黒髪のウィーズリー成長記 - 春風
ダイアゴン横丁とノクターン横丁

「ラン!」

漏れ鍋に入ると、そこには既にラン以外のウィーズリー一家全員が揃っていて、皆が大慌てでランを探している最中であった。入り口から漸くひょっこりと姿を現したランに、モリーが金切り声を上げて扉の前に立つ彼女の元へと走り寄り、その細い肩が折れそうな程にがっしりと掴んだ。
そんな慌てふためいた皆の反応にランは、目を伏せてぽつりと言った。


「…ごめんなさい、迷子になっていたの」
「ああ、本当に!!本当に無事で良かったわ…!!」
モリーはその胸に長女を引き寄せ、腕の中へ抱き込んだ。ランはモリーの谷間に鼻をめり込ませてしまった。
モリーは、涙声だ。

「ランちゃんは無闇に約束を破るような子じゃないから、きっと、きっと何か良くないことがあったんじゃないかって、心配したのよ…」
「…本当に、ごめんなさい」
モリーの余りにも悲壮な様子に、ランは胸がズキズキと痛むのを感じた。
──心配を、させてしまった。

「ッ、ふ…」

兄弟が多過ぎるウィーズリー家にて、せめて自分だけでも両親に迷惑をかけまいと日々を生きているランにとって、これだけ心配をかけたことは、記憶を辿っても生まれて初めてのことであり、ランは自らの行動を酷く悔いた。


「モリー、それ以上抱き締めるとランが潰れてしまうよ」
「あ、あらあら…ごめんなさいね」
そんなランを開放したのは、穏やかな父の声であった。

顔には出さないものの、かなり落ち込んでいる様子の責任感の強い長女を見て、しゃがみ込んで視線を合わせたアーサーの節くれ立った手が、ランの頭にそっと置かれる。ランの瑠璃色ラピスラズリの瞳が、頼り無さげにふるふると震えて、唇はその色をなくすくらいにまで固く真横に引き結ばれている。

「…心配かけて、本当にごめんなさい」
「ラン、君はきっと悪気があったわけではないだろう?それなら、もういいんだよ」

優しくそう言ったアーサーに、ランはぎゅっと抱き着いた。
そんな長女の様子に安堵したのか、兄弟達もホッと息を吐いた。いつもしっかりし過ぎなくらいのランが、何の連絡も寄こさずに時間に遅れるなんてことは、今の今まで一度たりともなかったのだ。心配するのも当然である。

「な、言ったろ?ランなら大丈夫だってな!」
「不良に絡まれても、相手をボコボコにするくらいのことをやってのける女だぜ?」
「…あなたたちじゃないんだから、そんなことしないわよ」

少し暗かった空気を吹き飛ばすかのように無理矢理肩を組んできたフレッドとジョージに、ランは不満気な声を上げた。けれど、その腕を振り払おうとせず、彼等のしたいように体を預けていた。


「ラン、君が遅れるなんて珍しくって、きっと明日は嵐じゃないか?」
「雪が降るぞ」
「雷も落ちる」

双子の弟であるロンがビックリ仰天とばかりにランに声を掛けるが、その顔は今でも少しばかり青ざめていて、彼にもとても心配を掛けたのだということはランは直ぐに悟った。ワイワイと騒ぎ立てる双子は放って置いて、ランはロンへと謝った。

「…ごめんなさい。心配かけて」
「あ、いや。ううん、その…無事で良かった」

きっと、少しばかり気恥ずかしいのであろう。ドギマギと目を右往左往させてそう言ったロンに、ランはクスリと微笑んだ。

「でもラン、君よくここに辿り着けたね?」
そんなパーシーの言葉に、ランは先程の素敵な出会いを思い出した。


「とある人が、ここまで送り届けてくれたの──父さんと母さんが、きっとよく知っている人だよ」

悪戯っぽく笑ってそう言ったランに、アーサーとモリーはきょとんと顔を見合わせたのであった。


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春風