黒髪のウィーズリー成長記 - 春風
クィディッチ

その日ランは、朝日が昇るのと同時に気持ち良く目が覚めた。
いよいよ、クィディッチ学校内寮対抗試合──ハリーにとっての初戦が始める。グリフィンドール対スリザリンだ。

大広間にはこんがり焼けたソーセージの美味しそうな匂いが漂い、クィディッチの好試合を期待するウキウキとした騒めきで一杯に満たされていた。ランもその他大勢と同じく、その試合観戦を心待ちにしていた。

一方、後一時間もすればグラウンドに入場すると思うと、ハリーの気分は最悪であった。

「朝食、しっかり食べないと」
「何も食べたくないよ」
「ほら、トーストをちょっとだけでも」
「お腹空いてないんだよ」
「ハリー、力を付けておけよ。シーカーは真っ先に狙われるぞ」
「…わざわざご親切に」
シェーマスが自分の皿にソーセージにケチャップを山盛りに絞り出すのを眺めながら、ハリーは力なく答えた。ハーマイオニーがいくら優しく言っても効果がないようだ。


「ハリー、大丈夫?…じゃなさそうね」

青ざめているハリーを見兼ねたのか、レイブンクローのテーブルからやって来たランは、心配そうに少し眉を下げてその隣にそっと座った。

「ラン…僕、スニッチを掴めなかったらどうしよう…」
どうやら緊張と興奮とで、朝食すらもまともに喉を通らないようである。

「…ハリーはシーカーでしょう?そんなに緊張する必要なんてないと思うわ」
「ラン、それはどうして?」
「スリザリン・チームのメンバーの特性を見れば、きっとすぐに分かるわ」
既に双子の兄達から自分達のチームと相手のスリザリン・チームのメンバーについて聞いていたランは、ニヤリと悪戯っぽく笑った。試合の考察は、ランが何よりも得意とする分野である。
ランの穏やかな声に、漸くハリーは顔を上げた。

「ブラッジャーに気を付けて、気持ち良く飛んでいればいいのよ。それでもどうしようもなくなったら、フレッドとジョージを見ればいいわ。あの二人の飛びっぷりを見ていれば、きっと緊張しているのが馬鹿らしくなると思う」
「……うん、そうだね。うん、ありがとう」

力なく笑ったハリーは、少しだけコーンフレークに牛乳を注いで、少しずつ口に運び始めた。
そんなハリーを横目に、ランはこっそりとハーマイオニーに耳打ちをした。
「ハリーがシーカーをすることって、もう皆が知っていることなの?」
「いいえ、一応極秘らしかったんだけど…」
ハーマイオニーは、眉を下げて困ったように言った。ランも呆れたように溜め息を吐いた。
「……もう皆が知っているわよね」

居心地悪そうなハリーを不憫に思い、ランは眉を下げた。

*****

クィディッチの競技場へと向かう道すがらランは、マグル出身でクィディッチを全く知らないディーン・トーマスにせがまれて、そのルールを簡単に一から説明していた。ディーンがランの顔をマジマジと見ながら話を熱心に聞くので、ランは内心居心地悪く思いながらも、懇切丁寧に解説をした──ランがクィディッチ馬鹿である面は、こんな所でも露呈していた。

「キーパーが一人、チェイサーが三人、ビーターが二人、そしてシーカーが一人」
「そのシーカーがハリーなんだね」
クィディッチのフィールドは縦五百フィート、横八十フィートの楕円形だ。高さ五十三フィートの柱が三本並び、その上に直径二フィートの輪がついたものである。
フィールドを出てしまった場合は、クアッフルは敵チームに渡ってしまう。

「三人のチェイサーは、クアッフルを扱う選手。クアッフルを相手のゴールへ投げ込み得点を狙う。得点は一度につき十点入るわ。キーパーは、自軍ゴールに飛んでくるクアッフルを手や箒を使って防ぎ、ゴールポスト周辺にとどまって自チームの守備に専念する。確かグリフィンドールのこのポジションは、キャプテンのオリバー・ウッドね」
「サッカーのゴールキーパーみたいなものだね!」
「…ごめんなさい、そのサッカーが分からないわ」
どうやらディーンは、マグルのサッカーというスポーツに夢中であるらしい。ディーンは自分自身がウエストハム・サッカーチームの熱狂的なファンであると力説したが、サッカーを全く知らないランは終始首を傾げるばかりである。

「ビーターは二人、この二人はブラッジャー対策の選手。選手達の邪魔をするブラッジャーを、棍棒でひたすら打ち返すの。戦略的に相手チームのチェイサーに向かって打ち、その邪魔をすることが多いわ。ブラッジャーから自チームのプレイヤーを守ることが主な目的。
そしてシーカーが一人、試合の行方を左右するスニッチをひたすら追い掛ける。シーカーがスニッチを捕まえない限り、試合は終わらないわ。シーカーがスニッチを取ると、シーカーが所属するチームに百五十点が入り、試合が終了する」
ランとディーン、ロンとハーマイオニー、ネビルとシェーマスはグリフィンドールの応援席へと辿り着き、その最上段を陣取った。観客席は空中高くに設けられてはいるが、それでも試合の動きが見にくいことがあるのである。
青々とした芝生の生え揃った競技場はとても美しく、ランは自分の気持ちが高揚するのが分かった。

「反則はやっぱり多く起こるの?何せ、箒で超高速で飛ぶスポーツだろ?」
「魔法ゲーム・スポーツ部は、クィディッチの七百にも及ぶ反則を記録しているけれど、完全な販促リストを一般に公表したことはないの。まあ…大概の反則は決まり切っているし、全て覚えるなんて馬鹿な人はいないから当然よね」

ランが言い終えると、競技場全体に割れんばかりの大歓声が沸き起こる。ディーンとランは競技場へと目を向けた。──選手入場だ。
ハリーは非常に緊張した様子であったが、ロンとハーマイオニーらがスキャバーズが齧ってボロボロにしたシーツで作った“ポッターを大統領に”という、色鮮やかに点滅して大観衆の頭上に高々とはためく旗を見るなり、少し頬を綻ばせたのが分かった。絵の上手いディーンがグリフィンドール寮のシンボルであるライオンを描き、ハーマイオニーが少し複雑な魔法を掛けて、そのライオンが光るようになっている。その上、ロンにせがまれたランが、旗全体に風に靡く浮遊呪文と試合状況によって色が変化するように色彩変化呪文を掛けたのであった。


「さあ、皆さん。正々堂々と戦いましょう」
フーチ審判の声が競技場全体に響き渡る。きっとSonorus響けの拡声呪文を使っているのであろう。

「よーい、箒に乗って」
フーチ審判の銀の笛が高らかに鳴った。十五本の箒が空へ舞い上がる。高く、更に高く。試合開始だ。

「さて、クアッフルはたちまちグリフィンドールのアンジェリーナ・ジョンソンが取りました──何て素晴らしいチェイサーでしょう。その上かなり魅力的であります」
「ジョーダン!」
「失礼しました、先生」

双子の兄達の仲間であるリー・ジョーダンがマクゴナガル先生の厳しい監視を受けながら実況放送をしている。ランはよくあそこまで口が回るものだと感心して、少し笑った。

「ジョンション選手、突っ走っております。アリシア・スピネットに綺麗なパス。オリバー・ウッドは良い選手を見つけたものです。去年はまだ補欠でした──ジョンソンにクアッフルが返る。そして──あ、ダメです。スリザリンがクアッフルを奪いました。キャプテンのマーカス・フリントが取って走る──ゴールを決めるか──いや、グリフィンドールのキーパー、ウッドが止めました!」

ランは次から次へと渡るクアッフルを目で追いながら、時に目を凝らした。

「クアッフルは再びグリフィンドールへ!あ、あれはグリフィンドールのチェイサー、ケイティ・ベルです。フリントの周りで素晴らしい急降下、ゴールに向かって飛びます──あいたっ!これは痛かった。ブラッジャーが後頭部にぶつかりました──クアッフルはスリザリンに取られました──今度はエイドリアン・ピュシーがゴールに向かって走ります。しかし、これは別のブラッジャーに阻まれました──フレッドなのかジョージなのか見分けはつきませんが、ウィーズリーのどちらかが狙い撃ちをかけました。グリフィンドール、ビーターのファインプレーですね。
クアッフルは再びジョンソンの手に。前方には誰も居ません。さあ飛び出しました──ジョンソン選手、飛びます──ブラッジャーが物凄いスピードで襲うのをかわします──ゴールは目の前だ。いけ、頑張れ、今だアンジェリーナ──キーパーのブレッチリーが飛び付く──が、ミスした──グリフィンドール、先取点!」

リーが叫び、得点板のグリフィンドール・チームに十点が加えられる。グリフィンドールの大歓声が競技場いっぱいに響き渡り、スリザリン側から溜め息があがった。


ラン達が試合に見入っていると、不意に太い声がかけられた。

「すまんが、ちょいと詰めとくれ」
「ハグリッド!」
「!!」
ハグリッドは丈の長いコートにくるまり、ビーバー皮の大きなブーツを履いていた。首からは双眼鏡を掛けている。モジャモジャの髭面から覗く黄金虫のような瞳がラン達を見下ろした。ラン達は距離を詰め直し、端にハグリッドが座れるよう広く場所を空けた。

「俺も小屋から見とったんだが、やっぱり観客席で見るのとは違うんでな。スニッチはまだ現れんか、え?」
「まだだよ。ハリーは今のとこすることがないよ」
ロンが答えると、ハグリッドは頷いた。

「トラブルに巻き込まれんようにしておるんだろう。最初はそれだけでええ」
ハグリッドは持って来た大きな双眼鏡を上に向けて、豆粒のような点をじっと見た。それがハリーなのだ。
暫く見て双眼鏡を降ろしたハグリッドが目を降ろすと、ランと目が合った。

「ん?お前さんは、確か…」
「はい、ロンの姉のラン・ウィーズリーです。宜しくお願いします」
「お、やっぱりそうか!お前さんの話は、チャーリーや双子のウィーズリーからよーく聞かされているんでな」
お茶目にウインクをするハグリッドに、ランは苦笑した。

「私も、チャーリーや他の兄達からお話しを伺っているわ。魔法生物の話、私も聞いてみたいな」
「おお!いつでも歓迎するに決まっとるだろう!」
ハグリッドはご機嫌に笑ってランの背中をポンポンと軽く叩いたが、ランはその余りの力の強さにディーンの背中へ鼻からつんのめってしまった。
痛む鼻を摩りながら、ランは苦笑しつつディーンに謝った。

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