黒髪のウィーズリー成長記 - 春風
ハロウィーン

ハロウィーンの日の朝、パンプキンパイを焼く美味しそうな匂いが廊下に漂って来て、皆が目を覚ました。

「私、ハロウィーンって大好きだわ…」
「私も!ワクワクするわよね!」

朝一番の薬草学の授業が終わって、ウキウキと廊下をまるでスキップをするように浮き足立って歩くパドマとアマンダに、ランは一人憂鬱そうに溜め息を吐いた。

「そう言えば、ランは甘いものが苦手なんだっけ?」
「ええ…鼻がおかしくなりそうだわ…」

甘いもの全般が苦手なランは、きっと今日は一日中気分が良くないだろうと、より一層に深く溜め息を吐いた。そんなランを信じられないという顔をした二人が見つめる。

「甘いものが苦手だなんて…ラン、あなたって本当に女の子?」
「私もたまに、あなたが実は凄い美少年なんじゃないかって疑っちゃうことがあるもの…。何てったって、あれだけ箒が大好きなんですものね!」
「……もしかして、二人ともまだ根に持ってる?」
「「当然でしょ!!」」
「…本当にごめんなさい」

最初の飛行訓練の日にランがパドマとアマンダに心配を掛けたことについて、二人は未だに怒っていた。そんな二人にランは肩を竦めておいた。
あれから、ハッフルパフのエロイーズ・ミジョンとは合同授業や大広間などで話す仲で、今では良い友達である。規則がどうであれ、ランは彼女を助けたことを悪いとは思っていない。

すると──石造りの中庭を、教科書を胸に抱え込んだハーマイオニーが足早に横切っていくのが見えた。ランの見間違いでなければだが、その頬には涙が光っている。

「…!!」
「ちょっとラン、どうしたの?」
「もう!置いていくわよ」
「あ、ごめん」
ランがもう一度中庭を振り返ると、ハーマイオニーの姿はもうそこにはなかった。ランは少し気になったが、二人に連れられてそのまま廊下を歩いた。


「誰も友達がいないってことは、とっくに気が付いているだろうさ……」

廊下の人混みを押し分けながら歩いていたランは、反対側からハリーとロンは少し気まずそうに顔を見合わせながら歩いて来るのを見つけた。
二人に気が付いたランと、二人がランに気が付いたのとどちらが早かったのかは分からないが、三人はばったりと鉢合わせた。

「あら、お疲れ様。呪文学の授業だったの?」
「あ…う、うん」
二人の反応が薄いことに、ランは少し違和感を抱いた。

「さっき、ハーマイオニーが泣いて走って行ったんだけど…何かあったの?」
「……ちょっと、ね」

様子が少しおかしい二人に、ランは思い当たることがあった──ハーマイオニーの交友関係だ。ランは、この目の前の二人がハーマイオニーに何と言ったのかが容易に想像が付き、自分の頭に血が昇るのが分かった。

「…私は、ハーマイオニーと友達のつもりよ」

ランはそう言い放つと、颯爽と身を翻してパドマとアマンダを追い掛けて走って行った。
多くを語らずとも、きっとロンには伝わったであろう。伊達に、十一年も共に過ごしている訳ではないのだ。

*****

全ての授業が終わり、三人は夕飯の為に大広間へと足を運んだ。何とか匂いに耐え切ったランは、どこかげっそりとしている。そんなランの様子に、二人はおかしそうにキャッキャと笑い声を上げる。ランはそれを恨めしそうに睨んだ。

「…!!」

ハロウィーンの飾り付けがされた大広間を見て、三人は呆然とした。千匹もの蝙蝠こうもりが壁や天井で羽をバタつかせ、もう千匹が低く垂れ込めた黒雲のようにテーブルの直ぐ上まで急降下し、くり抜いたかぼちゃの中の蝋燭の炎をちらつかせた。新学期の始まりの時と同じように、突如金色の皿に乗ったご馳走が現れた。
パンプキンパイにパンプキンシチュー、コルカノン、アイルランド伝統のバームブラック。生徒達は皆、素晴らしいご馳走に目を輝かせた。ランは、コルカノンをそっと皿によそってチビチビと食べた。
ランの皿が空になった丁度その時、クィレル先生が全速力で大広間に駆け込んで来た。ターバンは歪み、顔は恐怖で引き攣っている。皆が見つめる中を、クィレルはダンブルドアの席まで覚束ない足取りでどうにか辿り着き、テーブルに凭れかかり、掠れ声で喘ぎ言った。

「トロールが…ち、地下室に…お知らせしなくてはと思って」
クィレルはその場で気を失ってしまった。

「…!!」
クィレルのその言葉に、ランは目を見開いた。
大広間は大混乱になった。甲高い叫び声や誰かが椅子から転げ落ちる音、テーブルの上のかぼちゃジュースのゴブレットを引っくり返す音。ダンブルドアが杖の先から紫色の爆竹を何度か爆発させて、やっと辺りは静かになった。


「監督生よ。直ぐ様自分の寮の生徒を引率して寮に帰るように」
大広間中に重々しくダンブルドアの声が轟いた。

「一年は固まって動け!ついて来い!」
いち早く状況を理解した監督生のロバートが声高に叫ぶ。ランは硬直しているパドマとアマンダの二の腕を掴み立ち上がらせて、ロバートの元へと駆け寄った。

「大丈夫よ、トロールはとても馬鹿な生き物だもの。どうやっても西塔には辿り着けないわ」

安心させるように言ったランのその言葉に、パドマとアマンダは漸く、張り詰めていた力を抜きホッと息を吐いた。
色々なグループと擦れ違い、右往左往しているハッフルパフの一団を掻き分けて進んだその先に、見覚えのあるグリフィンドールの集団と擦れ違った。監督生の兄であるパーシーが引き連れているということは、きっと同じ一年生であろう。


「…?」

しかし、ランはそこである違和感に気が付いた。グリフィンドールの一年生の列の中に、何てことだ──ロンとハリー、ハーマイオニーの姿が見えない。
それからのランの行動は素早かった。

「ちょっとごめん。二人はちゃんとロバートについて行ってね」
「ち、ちょっと、ラン?!」
「大丈夫、確認するだけよ」

パドマとアマンダをレイブンクローの集団へと押し込み、グリフィンドールの一年生の中へと紛れ込む。その中で三人をもう一度探したが、やはりいない。息を切らしたランは、一縷の希望を持って人に尋ねることにした。

「あの、急にごめんなさい。ロンとハリーを知らない?」
パドマと全く同じ顔をしたパーバティが、ランを見て驚いたように口を開いた。

「し、知らないわ…。でも、ハーマイオニーのことを気にしていたみたい」
「彼女、一人で女子トイレで泣いていて、午後の授業も出ていないのよ。一人にしてくれって言って」
パーバティとラベンダー・ブラウンが眉を下げて言った。

──ランは、自分の体温が急激に低下したように感じた。指先が小刻みに震えている。顔から冷や汗が噴き出る。
低い声で二人に礼を言ったランは、止めようと叫ぶ二人を群衆へと押しやり、低く身を屈めて人混みを掻き分けて足早に進んだ。

向かう先は、一階の女子トイレだ。きっと三人とも、そこにいる。

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春風