ夢の中にいるであろうアマンダは、きっと聞いていないだろうなと、ランはフレークをスプーンで口へと運びながら苦笑した。

*****

ホグワーツには142もの階段があった。広い壮大な階段、狭いガタガタの階段、金曜日にはいつもと違うところへ繋がる階段など、様々な癖のある階段などがある。

「キャッ!」

パドマとアマンダが、真ん中辺りで毎回一段が消えてしまうので、忘れずにジャンプして飛び越えなければいけない階段に揃って落ちそうになったのを、前を歩いていたランが振り返り、慌てて二人の腕をがっしりと掴んだ。

「大丈夫?」
「ええ、ええ!大丈夫よ…!ラン、ありがとう」
「私、まだ授業を受ける前なのに、こんなところで死んじゃうのかと思ったわ…」

未だ恐怖で冷や汗を垂らしている危なっかしい足取りの二人の手を引いて、ランは教室へと歩いた。
ランの反射神経が良くなければ、今頃二人は下の階の方へ落下して、医務室のマダム・ポンフリーのお世話になっていただろう。


「少し急ぎましょう、もうすぐ授業が始まるわ…。私は別に構わないのだけど、二人は初日から遅刻なんてして、先生に目を付けられたくないでしょ?」

手を引きながら振り返って悪戯っぽく笑ったランに、二人も顔を見合わせておかしそうにクスリと笑い、歩くスピードを速めたのであった。

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