黒髪のウィーズリー成長記 - 春風
ホグワーツ特急

「あ…言い忘れていたわ。後から、私の双子の弟が来ることになっているんだけど、同室でもいいかしら?」
「うん!…ッ、勿論だよ!」
「……ハリー、大丈夫?」

笑顔でそう言いつつ、ゼイゼイと息を切らしながらトランクをコンパートメントの中に引き込むハリーを見て、ランは貸してと言うなり、そのトランクに手を掛けた。


「確かに、結構重たいね」
「わぁ!ラン、君ってすごいね!」

ランがハリーの重たいトランクを上の網棚に持ち上げてやると、ハリーは目を真ん丸にして感嘆の声を上げた。確かにそれなりに重いが、呪文を使うまでもない。
ハリーとランの身長は、頭一つ分も違う──ランの方が、高いのだ。
それにハリーは、服から伸びる手足や首を見る限り、どこもかしこも細っこくて、健康優良児とは言い難い体型をしている。骨と皮のハリーは、自分達の母親のモリーが見たらきっともっと食べろと言うだろうなとランは思った。明らかにランの方が筋肉も成長していて、彼よりも力が優っていた。


「これくらい大丈夫だよ。それにしても…ハリー、あなたちゃんと食べているの?」
「ううん。僕、おじさんとおばさんの家で暮らしてたんだけど、その…待遇が全然良くなかったんだ。食事もまともじゃないし、服だってまともな物を着たことがないよ」

そう自虐するハリーを、ランは不憫に思った。魔法界での所謂いわゆる英雄が、マグルからそんな不当な扱いをされていただなんて。

「そうなの…。この電車、車内販売があるらしいから、色々買うといいわ。魔法界のお菓子、食べたことないんでしょう?」
「うん、僕知らないことが多過ぎるんだ。…皆、僕のことを知っているのに」

そう言って落ち込むハリーに、ランは微笑んで何でもないように言い切った。


「──これから学べばいいじゃない。時間はたっぷりあるのよ」

その言葉に、不安でいっぱいであったハリーがどれ程救われたことか、きっと目の前の女の子は知りやしないだろうなと、ハリーは紅潮する頬を気付かれないようにそっと撫で付けた。


*****

「ハァ、ハァ…やっと見つけた」

ハリーがランに魔法界のあれこれについて質問をしていると、コンパートメントの扉が開いて、ロンが顔を出した。ランを見て、そして次にハリーを見て、驚愕したように目を見開き、ゆっくりとパチクリとさせた。


「あ…あの。こ、ここ…いいかな」

ハリーが頷くと、ロンは荷物を引き込むとランの隣の座席に腰掛けた。チラリとハリーを見たが、何も見なかったような振りをして、すぐに窓の外に目を移す。

「……」
沈黙に堪え兼ねたランが口を開こうとすると、コンパートメントの扉が勢い良く開かれた。そこにはフレッドとジョージがいた。


「おい、ロンにラン。なあ、俺たち真ん中の車両辺りまで行くぜ。リーがでっかいタランチュラを持ってるんだ」
「分かった」
「…分かったわ」
そう言ったジョージに二人がそれぞれ頷くと、双子は目をパチクリとさせているハリーに向き直った。

「ハリー、自己紹介したっけ?俺たち、フレッドとジョージ・ウィーズリーだ。こいつは弟のロンと妹のラン」
「よ、よろしくね」

ハリーが辿々しく挨拶を返す様子を横目に、ランは他のことに思いを馳せていた──そう、タランチュラだ。好奇心旺盛なランは、女の子であれば誰もが厭悪えんおするような危険で醜悪な生物であっても、自ら喜んで観察する趣味があった。
そんな長女の様子の変化を目敏く見つけたジョージは、ランに提案した。

「ラン、お前もちょっとだけ見に来るか?」
「それは、興味はあるけど……」

この気不味そうな二人を置いて出て行くのも如何なものか。ランがチラリとロンとハリーの顔色を伺う様子を見せると、フレッドがニヤリと笑ってランの肩に手を掛けた。

「気になってんだろ?なら行こうぜ。じゃ、また後でな」
「…バイバイ」
双子の兄達に引き連れられて、コンパートメントの外に出る。窓越しに振り返ると、ロンとハリーがそれぞれ悲壮な顔をしてこちらを見ているのを見て、ランは苦笑した。


「…あの二人、大丈夫かしら」
「大丈夫大丈夫。鼻垂れロニー坊やも、ちょっとは社交性を身に付けないとな」
「姉離れも必要だぜ」

未だそちらを振り返って不安そうな様子のランに、双子はそれぞれランの右手と左手とを繋ぎ、廊下をスキップで走り去った。

──そんな二人が後々誰よりも大親友になるのだから、人間とは分からないものである。


*****


ハリーとロンの二人が話をしているうちに、汽車はロンドンを後にして、スピードをどんどん上げて、牛や羊のいる牧場の側を走り抜けて行った。二人は暫く黙って、通り過ぎて行く野原や小道を眺めていた。
ハリーは、チラリと横目でロンの顔を盗み見た。


「……」

──ハリーは思った、有り得ないと。ロンとランが双子の姉弟だと言うには、余りにもその容姿が違い過ぎるのだ。
いくら二卵性双生児だと言われたとしても、ロンとランは双子ではない別人だと思ってしまう。容姿は勿論のこと、醸し出す雰囲気までも──似ている所を探せば、二人とも長身であることくらいである──それくらいにまで、二人は違っていた。フレッドとジョージという全くにまで瓜二つな双子の姿を見せられた直後であることで、更にその相乗効果が発揮されてしまうのか。


「(……いや、違う。二人が似ていないんじゃない)」

──ランが、彼らに似ていなさ過ぎるんだ。


それこそが全ての違和感を生んでいたのだと、聡いハリーは気が付いたのだった。
しかし更にハリーは、ダーズリー家にて長年培った空気を読む才能を発揮して、ここでそのことを発言しない方が良いであろうということを察する。その結果導き出したのは、その口を噤むということであったのだ。

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春風