黒髪のウィーズリー成長記 - 春風
初めての授業

授業初日の一、二時限目は呪文学であった。

「ミランダ・ゴズホーク著の、基本呪文集をお持ちですね!」

レイブンクローの寮監のフリットウィック先生は、キーキー声でそう言った。本を積み上げた上に立って漸く机越しに顔が出るほどの身長の、小さい先生だ。しかしランは、彼が若い頃に決闘のチャンピオンであったということを知っていた。
フリットウィック先生の授業は、ランが何よりも楽しみにしていた授業の一つである。彼は、座学と実践を交えた興味深い授業を行い、また素晴らしく高度な呪文を披露してくれて、ランはその白い頬を珍しく紅潮させて大興奮した。そんなランの様子を、パドマとアマンダは意外そうに見やった。呪文学が週に三回もあることは、ランはとても幸せだと思った。


三、四時限目は薬草学であった。薬草学も週に三回あり、レイブンクロー生はスリザリン生と合同授業であった。ずんぐりとした小柄なスプラウト先生と城の裏にある第一号温室に行き、不思議な植物やきのこの育て方、どんな用途に使われるかなどを説明した。
スリザリン生と合同であることは、グリフィンドール生の兄達であれば嫌がるのであろうが、ランからしてみれば特に何でもなかった。
しかし、ランは自身がとある人物の視線が向けられていることに気付いた。ランのみならず、パドマもアマンダもその視線に気が付いたらしい。

「ラン、あなたマルフォイに何かしたの?」
「いいえ、特に何も」
「でもあなた、彼にすごく見られているわよ…大丈夫?」
「ええ、気にしないで。きっと、家同士の仲が悪いから敵視しているだけよ」

そう──マルフォイだ。湖畔での出来事をまだ恨んでいるのであろうか。ランはそう予想したが、マルフォイのことは完全に無視をして授業へと集中した。
レイブンクロー生とスリザリン生との仲は、良くもなく悪くもない。ランは、入学式の日の夜に監督生のロバート・ヒリアードが言っていたことを思い出した。
──「まあ、スリザリンについては色々と聞いているんじゃないかな。悪いやつばかりというわけじゃないけど、彼らをよく知るまでは油断しないほうがいい。彼らは勝つためには手段を選ばないという長い伝統を持っているから、気をつけて。特にクィディッチの試合と試験でね」──


「あら、ウィーズリー家の異端児じゃない!」

きのこの選別の作業の最中、スリザリン生の一人がランへと話しかけて来た。パンジー・パーキンソンだ。パグ犬のような見た目をしていて、この上なく意地悪そうな顔をしている。
そう言ったパーキンソンに、周囲のスリザリン生はクスクスと小馬鹿にしたように笑った。パドマとアマンダは、ランを庇うかのようにランへと寄り添った。そんな中、ランはパーキンソンへは目を向けず、何やら教科書のある部分を熱心に指で追っている。

パーキンソンは気にせずに、スプラウト先生の目を避けるように小声で続けた。


「アンタがレイブンクローに入ったこと、お父様とお母様は一体何て仰ったの?実はアンタは橋の下で拾った子だとか言われたんじゃない?」
「──先生、こちらのきのこについてご質問なのですが」

しかし、そんなパーキンソンをランは完全に無視をした。それどころか、挙手をしてスプラウト先生に質問を投げかける。先生は、その質問内容に感心したように何度も頷き、分かりやすい丁寧な説明をした。それどころか、その質問が盲点であったことに酷く感銘を受けたらしく、ランに対して十点の加点をした。


「…あら?何か仰ったかしら」

ランはパーキンソンをチラリと横目で見て、聞いていなかったと言わんばかりに小首を傾げ、何とも興味なさげに言った。そんなランの様子に、パドマとアマンダは思わず吹き出しそうになるのをグッと堪えた。
ランは、大してスリザリンの彼らに興味もなかった。それに、薬草学は思いの外スプラウト先生の授業が面白くて、ランのみならずレイブンクロー生はその授業に聞き入っていて、スリザリンの相手をしているどころではなかった。


ランの冷め切った無反応な様子を見て、パーキンソンは詰まらなさそうにそのパグのような鼻を鳴らした。それにランは、スプラウト先生から多くの加点をされて同寮生からまるで英雄のような扱いを受けていたので、スリザリン生はそれ以上何も文句を付けることができなかったのだ。

「彼女、きっと自分で得点できないからって、ランのことを僻んでいるのよ」
「なら勉強すればいいのにね」

レイブンクロー生がクスクスと可笑しそうに笑うのを見て、パーキンソンは顔を真っ赤にして鼻息を荒げた。スプラウト先生の質問にスラスラと答えていたレイブンクロー生に対して、先程パーキンソンは私語が多いと減点されていたので、何とも屈辱的なのだろう。


「…ミス・パーキンソン。学ぶ気がないのであれば、この温室から退場することを私は望みますが?」

簡単なきのこを選別する作業を全く進めていなかったパーキンソンの元にスプラウト先生が来てそう言ったのを聞いて、ランは少しスッキリとした。
授業後、三人は草原を走り抜けて、大広間へと向かった。ランは、マルフォイの視線には終始気付かないフリを決め込んでおいた。


*****
「薬草学は面白いわ!私とっても好き!」
「私も!でも天文学も楽しみだわ」
「私はやっぱり呪文学かな。フリットウィック先生の呪文はやっぱり最高だよ」

その後のランチでは、興奮するアマンダとパドマと一緒に、ランは授業内容の会話に花を咲かせた。


ランチを早々に食べ終わったランは、ジニーへの手紙を何となく仕上げていた。問題は──両親だ。未だ両親へと送る手紙は書けていない。レイブンクローに組分けされたことは、ランはとても嬉しく思っている。しかし、改めて両親へ送るとなると、何て書けばいいのだろうとランは悩んでいたのである。
しかし、内容がまとまらない。お手上げだというように髪をぐしゃぐしゃと掻きむしったランは、羊皮紙を丸めてローブのポケットへと突っ込んだ。

「急ぎましょ!次は地下牢で授業だもの」
「次はハッフルパフとの合同ね…スリザリンなんかよりはよっぽどいいわ」

ゆっくりとデザートを食べているアマンダをパドマが急かし、三人は地下牢への階段へと急いだ。

「その寮監が担当者だけどもね」
ぼそっとそう言ったランに、二人は可笑しそうに顔を綻ばせてクスリと笑った。

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春風