黒髪のウィーズリー成長記 - 春風
ホグワーツ特急

リー・ジョーダンのタランチュラを間近でじっくりと観察して満足したランは、そのままそのコンパートメントで車内販売のお菓子を食べて、三人の悪戯仕掛け人達と沢山の話をした。例えば──今年は如何いかにホグワーツ管理人のフィルチに悪戯を仕掛けるか、禁じられた森にどうやって入るか、悪戯グッズの開発、などなどだ。知識欲が貪欲なランを使わぬ手はないと、ランは彼らに悪戯グッズの開発についての助言をするということが、全会一致で可決された。

「俺ら、ランの入学を心待ちにしてたんだぜ。悪戯仕掛け人にピッタリだってな」
「…私、そんなに悪戯心旺盛じゃないわよ」
「俺たちに隠れて明らかになっていないだけで、結構してるだろ?この前も、寝ている俺たちの顔に落書きしたじゃないか」
「洗っても洗っても落ちなくてビックリしたぜ」
「アレはあなたたちが何度起こしても全然起きないからでしょ!」

そんなやり取りを、リーはゲラゲラ笑いながら楽しそうに見ていた。リーはドレッドヘアが特徴的な男の子で、よく口も頭も回り、何よりもウィットに富んだ人物であった。確かに、学生の身でタランチュラをペットにするだなんて、魔法界の常識でもそうそう考えられない。この人とは仲良くなれそうだと、ランはしっかりと握手を交わしたのであった。
──ランは頑なに認めようとはしなかったが、双子とリーはランが次世代の悪戯仕掛け人となるに違いないと確信していた。


*****

一方、ハリーとロンのコンパートメントは、ヒキガエル探しのネビルや高飛車な話し方のハーマイオニーが来たくらいで、二人で平和に過ごしていた。しかし、ロンのクィディッチの話が専門的な話に入ろうとしていた時、またもやコンパートメントの扉が開かれた。

男の子が三人入って来た。ハリーは、真ん中の一人が誰であるか一目で分かった。マダム・マルキン洋装店にて会った、青白い肌をした顎の尖ったプラチナブロンドの髪の男の子だ。ダイアゴン横丁て会った時よりもずっと強い関心を示して、ハリーを見ていた。


「本当かい?このコンパートメントにハリー・ポッターがいるって、汽車じゃその話で持ち切りなんだけど。それじゃ、君なのか?」
「そうだよ」

ハリーは後の二人に目をやった。二人ともガッチリとしていて、この上なく意地悪そうだとハリーは思った。青白い男の子の両脇に立つその姿は、まるでボディガードのようである。

「…ああ、こいつはクラッブで、こっちがゴイルさ」
ハリーの視線に気が付くと、青白い子が無造作に言った。

「そして僕がマルフォイだ。ドラコ・マルフォイ」
ロンがクスクス笑いを誤魔化すかのように、軽く咳払いをした。それをマルフォイが目敏く見咎めた。

「僕の名前が変だとでも言うのかい?君が誰だかは聞く必要もないね。父上が仰っていたよ。ウィーズリー家はみんな赤毛でそばかすで、育てきれないほどたくさんの子どもがいるってね」
馬鹿にするように嘲笑したマルフォイは、それからハリーに向かって言った。

「ポッター君、そのうち家柄のいい魔法族とそうでないのが分かってくるよ。間違ったのとは付き合わないことだね。その辺は僕が教えてあげよう」

マルフォイはハリーに向かって手を差し出して握手を求めたが、ハリーは応じなかった。

「間違ったのかどうかを見分けるのは自分でもできると思うよ。どうもご親切さま」
ハリーは冷たく言った。
マルフォイは真っ赤にはならなかったが、その青白い頬にピンク色がさした。


「ポッター君、僕ならもう少し気を付けるがね。もう少し礼儀を心得ないと、君の両親と同じ道を辿ることになるぞ。君の両親と、何が自分の身のためになるかを知らなかったようだ。ウィーズリー家やハグリッドみたいな下等な連中と一緒にいると、君も同類になるだろうよ」

絡み付くように言った無礼千万極まりないマルフォイに、ハリーとロンも立ち上がった。ロンの顔は髪と同じくらい赤くなった。

「もういっぺん言ってみろ!」
「へえ、僕たちとやるつもりかい?」
叫ぶロンに、マルフォイはせせら嗤った。

「今すぐ出て行かないならね」
ハリーはきっぱりと言ったが、クラッブもゴイルもハリーやロンよりずっと大きかったので、内心は言葉ほど勇敢ではなかった。
コンパートメントの中に、ピリピリとした緊張感が走った。


*****

「……?」
ランがハリーとロンのコンパートメントへと戻ると、そこが随分と騒がしいことに気が付いた。

「一体、何事かしら」

ランが声を掛けて扉を開くと、男の子が三人入り口にたむろしていた。

「…君は」
「あら」
そこに立ってランを振り返っていたのは、ダイアゴン横丁で出会ったあの男、マルフォイであろう少年であった。
何やら揉め事を起こしていたのであろう、ハリーとロンは眉を釣り上げてマルフォイを睨んでいるし、マルフォイの両隣にいる体格の良い二人は、こちらを値踏みするかのようにジトッとした視線を寄越していた。


「そう言えば、君に名前を言っていなかったな。僕はドラコ・マルフォイだ」
「その節はどうも。私はラン・ウィーズリーです」
「……ウィーズリーだと?」

マルフォイはランの髪と顔、更には足先までをジロジロと不躾に見やると、何やら訳知り顔で、ニヤリと意地悪っぽく笑った。

「へえ、君は赤毛じゃないんだな」
「…それがどうかしましたか」
「父上から妙な話を聞いたことがある」
ランは黙り込んだ。そんなランを良いことに、マルフォイは声高らかに続けた。

「ウィーズリー家には、赤毛でない異端児がいる。いつだったか父上が仰っていたよ──其奴が赤毛でないことは実は当然のことだとね。何故だか分かるかい?」
「……」

そのまま鼻高々と人を馬鹿にした態度のまま得意げに話を続けようとしたマルフォイであったが──そうはいかなかった。


「ヒッ?!」

ピタリと、マルフォイの鼻先にランの杖が突き付けられていた。


「──今すぐにここから失せないと、私の杖が炎を吹くことになりますよ。…私、実技は新入生の誰よりも優秀な自信があるの」

ランの思い切った素早い行動に、ハリーとロンはあんぐりと口を開いた。マルフォイは暫くの間目を白黒とさせていたが、気を取り直してランへと叫んだ。

「ぶ、無礼だぞ!」
「無礼?女性の全身を不躾に眺めておきながら、その言い分はないのではありませんか?それとも…高貴なるマルフォイ家では、その辺りの教育はなされなかったのかしら」

ランが自然且つ上品な口調でそう窘めると、マルフォイは青白い頬を少し赤く染めてグッと唇を引き結んだ。
部が悪いと感じたのであろう、マルフォイはコンパートメントからバタバタと足音高く出て行った。

すると、ゴイルがロンの側にある蛙チョコレートに手を伸ばし、それに気が付いたロンが飛びかかろうとした──しかし、ゴイルが触るか否かのうちに、ゴイルが恐ろしい悲鳴を上げた。
鼠のスキャバーズが指に食らいついていた。鋭い小さい歯が、ゴイルの指にガップリと食い込んでいる。ゴイルはスキャバーズをグルグル振り回し、喚き、クラッブは後退りした。やっと振り切ってスキャバーズは窓に叩きつけられて、二人は足早に消え去った。


「「……ラン、君って最高だ!」」
「ありがとう」

マルフォイをいとも容易く追いやったランに、ハリーとロンは感嘆の声を上げた。そんな二人に、ランは悪戯っぽくニヤリと笑って杖を仕舞った。

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春風