黒髪のウィーズリー成長記 - 春風
初めての授業

「あっという間に一週間が過ぎたわね…」
「課題があんなにたくさん出るだなんて、聞いていないわ…」
金曜日の夜のことである。やっとのことで授業を終えた三人は、ディナーの為に大広間へと向かっていた。

「おーい、ラン!」

ランがその声に振り返ると、ロンとハリーがこちらに向かって階段を走り降りてくるのが見えた。ランはパドマとアマンダを先に行かせて、二人に軽く手を振って、その場で立ち止まる。

「こんばんは、二人とも久し振り。授業は順調?」
「まぁ、それなりに──魔法薬学以外はね」


すると二人は、今にも掴みからんばかりの勢いで、ランへグイグイと詰め寄った。

「なぁ、スネイプに加点されたって本当か?!」
「スネイプってスリザリン生以外に加点するの?!」
まるでランの口からそれを聞くまで信じないとでも言うような二人の口振りに、ランは苦笑した。

「ええ、して下さったわよ」
それを聞いたロンとハリーは、有り得ないとでもいうような顔をしている。

「ランに比べて…僕、二点も減点されたんだよ。僕、スネイプに嫌われているんだ」
「二点くらい、気にすることないわ。フレッドとジョージが去年減点された点数を聞いたら、きっとびっくりするわよ」

そう励ますランに、ハリーは力なく笑った。
──因みに、その総計を聞いたモリーが眩暈の余り倒れたくらいであったとは、ランは双子の兄達を持つ自分の名誉の為に一応黙っておこうと思った。


「…魔法薬学って、最悪の授業だと思うよ」
「あら、私は結構好きよ。ああいう地道に作業に没頭するのって、悪くないことだわ」

ギョッとした顔の二人に、ランは笑った。

「…頼むから、スネイプ信者にだけはならないでくれよ」
「信者って、何それ」

ロンの冗談におかしそうに笑うランに、二人は笑いごとではないと語気を強めるのであった。

*****

夕食を食べ終わった三人が寮への螺旋階段を上がりきると、扉の前にはレイブンクローの新入生達が大勢たむろしていた。パドマが近くにいた男の子へと尋ねた。

「どうしたの?」
「どうしたもこうしたもないよ。皆問題が解けないんだ!」
その男の子、マイケル・コーナーがお手上げとばかりにそう言ったのを聞いて、ランは鷲をノックした。

「顔が六つで目が二十一個あるものは?」
「…サイコロね」

間髪入れずにランが答えると、扉がギィ…と開かれる。パドマとアマンダのみならず、そこにいた新入生一同はランを尊敬の眼差しで見つめた。そんなランに続いて新入生がぞろぞろと談話室へと入った。


「ラン…あなたって本当最高よ」
「きっとそのうち慣れるわよ。…私、勉強しか取り柄がないの」
「あら、そんなことないわ!」
「信じられない!誰がそんなことを言ったの?」

激しい口調で憤慨するパドマとアマンダに、ランはポツリと言った。

「…いいえ、そんなこと別に言われていないわ。でも、私自身そう思うし、実際私はそういうつまらない人間よ」


──ランは、自身のことを本当にそう思っていた。
だからこそ、自分が最低限の自分でいられる為に、ランは勉強も運動も、家事の手伝いも何でもこなした。そうでもしないと、自分の価値などないと思い込んでいるランの自己肯定感の低い生き方を、母であるモリーはとても心配をしていた。

しかし、パドマとアマンダはあっけらかんとして言った。

「…何言ってるの?ランがつまらない人間なら、私たちはもっとつまらない人間よ」
「きっと、その辺に生えている雑草くらいつまらないことになるわ。雑草ならまだしも…石ころレベルかも」
「…!!」

そんな二人に、ランはゆっくりと息を呑んだ。そして、笑った。
そのランの笑顔に吊られたように、二人も笑顔になってランへと飛び付いた。

「ラン、そうよ!もっと自信を持って!そして自信がついたら、あの魔法薬学のレポートのコツを教えて!」
「あら、パドマったらズルいわ!ラン、私も教えて!お願い!」
「…もちろん、いいわよ」

──この明るく溌剌としたパドマと、穏やかで優しいアマンダに、ランはきっと今もこれからも助けられるに違いないと、何となくそう思った。


- 続 -

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春風