黒髪のウィーズリー成長記 - 春風
初めての授業

火曜日の一、二時限目の闇の魔術に対する防衛術の授業は、ランのみならずレイブンクロー生全員が一番待ち望んでいた授業であった。
しかし、それが期待外れであったことを、その身を以て思い知らされることになってしまった。

「…!!」
「何、この臭い…」
教室にはにんにくの強烈な匂いがプンプンと漂っていた。噂では、これが先生がルーマニアで出会った吸血鬼を寄せ付けない為で、またいつ襲われるかもしれないとビクビクしているらしい。クィレル先生の話では、ターバンは厄介なゾンビをやっつけた時にアフリカの王子様がお礼にくれたものだということだが、生徒は皆どうも怪しいと思っていた。

ラン達三人は、一番後ろの扉に近い席を陣取った。更にランは、何と彼のターバンからも悪臭がすることに気が付いた。まさか、ターバンの中にもにんにくを入れているのであろうか。授業の内容さえ良ければランとて擁護するものの、その内容は薄っぺらで話し方もギクシャクとしていて、聴衆の集中力を阻害する程に酷いとランは感じた。

授業が終了する合図が鳴った途端、教材を鞄に押し込んだ三人は揃って一目散に廊下へと飛び出した。

「肩透かしだわ…」
「授業はともかく、ローブに臭いが付くわ!最悪よ」
がっくりと肩を落とすアマンダに、ローブに鼻をくっつけて匂いを嗅ぎ苛立ちを隠せないパドマ。そんな二人に、ランも同意せざるを得ないと思った。
ランは、音もなく懐から杖を取り出した。


Scourgify清めよ

するとランは、自身のローブや制服、更には頭髪から足先まで、全身に清め呪文を掛けた。
そんな平然とした様子のランに、パドマとアマンダはあんぐりと口を開けて目を剥いた。

「ラン…!」
「今の、何その呪文!」
「清め呪文だよ。あまりにも臭くて耐えられないもの」
平然とそう言ったランに、パドマとアマンダは誰かに見られてやしないかとキョロキョロと大袈裟なくらいに周囲を見渡した。

「廊下での魔法は禁止されているのよ…!だ、大丈夫かしら?」
「あんな臭いをさせて歩くくらいなら、罰則を受けた方がマシだわ」
理路整然だとばかりに鼻を鳴らしてそう言ったランに、パドマとアマンダは顔を見合わせた。

「…あなたに同意するわ。ラン、かけてちょうだい」
「私にもお願い」
「…!!」

そう言う二人に、ランは驚いたように目を見開いた。二人とも、規則を無視するようなタイプではないだろうとでも言いたげな目だ。
しかし、二人の真剣な様子が伝わったランは、杖をふた振りして清め呪文を施した。

「…これで同罪よ」
ニヤリと悪戯っぽく笑ったランを見て、二人もその真似をして笑ってみせた。三人はその足で次の教室へと急いだのであった。

*****

三、四時限目の魔法史は、フレッドとジョージに聞いていた通り、ホグワーツの生徒皆が苦手とするのも頷けるような授業であった。
ゴーストのピンズ先生は、昔教員室の暖炉の前で居眠りをしてしまい、その時には既に相当の歳ではあったのだが、翌朝起きてクラスに行く時に生身の体を教員室に置き去りにしてきてしまったのだそうだ。先生は物憂げに一本調子で講義をする中、生徒達は必死に名前や年号をノートに書き取ったが、机に突っ伏してしまう生徒が大半であった。ランはこの時間、バチルダ・バグショット著の魔法史をひたすらに読み込むことを心に決めた。


打って変わって五、六時限目の初めての変身術は、ランはとても素晴らしい授業だと思った。

「変身術は、ホグワーツで学ぶ魔法の中で最も複雑で危険なものの一つです。いい加減な態度で私の授業を受ける生徒は出て行ってもらいますし、二度とクラスには戻れません。初めから警告しておきます」

それから先生は机を豚に変え、また元の姿に戻してみせた。皆が興奮して拍手をすると、マグゴナガル先生はほんの少し微笑んでみせた。

しかし、新入生達の想像以上に変身術は難易度の高い分野であった。散々複雑なノートをとった後、一人一人にマッチ棒が配られ、それを針に変える練習が始まった。最初は皆、マッチ棒相手に中々に苦労していた。
ランはその理論を既に頭に入れていた為、マッチ棒を鋭く尖る美しい輝きを放つ針に変えてみせた。

「何と!ミス・ウィーズリー、素晴らしい出来ですね…非常に美しい針です」
感心したようにそう言ったマグゴナガル先生に、ランは照れたように微笑んだ。

その後パドマもアマンダも、マッチ棒を見事に針に変えてみせた。その他の何人かの生徒も、授業の終了間近までには何とかそれを成し遂げてみせた。

「初めての授業でここまで多くの生徒が針に変えてみせたのは、今までで初めてです!レイブンクローに十点あげましょう」

そう言って微笑んだマグゴナガル先生に、皆は顔を見合わせて大いに喜んだのであった。

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春風