黒髪のウィーズリー成長記 - 春風
仲直り

一方、ロンとハリー、ハーマイオニーは目に見えて酷く落ち込んでいた。
幸いなことに一人ハリーは、何週間にも渡る地獄のようなクィディッチの練習があったこともあって、ある意味気が紛わされた。ウッドの余りにも厳し過ぎる扱きにグリフィンドール・チームの皆は辟易していて、ハリーはこんなことがなければウッドに感謝することは決してなかっただろうと思った。


「クィディッチがプレーできることは勿論楽しみだけど、何せ初戦の相手があのスリザリンだし…」
休日の昼過ぎの談話室で、ハリーはハーマイオニーにそう溜め息を吐いて言った。ハーマイオニーと友達になれたことは、ハリーにとっては有難いことであった。練習の追い込みがある中、ハーマイオニーに見て貰っていなければ、あれだけの課題を熟すことは到底無理であっただろう。きっとスネイプに罰則を食らわれ続けていたに違いないと、ハリーは思った。

ハリーがシーカーをするということは、一応“極秘”というのがウッドの作戦であった。現に、ハリーが練習しているところを見た者はいなかった。ところが、ハリーがシーカーだという“極秘”は何故かとっくに漏れていて、皆が周知していた。
きっと素晴らしいプレーをするだろうね、と期待されたり、皆がマットレスを持ってお前の下を右往左往するだろうよ、と貶されたり──ハリーにとってはどっちもどっちで有り難くなかった。どんどんと胃が締め付けられているように感じ、溜め息を吐くその度にハリーはハーマイオニーから慰められる羽目になった。


しかし、一番落ち込んでいるのは、やはりランの実の双子の弟であるロンであった。

「……」
何かにつけてむっつりと押し黙ることが多くなり、元来のその能天気な性格とは対照的で、その落差はより一層にハリーとハーマイオニーの気分を落胆させた。
いつものように、談話室で変身術の課題に取り組んでいた三人であったが、どんよりとしたオーラを放ち黙り込んだままのロンを見て、ハリーとハーマイオニーはどうしたものかと顔を見合わせて眉を下げた。

ガタン!!
すると──突然、机に手を突きハーマイオニーが立ち上がった。

「私、私…!ランに謝りに行こうと思うわ」

ロンとハリーは、二人同時にその目をパチクリとさせた。
ハーマイオニーは語気を荒くして、半ば叫ぶように続けた。

「ねえ、あなたたちは今のままでいいの?!私、こんなの耐えられないわ!!だって、だって…!私、ランと友達なんだもの!!」

そう大声で叫ぶなり、ハーマイオニーはグリフィンドールの談話室から勢い良く飛び出して行った。
ロンとハリーは、ゆっくりとお互いの顔を見合わせた。

「……ッ、僕らも行こう!!」
「あ、ああ!!」
暫くの沈黙の後、二人は揃って太った婦人の肖像画の裏から勢い良く飛び出し、ハーマイオニーを全速力で追い掛けた。

*****

「レイブンクローの寮は、確か西塔の天辺だったはずよ。確か、ホグワーツの歴史にそう書いてあったわ…」
ハーマイオニーに追い付いたロンとハリーは、レイブンクローの寮へと足を早めた。

「西塔…?そんな高いところまで、ランは毎日上っていってるっていうのかい?」
「レイブンクローって、ホント凄いんだね…」
三人が西塔の一番上まで上り終えた頃には、全員がゼエハアと息を切らしていた。
だが、たちまち三人はあることに気が付いた。

「でもさ、ハーマイオニー。僕思ったんだけど…」
「どうやって、レイブンクローの談話室に入るんだい?」
「……私としたことが、すっかり忘れていたわ」
何ということだろう──はなから三人は完全に行き詰まってしまった。

「…まあ、ここで待っていれば、きっと誰かが通り掛かるわ。それまで待ちましょう」
そこは冷たい風が吹き込むせいで酷く寒かったが、三人はそこで待つことにした。

しかし、凡そ二十分経っても談話室の扉が開くことはなく、また誰かが階段を上ってくることもなかった。

「……」
「……」
寒さが余計に、考えを嫌な方向へと持って行ってしまう。

「……僕、このまま一生ランと仲直りできなかったら、どうしよう」

膝を抱えて何とも弱気なことを言い出すロンに、ハリーは何とも言えない気持ちになった。
ハリーが横目で見ると、ロンは今にも泣き出しそうな顔をしていた。眉は下がり、青い瞳は涙でじんわりと滲んでいる。

「…何馬鹿なこと言ってるの」
ハーマイオニーもそう諭すが、その声には張りがなく、どこか自信なさげだ。

──キイ…という扉の軋む音に、三人は一斉に顔を上げて立ち上がった。

「キャッ!!」
「ちょっと!こ、ここで何してるの!」
丁度寮から出てきた所に、人がいたことに対して目を真ん丸にして驚く二人。
三人はその顔に見覚えがあった。確か、ランといつも一緒にいる──パドマ・パチルと、アマンダ・バトラーだ。


「あ、あの!!」
ハリーはこのチャンスを逃すまいと、二人に声を掛けた。

「えっと、その…」
「ラン・ウィーズリーって、今いるかな!?」
ハリーの言葉に被せるように、ロンが二人に掴み掛からんばかりの勢いで言った。
パドマとアマンダの二人は、互いに目を見合わせて、ゆっくりとその目を瞬かせた──真っ先に動いたのは、アマンダであった。


「わ…私、急いで呼んでくるわ!」
そう叫ぶなり、閉まり切っていなかった寮の扉を乱暴に開け放ち、談話室へと駆け込んで行く。呆気に取られたロン達三人とパドマは、その場に取り残された。

「…そう。あなたたちの方が、早かったのね」
パドマがポツリと言った。

「そ、それって──?」
「パドマ、どうしましょう!ラン、また部屋にいないの…」
大急ぎで戻って来たアマンダは、今にも泣き出しそうになりながら、パドマへと縋り付いた。

「またなの?!もう、ランったら…」
対するパドマも困り顔だ。

「一応私たちがいた談話室も見てきたけれど、いなかったわ」
「…そう、ここにはいないのね」

いないのであれば、三人に残された選択肢は一つしかない──学校中を探すこと。ただそれだけだ。

「僕たち、自分で探してみるよ!二人とも、ありがとう」
「ま、待って!」
階段を降りようとした三人をアマンダが呼び止めて、眉を下げて言った。未だに涙目である。

「ランって、顔には出しやしないけれど…あなたたちと喧嘩してからずっと、とても寂しそうだったわ…」
「私たち、あんなランを見ているのはもう嫌なの。私たちも、ランを見つけたらグリフィンドールへ向かうわ。だから、ちゃんと仲直りしてね!頼むわよ!」

パドマはそう叫ぶなり、二人は手を繋いで慣れたように階段を数段飛ばしで駆け降りて行った。その後ろ姿は、どこか上機嫌だ。

「…ラン、いい友達を持ったね」
「…うん、そうだね」

三人は再び揃って、パドマとアマンダに続いて階段を駆け降りて行った。

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春風