黒髪のウィーズリー成長記 - 春風
ダイアゴン横丁とノクターン横丁

ランはフローリアン・フォーテスキュー・アイスクリームパーラーへと戻ったものの、そこには家族の姿は見当たらない。ランが想像以上に杖選びで時間を要してしまったからだろう。しかし、その足で周辺の何処を探しても、依然としてロンや皆の姿は見つからなかった。


「…はぐれちゃった、のかな」

普通この年齢の少女であれば、パニックに陥ったとしてもおかしくはない。しかし、ランはあくまでも落ち着き払っていた。
買うべきものは全て買い終えたであろうし、それに自分はもう既に一番大切な杖を購入したのだ。教科書のリストはロンと一緒だから恐らく大した問題はないだろうと考えたランは、一人で通りを人混みを掻き分けるようにして歩き出した。帰る時は五時までに漏れ鍋に行けばいいし、もしも五時に間に合わなかったとしても、トムにフルーパウダーを借りれば済む話だ。


ランは一人、人と人との間を縫うように足早に路地を歩いた。段々とその路地が細くなり、人通りが明らかに少なくなっていく。そして、随分と路地の様子が変わってきた。
時たまに、明らかに違法薬物生活を送っているような廃人に話し掛けられたが、ランは得意の身のこなしでそれらをスルリと避けつつ、足を進めていったのであった。

しかし──ランは自他共に認めざるを得ない程の、極度の方向音痴であった。


「……ここは、どこ」

少し広い通りに出たランは、辺りを見渡しポツリとそう零す──迷ってしまったのだと気が付くのに、そう時間はかからなかった。


「……やぁ。君、一人かい?」

そんな途方に暮れたランに、背後から声が掛けられる。ランが振り向くと、そこには一人の少年が立っていた。

「……。まさか、貴方は今私に話し掛けていますか?」
「あっ、当たり前だろう!!他に誰がいる!」

プラチナブロンドを額に流した、少し気取った高飛車な物言いをするその少年。目線は丁度自分と同じくらいの高さである。幼いながら整った顔立ちをしていて、どこか貴族的な雰囲気を持っていた。

しかしランは直感的に、自分とこの少年とは相容れないだろうと思った。しかしそんなランの心情などお構いなしに、その彼は聞いてもいないのに自分のことをペラペラと話し出した。

「僕の父上と母上は、僕の杖と教科書を買いに行っているんだ。君のところは?」
「…多分、そこ辺りで教科書を見ているところだと思います。それでは、失礼しますね」
「君は暇なんだろう?少し話そう」

何とも自分勝手で強引な誘いに、ランは軽く眉を顰めたが、少年はそれが見えていないのか、気にする様子が見られない。ランが聞いてもいないのに、家の自慢話が始まった。
その話を右か左へと聞き流している間に、ランは──この目の前の少年が、ウィーズリー家で度々話題に上がるマルフォイ一家の嫡男であろうと察した。彼がペラペラと喋った純血思考やスリザリン至上主義について、また魔法省に顔が効くという父親の話などから鑑みると、逆にそれに当てはまる人物など、他に考えられなかったのである。


すると、何も反応をしないランを見て、マルフォイが訝しげに言った。

「僕を知らないなんて、まさか君……マグルかい?」
その整った眉を顰めて、まるで穢らわしいものを見るような目付きをするマルフォイ。しかしランはそれを物ともせず、さらりと言ってのけた。

「いいえ、一応純血一家の生まれです」
「そ、そうか!なら良いんだ。君、新一年生かい?」
「…はい、そうです」
「そうか、僕も同じ新一年生なんだ。じきにまた会えるだろう。じゃあ」


鼻持ちならない笑みを浮かべてその場を去って行ったマルフォイに、ランは軽く首を下げてみせた。
彼はああ言っていたたが、ランは余り会いたくはないと感じたのであった。

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春風