黒髪のウィーズリー成長記 - 春風
ホグワーツ特急

──九月一日。
愈々いよいよ、ランとロンのホグワーツ入学の日になった。ランは一週間程前にとっくに支度を済ませていたが、双子の弟であるロンは、この当日まで仕度を終わらせていなかった。その上、持って行く荷物の選別すらも完全には終わらせておらず、更に言うとロンは物を捨てられずに溜め込む性質たちであった。パンパンに膨らんで今にもはち切れそうなトランクを、漸くロンが何とか閉めた頃には、出発予定時刻を十数分も遅れていた。そのトランクに、ランは親切心から検知不可能拡大呪文をかけてあげたが、そんなランにお礼を言うどころか、ロンは「先にその呪文を使ってくれたら良かったじゃないか!他にも持って行けるものが増えたのに!」と言って、ランをカチンと怒らせた──ランに、軽量化呪文は唱えてやらないと心に決めさせる程には。重過ぎるトランクにどうぞ云々唸るがいいと、ランは双子の兄そっくりの悪戯げな笑みをニヤリと浮かべた。


オリバンダーの店で杖を購入して貰ってからというもの、ランは教科書を全て読み、それだけでは飽き足らず、兄達の教科書まで借りて読み込んでいた。特にランが興味を抱いたのは、闇の魔術に対する防衛術と変身術、そして魔法薬学である。ランは、ホグワーツに入学する前の間に何とか使える呪文を増やしておこうと、子どもとは思えぬ集中力で──フレッドとジョージにどれだけ邪魔をされてもその姿勢を崩すことなく──勉学に心血を注いだのであった。そんな様子の彼女を、母であるモリーは、この手のかからな過ぎる娘を嬉しいような少し悲しいような気持ちで、静かに見守ったのであった。


*****

出発時刻が大幅に遅れてしまい、当然キングス・クロス駅に到着する時間もそれに伴ってずれ込み、モリーはピリピリとしていた。
その上、駅の構内は行き交う人々でどこもかしこもごった返しており、中々前に進むことができない。


「マグルで混み合っているわね。当然だけども…」

ランと兄弟達は、モリーを先頭にしてトランクの乗ったカートを押しながら、人混みの中を縫うようにして進む。ウィーズリー一家の燃えるような赤毛が随分と目立つからか、はたまたカートに乗った大き過ぎるトランクや籠に入ったふくろうが目立つからか、ラン達の一行はたくさんのマグルの視線を集めていた。


「さて、何番線だったかしら」
「九と四分の三よ」
人混みの並を何度も何度も苦労して掻き分けて、やっとのことで柵に辿り着いた一行。
モリーはジニーと逸れないように手をしっかりと繋ぎながら、まずはパーシーを先に行かせた。

「フレッド、次はあなたよ」
「俺はフレッドじゃないよ、ジョージだよ。全くこの人ときたら、こらでも俺達の母親だってよく言えるな!俺がジョージだって分からないの?」
「あら!ごめんなさいね、ジョージちゃん」
「冗談だよ、俺フレッドさ!」

怒るモリーに捕まるまいとフレッドは素早く身を翻し、一瞬のうちに柵の向こう側へと姿を消し、ジョージもそれに続いた。
ランは、ロンの方を振り返って言った。

「ねぇロン、私先に行ってコンパートメントを取っとくわね」
「本当!ありがとう、ラン」

ランはカートを押して、柵へ向かって勢い良く走り出した。


──紅色の立派な蒸気機関車が、乗客でごった返すプラットホームに停車していた。ホームの上には、『ホグワーツ行急行11時発』と書かれている。振り返ると、改札口のあったところに九と四分の三と書いた鉄のアーチが見えた。
機関車の煙がお喋りする人混みの上にもくもくと漂い、色とりどりの猫が人々の足元を縫うように歩いている。お喋りの声と重たいトランクかま擦れ合う音を潜って、梟がホーホーと不機嫌そうに鳴き交わしていた。

先頭の二、三両は既に生徒でいっぱいになっている。窓から身を乗り出して家族と話したり、席の取り合いで喧嘩をしたりしていた。ランは空いた席を探して、カートを押しながらホームを悠々と歩いた。
人混みを掻き分け、漸く最後尾の車両近くに、空いているコンパートメントの席を見つけた。ランはさっさとトランクを列車の戸口の階段に置き、自分も列車に乗り込みそれを持ってコンパートメントの扉を開け放し、荷棚にトランクを上げて座席に鞄を置き、そこを陣取った。


「フレッド、ジョージ、ラン!どこにいるの?」
列車の窓の外から、母が三人を呼ぶ良く通る大きな声が聞こえる。

「「ママ、今行くよ!」」
「母さん、私もすぐ行く」

ランは荷物などをそのままにして、列車の窓からピョンと身軽に飛び降りた。

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春風