黒髪のウィーズリー成長記 - 春風
仲直り

ハリー達三人がレイブンクロー寮へと足を運んでいたその頃、ランは妹のジニーとルーピンへ手紙を飛ばそうと梟小屋に来ていた。

「…フェル、宜しくね」
ランはフェルの嘴の下をスリスリと撫でると、フェルは了解したと言うようにホッホッと鳴いた。すると、もう一羽の学校のヨーロッパコノハズクと並んで共に飛び立って行った。

「……」
どうやら、フェルにも友達ができたようだ。
──梟同士は、喧嘩というものをするのであろうか。
梟は確か本によれば、縄張り意識が強く、他個体の鳴き声で接近を察知すると素早く反応して鳴き声で返し、自分の縄張りを主張すると読んだことがある。

「仲直り、できるかしら…」

このままでは駄目であるということは、ランとて理解している。
ロンは家族だからまだしも、ハリーとハーマイオニーには幻滅されたかもしれない。嫌われたかもしれない。

そう考えるとランは更に憂鬱になり、小屋の壁に背中を凭れかけて、そのままずるずると地面に滑り落ちて座り込んだ。
そんなランの左肩に、全長が二フィートはありそうな立派なシロフクロウが留まった。ランが左に目をやると、黄色の虹彩が美しい瞳と目が合った。真っ白な羽毛が全身を覆っており、黒い短い嘴が何ともチャーミングだ。純白ではあるが、羽には僅かに黒や褐色の細かい縞模様がある。

「ねえ、知っているかしら?あなたのようなシロフクロウって、霊力があると言われているのよ。幸福を呼び込む力が強いらしいわ…」

シロフクロウはランの言っている言葉が理解できるのか、ホーッと低く鳴いた。くるんと首を傾げる仕草が何とも言えない可愛らしさがある。

「…あなたはとても賢いのね。ご主人様はどなた?」
ランがシロフクロウの体を撫でると、気持ち良さそうに目を閉じた。
すると、シロフクロウが突然羽を広げて飛び上がって、小屋の止まり木に止まった。

「…どうしたの?」
ランが尋ねるや否や、荒々しい誰かの足音がして、ランは身構えた。

「──いた!!ロン、ハーマイオニー、こっちだ!!」

何と驚くことに、そこには──額に汗を流すハリーが、息も絶え絶えになってランを見つめていた。

*****

ランは呆然として、ハリーを見つめた。

「まさか…あ、あの子、あなたの梟なの?」
「え?あ、うん、そうだよ。僕の梟だ、名前はヘドウィッグって言うんだ」
額の汗を手の甲で拭いながら何でもないようにそう言ったハリーに、ランはもう一度シロフクロウ改めヘドウィッグへと目をやった。
ヘドウィッグは素知らぬ顔で、ホーッと一度鳴いただけであった。何て賢い梟なのだろうと、こんな時にもかかわらずランは感心した。

そこに、バタバタという不規則な足音が響き、ランとハリーはそちらを振り返った。

「…ゲホッ、は、吐きそう」
「ハァ…ハァ…」

ヨロヨロと足元の覚束ない二人がやって来た──ロンとハーマイオニーだ。

「ラン、ここに、いたのね…」
「…駄目だ。僕、本当に吐きそう」
ロンはゼイゼイと息をして、本当に気分が悪そうに少しえずいていた。
ランは杖を取り出して、落ちていた小石を拾い上げた。

VeraVerto杯になれ……Aguamenti水を
ランはその小石をコップに変えて、そこへ杖から水を出して注いだ。

「…はい、飲むといいわ」
「あ、ありがとう、ラン」
ロンは辿々しくお礼を言って、その水をグイッと一気に飲み干した。

「……」
「……」

ラン達の間に、微妙な沈黙が流れる。そんな中まず口を切ったのは──ハーマイオニーであった。


「ラン、ごめんなさい…」
ハーマイオニーがランの目を見て、謝った。ランが突然の来訪者に呆気に取られていることにもお構いもせず、ハーマイオニーはそのまま続けた。

「私、やっぱりランと話せないなんて、学校生活がつまらないわ…。ランは知識が豊富だし、思考力が優れていて…私、あなたと話している時間が一番楽しいの」
ハーマイオニーは今にも泣き出しそうに、声を震わせている。そのハーマイオニーに並ぶように、ハリーが横に立ってランの目を真っ直ぐに見た。

「僕も、本当にごめんなさい。僕…きっとランに甘えていたんだ。君の気持ちを考えないで、本当にごめんなさい」
ハリーの翠玉エメラルドの瞳がこんなにも美しいことに、ランはこの時初めて気が付いた。

ジッとこちらを見ているロンの顔を、ランは改めてまじまじと見つめた。この数日間で、どこかやつれたように見えるのは、どうやらランの気のせいではないらしい。

「ラン、ホントにごめん…。ランが怒った理由、この数日間考えて、僕、良く分かった」
ロンが唇を噛み締めた──昔から、泣くことを我慢している時に見せる癖だ。

ランは三人の顔を見渡して、眉を下げた。

「…私こそ、あんなに怒鳴ったりして、本当にごめんなさい」
ランは目を伏せた。パサリと音を立てるように、黒く長い睫毛がしな垂れる。

「……あなたたちがどうにかなってしまったんじゃないかって、本当に心臓が止まるかと思ったわ」
すると、再びランの肩にヘドウィッグが止まった。
心配をしてくれているのであろうか。本当に、とても賢い梟だ。

「とても、心配だった。でも、だからこそあんなことは言うべきではなかったわ。…ごめんなさい」
「…ううん。あれくらい言ってくれなきゃ、僕らはきっと分からなかったよ」

そこで漸く四人は、顔を見合わせて破顔した。
──今の今まで止まっていた時が、漸く再び動き出したようだとランは思った。経験したことのない晴れやかな気持ちに、ランはゆるゆると眦を下げた。

「そうだ、ラン。君ってあんな呪文知ってるんだね…ビックリしたよ」
「私も驚いたわ…。あの後私調べたんだけど、あの呪文って五年生の時に習うものなんでしょう?本当に凄いわ…」
「そうそう、トロールが綺麗に壁に吹っ飛んでいたもんね」
「そんな…たまたま当たり所が良かっただけよ」
そう称賛する三人に、ランは少し居心地悪そうに眉を下げた。


ハリーには、ずっとランに伝えたいと思っていたことがあった。ハリーはそこで漸く決心して、その重たい口を開いた。

「ラン!その…ぼ、僕、クィディッチの試合に出るんだ。だから、その、ランに応援に来てほしくって…」
「!!」
何ということだろう。初耳のそれに、ランは目をパチクリとさせた。

「……?」
暫く無反応のランを、不安げな顔をしたハリーが恐る恐る見やった。ランがクィディッチが大好きであるということは、ハリーはロンから再三再四聞かされていて、もう耳にタコができている。それが、まさか嘘であったのだろうか…?ハリーは不安になり、ランの顔を見る為に、おずおずと目線を上げようとした。
すると──ランの肌の白い両手が、筋張ったハリーの両手を握り締める。ハリーは一瞬反応が遅れて、暫くして慌てふためいた。

「!!わ、わっ」
「ハリー、素晴らしいじゃない!私…私、絶対見に行くわ!」
頬を紅潮させて興奮した様子のランに、ハリーも思わず頬を赤らめた。

そんな様子を微妙な顔をして見ていたのはロンである。実の双子の姉と親友が、側から見れば充分に仲睦まじ気に話しているのだ。
「……ハリーって、ランが好きなの?」
「ち、違うよ!そりゃあ…ランは、美人だと思うけれど…」
ロンに聞かれてモゴモゴと口を濁すハリーに、ロンは百味ビーンズの石鹸味を食べてしまったような何とも言えない顔をした。ハリーは慌てて話題を変えようとして叫んだ。

「そ、それよりも、ハーマイオニー!君、僕らと話すよりもランの方が楽しいって言ったよね?」
「あら、女の子にしか分からない話もあるのよ!ね、ラン?」
「どっちも女の子って柄じゃないだろ…」
「「ロン、何か言った?」」
ギロリと鋭く二対の目に睨まれたロンは、思い切り目を見開いて唇を左右目一杯に引っ張った。ハリーは吹き出しそうになるのを懸命に抑え込んだ。
やっと二人の視線がロンから逸れると、ロンはハリーにこっそりと耳打ちした。

「やっぱり、どう見たって女の子って感じじゃないだろ?世のか弱い女の子は、あんな目付きなんてできやしないさ」

ロンのひそひそ声に、ハリーは今度こそ声を立てて大笑いしたのであった。

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春風