黒髪のウィーズリー成長記 - 春風
仲直り

「えっ?!ラン、あなたまだ仲直りしてないの?!」

鼓膜を震わす程のパドマの大きな声に、ランはしーっと囁き唇に人差し指を当てた──今は、ビンズ先生の魔法史の授業時間である。幸いビンズ先生は気にしていないのか、そのまま教科書を相も変わらず一本調子に朗読している。
いつものように一番後ろの机を陣取ったランたちは、机の縁に教科書を立てて教卓の方向から見えないよう壁を作って、それぞれ思い思いの作業を進めていた。尤も、教科書など立てなくても、ビンズ先生は生徒の誰が何をしようとも気にしやしないだろうということは三人とも無論分かってはいたが、物事は形から進めることも時には良いというのが三人揃っての持論だ。

パドマは両親への手紙を書き、アマンダは変身術の課題、ランは自己防衛呪文学の本を読むことに専ら時間を費やしていた。この本が中々に興味深く、ランはこの週末までに完全読破を目論んでいた。
この授業における生徒の行動は、大きく分けて惰眠を貪るか内職を行うかのどちらかに二分されている。思春期の噂好きの女子からしてみれば、この授業は雑談するのには絶好の場であり、他の寮よりは比較的真面目なレイブンクロー生ですら、この授業には退屈せざるを得なかった。それに、ランはルーピンから手紙にてアドバイスを受けていた。
──「ビンズ先生の授業は、彼の声を聞くだけで眠たくなってしまう効果があるから、耳塞ぎの呪文を使うことをお薦めするよ…きっとその方が内職に集中できるし、作業も捗ることだろう」──


「……ええ」
長い沈黙の後、漸く本に栞を挟み顔を上げたランは、渋々と言ったようにパドマとアマンダに事のあらましを小さな声で全て伝えた。

「まあ…。私、あなたが結構普通にしているから、もうとっくに仲直りしていると思っていたわ…。ごめんなさい…」

ランから全てを聞いたアマンダは、肩を落として大きく溜め息を吐いた。心優しいアマンダは、ランが未だに兄弟と友達と仲直りできていないことに、かなり心を痛めているのだ。
ランは再び、頬杖を付きながら本の頁を捲りだした。

「私も、ランのことだから、もうサラッと済ませてると思っていたわ」
「……悪かったわね、不器用で」
「別にそうは言っていないじゃない」
入学してから三人はずっと仲が良かったが、更に気の置けない仲になってきた三人は、それぞれが腹蔵ふくぞうない言動をするようになってきていた。だからこそ、ランはそれが心地良かった。

「……私、今まで喧嘩なんてしたことないのよ。お恥ずかしながらね」
「それホント?信じられないわ…」
「あなたって本当に生きた人間なの?私たまに、ランは機械人形なんじゃないかって思うことがあるわ…勉強が大好きな、ね」
「それはどうも」
「「褒めてないわよ」」

声を揃えてそう言った二人に、ランは肩を竦めた。


「喧嘩したことないって、それはご両親とも?」

何気ないアマンダの問い掛けに──ランの動作が一瞬ピタリと止まった。

「……ええ、そうよ」
溢すようにポツリとそう言ったランの様子が少しおかしいことに、手元の作業に夢中な二人が気付くことはなかった。

「私なんてこのホグワーツの寮に入るまで、家ではしょっちゅう両親やパーバティと喧嘩していたわ。それに…今も丁度、お母さんに手紙で文句を言っているところよ。真面目に勉強しろってうるさいから」
羊皮紙をジッと睨み付けながらそう愚痴を零すパドマに、ランとアマンダは眉を下げて苦笑した。

「そんなことよりも、今はランの仲直りが先決よ。目下最大の難関だわ…」
「寮が違うと、中々会えないものね…」
「……ありがとう、そんなに気に掛けてくれて」

何とも殊勝なランに、パドマとアマンダは目を見合わせてパチクリとさせた。
一見すると特に打撃を受けているようには到底見えないランではあったが、想像以上にかなり参っているようである──決して顔に出そうとはしないが。


「とにかく!さっさと仲直りしちゃいなさいよ。自分からタイミング掴まないと、いつまで経っても仲直りできないわよ」
「…そうね」

伸びをして溜め息を吐いたランは、気分転換も兼ねて、妹のジニーとルーピンへと送る予定の手紙の内容を考えることにした。だが、当然そんな心情でいては筆は中々進まず、ランが云々と頭を悩ませている間に、結局その日の魔法史の授業は終わってしまった。

- 1 / 5 -
春風